12】MESSER WOLFF
メッサー・ヴォルフ教授の部屋から下手くそな口笛の音とキリキリと機械のような音が聞こえてきた!
中を覗くと、教授の目がグルグルと回転しドンドン奥に沈んでいき、次の瞬間キリキリ音が止まり、パカっと音を立てて額が真横に割れた。 そこを支点として額から下が上に持ち上がった。その中は無数の歯車が所狭しと配置され目まぐるしく動いていた!教授は右手でパイプ部分が長めのオイルさしをつかんで奥のほうにある部位に油をさしながら、顎の近くにある外れかかった空気チューブの接続部分を左手でしっかりと接続し直していた!
コンコン!
中から 玄人はだしの口笛が聞こええていたが、静かになった!
「アンドル・セレーとベルーア・カナベルです。」
「入り給え!」
教授の顔は元に戻っていた!
「アンドル君、改めて我が教室にようこそ!君のような優秀な人材が編入してくれることになってとても嬉しく思います。」
「授業でのあの訳文はとても素晴らしかったよ!」
「ありがとうございます!お褒め頂き恐縮です。でも、先程聞こえてきた口笛はまるでプロの奏者並みにお上手でした!今度、ご教示いただけないものででしょうか!?」
「自分で吹くのと人に教えるのとでは雲泥の差があることを教職にある身としては分かっているつもりです!それに、わたしの場合、体の中に予め仕込まれている笛が鳴っているだけなのですから!」と笑った!
マリアが意識介入してきた。
「2人とも気をつけて、この教授、オートマタよ!やたらなことを言うと、怪しまれるわ!あと、わざと間違えたフリをしてボロを出させようとするから注意して!」
「しかし、ラギア王国からの編入者は珍しいですよ!」
「教授、違います!どなたかとお間違いではないですか?私はオラーニュ公国オンバルナス子爵家で代々財務担当をしておりますブリオロス・ペレスのひ孫に当たります。決してあのような小国の出身ではございません!」
アンドルを差し置いて、介入してきたマリエが答えた。
「何と、あの【フロテスタンゲオルグの公理】を導き出した 経済学、社会学の名著『不可逆的可否仮説の番人』を著した方のご家系とは思いませんでした!思い間違いでございましたね。」
「陛下、こんな有名な学者を引き合いに出しちゃって、ボロは出ないのですか?」
「ブリオロス・ペレスはその名著のおかげで莫大な財を築いたのよ!生涯に6回の離婚歴が有り、7人の妻の間に何人の子がいたかしら⁉︎そのひ孫ともなればその数は3歩歩けば忘れてしまうくらいの人数だわ!女癖も相当悪く嫡出子と呼べない子もたくさん居たそうよ!その者達が子だ!孫だ!ひ孫だ!って言い始めたらどれだけの数になるか?数えきれないという言葉はこの人のことを説明す為にある言葉よ!」
「そうだ、忘れるところでした。こちらが図書館の入館証です。」
これで魔王の呪いを解く鍵に一歩近づいたわけだ。
「あと、ベル君、クラス委員の君が学内を案内してあげなさい!語学に堪能な彼と文献に詳しい君は、きっと気があうはずだよ!お互いに刺激を受けるといいでしょう!」
「ベイズ!やりましたね!これはチャンスですよ!彼女相当優秀です。この出会いは神の、いや、マリエ様の思し召しでしょう!文献探しに光が見えてきました。」
ベイズは、アンドルの言葉とは裏腹に、メッサーヴォルフのあまりの胡散臭さに、油断すると足をすくわれ兼ねない危険を孕んだ任務だと感じていた。下手をすると無関係な彼女にも危害が及ぶ可能性も考慮して行動する必要があるだろう。




