10
「何でお前がついてくるんだ西野」
「いいだろ」
「よくない」
「まあここまで来てしまったら仕方ないな。それに、リリー、君も人のことは言えないと思うね。私だけに任せても良かったはずだよ」
リリアン、アレックス、隆弘の三人はアレックスの車で深夜の自宅へ向かっていた。豪雨が相変わらずの勢いで車のフロントガラスに打ち付けられ、銃弾に連射されているかのような強烈な音がする。ライトもつけているが意味を成していない。
「しかしこの雨ではさすがに道路も空いているな。もうすぐ着くよ」
ぼやける視界の先に、深夜の住むマンションが見えてきた。オートロックなどはついていない、ごく普通のマンションだ。車を横付けし、隆弘とリリアンが飛び降りる。すぐにアレックスも続いた。三人はマンションに入るとまずは管理人室を訪れた。事情を説明し、深夜の部屋まで同行してもらった。万が一何かあって鍵が閉まっていた場合、マスターキーで開けてもらう必要があるからだ。
深夜の自宅に辿り着くと、真っ先にアレックスがチャイムを鳴らした。しばらく待つが、反応は無い。
「霧、私だ。いたら開けてくれないか」
「おい、なにしてやがる」
「深夜ー? いるかー?」
反応がない。アレックスがドアに手をかけると。
「……!」
抵抗が無い。ドアは鍵が開いていたのだ。
「霧っ!」
アレックスがドアを開け放ち飛び込む。リリアンが続こうとしたが隆弘に止められた。
「てめぇはここで待ってろ。何かあったら叫ぶから、すぐさま逃げろ。俺たちのことは気にするな」
隆弘も部屋に入っていく。リリアンは不安げな管理人と共に玄関先に立っていた。いてもたってもいられない。すると、突如、奥からアレックスの大きな声が聞こえた。
「霧っ!!」
「深夜!?」
その声にリリアンは思わず家に足を踏み入れた。声がしたのは寝室の方だ。靴を脱ごうとすると。
「てめぇはそこにいろッ!!」
隆弘の怒号が飛んできた。思わず立ち止まる。
「リリー、救急車だ! 救急車を呼べ!! 隆弘は何か長い布を持ってきてくれ!」
「…!」
震えが止まらなくなった。深夜に何事かあったのだ。ふらつきながらも何とか外まで出て、スマートフォンを取った。手元がおぼつかないが、何とか番号をかけることができた。電話口にいる管制室の人の声を聞いているうちに徐々に気の動転が収まってくる。何とか場所を伝えることができ、電話を切ると、いつの間にか隆弘が隣にいた。
「…西野…」
「大丈夫だ、大したことじゃねぇ。…生きてる」
「…何があったの」
「君は気にする必要は無いよリリー。それより救急車は?」
「アレックス…この天気だからちょっと遅れるかもしれないけど十分以内には着くって」
「分かった、ありがとう」
結局、リリアンは深夜が担架で運ばれていくときまで、深夜をちらりとも見られずにいた。運ばれていく深夜は血の気が引いた姿で、力なく横たわっていた。再び震えが起こる。隆弘はそんなリリアンの肩を優しく抱き、さすって落ち着かせようとしてくれた。その人肌のぬくもりは何よりリリアンを安心させてくれた。
「大丈夫、だよな…?」




