16】DISCOMFORT
「ベイズ,アンドル、それを見て。」
それはガエンジルバウム王家の紋章が刺繍されたタペストリーだった。
ここは、マグナD.R に隣接する王立レガンダ国際大学学生寮の1室だ!
昨日アンドル宛に届いた荷物の中身だった!
メッセージカードには「愛しのアンドルへ!貴方のマリーより❤️」とある。封印がわりに
キスマークがつけられている。
王女が面白がって書いている姿が想像できた!
「2人ともこの紋章に違和感はない?」
荷物を解くや否や王女が意識に入ってきた!
ベイズが口を開いた!「なんだ?この変な生き物は!」
「冗談ですよね?サンドワッパーですよ!我が国の象徴ですよね!かつて架空の生き物とされていたのですが、200年前、メゲレスの大砂漠で発見され、国を挙げて式典が行われたと習いましたよ!」アンドルが答えた。
ベイズは訝しげに呟いた。
「これは暗示、つまりは人々の記憶の上書きをされてしまったってことか?」
「そうよ!呪いをかけられる前の記憶を持つ者にとってこの紋章は嘘、デタラメでできているのよ!
アンドル、本来ここには4体のワイバーンが描かれていなければいけないの!」
「マリエ様、申し訳ございません。ワイバーンとは?一体どのような…?」
「そこか?魔王の奴、やってくれたよな。あの瀕死の状態で敗走しながら、すべての者の意識を上書きしたっていうのか?」
「いや、魔王だけなら事は単純だったでしょうね!」
「そうじやないと?」ベイズが訊いた。
「それについてはあとで話すわ。それより、もう一枚のタペストリーを見てくれる?これは現在の世界地図よ!ラギア王国としてクレメゾンピークを中心とした小国が今の私たちの所領となっているけれど、本来、現在のラギアはガエンジルバウム王国の首都の一部に過ぎなかったのよ。そしてわが王国は虹の大陸の全土と北部海洋域に点在する衛星国家群とキュエレル大陸の東部沿岸全域を統治していたのよ。」
「アンドル、先ほどメゲレスの大砂漠と言ったけれど、本来メゲレスの地は肥沃の大地、すべての種の起源と呼ばれるほどにエランに満ち溢れている実り豊かな地域だったの。しかも、そこは世界で唯一我が王家の象徴たるワイバーンが生息する地なのよ。」
「なので、せっかくだからビー・ザ・シーに備えてサンドワッパー50体と至虹石50ソルを調達することにしました!」
「えっ!じゃあビー・ザ・シーが成功すれば、その変な生き物はワイバーンに変わるということなのか?」ベイズが信じられない!といった表情でつぶやいた。
「ええそうよ!そして同時に紋章の絵柄も書き換わるはずよ!」
王女の声は弾んでいて楽しそうだった!
アンドルが口を開いた!
「質問です。サンドワッパーは野生で、しかもマーケットすらない。となれば捕獲するところから始めないといけないですよね⁉︎ 至虹石も希少鉱だから同様に採掘から始めないといけないのではないでしょうか?」
「アンドル、良い質問ね!安心して、あなた達に獲りに行けとはいわないわ!実はもう調達の手配は完了しているのよ。あとは届くのを待つだけよ!」
ベイズが口を開いた。
「こんな厄介な仕事を引き受ける変わり者がいるのですか?」
「大丈夫よ!その者たちはケイのお墨付きだから!」屈託なく笑いながら語る王女の声は弾んでいた!
「ところでさっきの話ですが、我が国にかけられた呪いと結界は、魔王の仕業、ではないのですか?」
「魔王がこんな回りくどい事しないと思う!これほど用意周到で、細かく記憶改竄するなんてどう考えても姑息な人間の考えそうなことよ!200年前に魔王を召喚し、世界に戦線布告し、いざ戦って最後に負けそうになると、復活の為の時間稼ぎの為に万人の記憶改竄をと我が国への呪いをかけた…全ては、これら一連のことを裏で画策した人間がいるはずよ!」
「そこで本題!もう一枚のタペストリーを見て!」
「ネージャーの紋章よ!ベイズ、違和感を感じない?」
「特に違和感はないな!ネージャーのシンボル、グリフォンが描かれている‥」
「自分も違和感はないないですね。」
アンドルがつづけだ。
「そう、アンドルも、そしてベイズと私も違和感を感じない!これって大事なことよ!ネージャーの紋章だけが200年前と変わっていないの!他の国の紋章は悉く改竄されているの!ライオンが豚のような生き物に、鷹がアヒルのような鳥に、ワイバーンがサンドワッパーに!ところが、ネージャーの紋章だけが変わっていない!それは、変える必要がなかった!つまるところ、敵はネージャーに所縁のある者に違いないわ!そして、200年前に忽然と消えた我が国の禁書庫に保管されていた無数の重要文献!時を同じくして、ネージャー王立図書館マグナリオが開館した。そこは世界のありとある書物を集積、保管する施設であり、それを国の内外にアピールすることで一大データベースを構築、あたかもデータに自由にアクセス出来るかのようにように見せてその実、彼らにとって不都合な内容の文献を管理下に置き隠すことを目的として造られた施設なのよ!つまり、おそらく、あなた方は敵の本拠地ともいうべき危険な場所にいるということ!その自覚を持って行動するのよ!」




