第1話 ハズレ職
はじめまして。
今回から『Linker ―紡ぐ者―』を連載していきます。
楽しんでいただけたら嬉しいです
十歳の春。町の中央にある神殿は、人であふれていた。
この世界では、十歳になると誰もが「適性鑑定」を受ける。 剣士。魔法使い。治癒術師。商人。鍛冶師。 そして、テイマー。
与えられた職業とスキルが、その後の人生をほとんど決めてしまう。
「次、ベル・アストリア」
名前を呼ばれ少年が祭壇の前に立った。
付き添いの家族はいない。
孤児院の院長が、後ろで見守っているだけだ。
神官の手が額に触れる。
淡い光が広がり、文字が浮かんだ。
【テイマー】
ざわり、と空気が揺れた。
「スキルは……1つだけだな」 「なんていうスキルですか」 「【リンカー】効果は私にも分からない」
笑い声が起きた。
「テイマーで、スキル1個って」
「しかも効果不明かよ」
「ハズレじゃん」
テイマーは、魔物を力で屈服させて契約する職だ。 戦う力がなければ、契約すらできない。
強いスキルのないテイマーは足手まとい――それがこの世界の常識だった。
ベルは何も言わず、自分の手を見つめた。
◇
五年後。
十五歳のベルは、冒険者たちの荷物を背負って森を歩いていた。 荷物運び、素材の整理、食事の準備、道具の手入れ。
スキルが使えないため戦えない。
自分にできる仕事は何でもやった。
胸元では、小さな銀色の鈴が揺れていた。
今まで1度も音の出たことがない鈴だ。
「まだそんなもん下げてんのかよ。鳴りもしねえのに」
冒険者の一人が、指で鈴を弾いて笑った。
ベルは黙って、鈴を服の中にしまった。
「お前、テイマーなんだろ? 契約した魔物は?」 「……いません」 「5年だぞ、5年!」
笑い声。もう慣れた。
慣れたふりが、うまくなっただけかもしれない。
それでも諦めなかった。
魔物について知ることだけはやめなかった。
生息地。食べ物。癖。攻撃の前触れ。
図書館の本を暗記し、冒険者の話に耳を傾け、森では痕跡を観察した。
力で屈服させられないなら、せめて知識で。
いつか誰かが、自分を選んでくれる日のために。
◇
その日、ベルは薬草を探して、一人で森の奥へ入った。
「……血の臭いだ」
茂みの先に、小さな狼が倒れていた。
銀色の毛。脚には深い傷。
図鑑の記憶を探しても、どこにも載っていない姿だった。
狼は牙をむいて唸る。
けれど、立ち上がる力はないようだ。
「何もしないよ」
ベルは両手を上げてしゃがんだ。
「傷を見せて?」
唸り声が強くなる。
それでも目を逸らさず、ゆっくりと近づいた。
布で傷を押さえる。噛まれなかった。
水を差し出すと、狼は警戒しながら舐めた。
「……名前はあるのかな?」
もちろん返事はない。
なのに、ふいに1つの名前が口をついて出た。
「ルナ」
自分でも理由が分からなかった。
ずっと昔に、誰かがそう呼んでいた気がした。
狼の耳が動く。鼻先が、ベルの手に触れた。
胸の奥が熱くなった。
胸元で鳴らないはずの鈴がかすかに震えた。
淡い光が二人を包み消える。
目の前に見たことのない文字が浮かんだ。
【契約を確認】
【リンカーが反応しました】
「……リンカー?」
屈服させたわけじゃない。
傷を見て、名前を呼んだだけだ。
それでも契約は確かに結ばれていた。
続けて、ステータスが開く。
【ベル】Lv1 HP 30 速度 7
【ルナ】Lv3 HP 18/42 速度 31 種族:???
【リンク補正】HP+21 速度+15 ほか
「俺にもルナのステータスが加算されてる?」
立ち上がる。身体が嘘みたいに軽い。
そのとき、ルナが低く唸った。
茂みが揺れ、緑色の影が三つ飛び出す。
「ゴブリン……!」
戦った経験はない。足が震えた。
けれど、頭の中で五年分の知識が動いた。
ゴブリンは力任せに武器を振る。
振る直前、踏み込む側の足に体重を乗せる。
――右足だ。
「右!」
棍棒が空を切った。
今までの自分なら、避けられなかった。
ルナの速度と、積み上げた知識。
その二つが重なって、初めて形になった。
ベルは懐に飛び込み、拳を叩き込む。
ルナも銀色の影になって駆け、爪でもう一匹を切り裂く。
三匹目が倒れたとき、森は静かになっていた。
「……倒した、のか」
拳が震えている。怖かった。
今も足は震えている。 それでも――。
「俺が…魔物を倒した」
ルナがそっと隣に座る。ベルはその頭を撫でた。
◇
帰り道、小さな川で足を止めた。
水を飲もうとかがんで、ベルは固まった。
水面に映る自分の姿に困惑した。
いつもは黒髪なのに、銀髪になっていた。
「……え?」
つまんでみる。間違いない。
隣には、同じ色の毛をした小さな狼。
水の中から銀色の少年と銀色の狼が、こちらを見ていた。
第1話を読んでいただき、ありがとうございます!
次回からベルとルナの冒険が始まります。
よろしくお願いします!




