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10】SAND WAPPAR

メゲレスの大砂漠、砂の大地にゼゲレオスという銀色の動物がいた!その蹄ひづめは特殊で、独自の進化をしたのだろう、四足で砂の大地を軽やかにしかも俊足で走る事ができた!気性は大人しく、人にもよく懐くことから、俗に砂の民と呼ばれるメゲレス地方に古くから棲すむ少数民族ガゼルホルンたちは、この動物を家畜として、交通手段として、あるいは物資の輸送手段として使役し、とても重宝してい

 一日の日照を終えて陽が陰りかけた見晴るかす広大な砂漠

 遠くに見える夕日に染まる岩山と、無限に色と形を変える雲‥息を呑む美しい景色が広がっていた!

 と‥巨大な砂煙すなけむりが間断なく続く振動とともに近づいてくる。

 「どうどうどう、怖くない怖くないよ!いい子ね!いい子だから!」」

 「J.J.、後からゆっくり付いてきて!この子、怯えているわ!」うしろに声をかけた!


 .とマリア・ガゼルはサンドワッパーと並行してそれぞれ自分のゼゲレオスに乗って走っていたが、マリア・ガゼルが速度を上げ、今、その背中にバランスを取って立ち上がったと思ったら、次の瞬間、忽然こつぜんとその姿は消えていた。

 彼女はいつのまにか恐怖で我を忘れて暴走するサンドワッパーの背中に綿帽子が舞うように、ふわりと飛び乗っていた!それはかつて、剛ごうで鳴らしたマリア・ガゼルがJ.J.との稽古の中で身につけた柔じゅうの動きだった!

 マリア・ガゼルは目を瞑つむリ、額ひたいをサンドワッパーの背中につけて両手を一杯に広げ、優しくサンドワッパーの身体を撫でてやりながら恐怖を癒いやすための思念を送り込んでいるかのようにも見えた!

 しばらくして、徐々にサンドワッパーの動きが遅くなり、今まで垂直に立っていた2本の触角が身体の中に収納され、やがて動きが止まり、何事も無かったかのように大人しくなっていた!

  しばらくして、追いついてきたJ.J.が話しかけてきた。

「なんとか落ち着いたか!一時はどうなるかと思ったよ。いや、それにしてもお前を連れてきて正解だったな!マリア・ガゼル!」マリア・ガゼルは思念を通してあらゆる生物と意思の疎通ができた。


「J.J.これを見て!」

そう言ってマリア・ガゼルがJ.J.に手渡したものは見知らぬ文字がぎっしり書かれた手の平サイズの金属プレートだった!


「これがこの子のクビに付けられていたの!多分、普通なら無反応なのだけれど、脱皮してすぐの敏感な皮膚につけられたものだから、ビックリしたんだと思う!裏側についている4本の鋭い針が鋭角に肉に突き刺ささり抜けなくなるように工夫されている。」

印綬(いんじゅ)のようなものか?」

「ネージャーの技術省が使う呪術符(じゅじゅつふ)と言ったところかしら!それと、そのプレートには通信儀が付いていた!何者かが、何らかの理由でこの子達の個体数と移動履歴を把握するために取り付けたのだと思う!」

「すでに捕獲した49頭には付いていなかった!?成体になるのに3年、捕獲した49頭はギリギリこのプレートが取り付けられる直前に捕獲したこということか!しかし、通信途絶はまずいな!」

 フローリス・クレメンテ技師は教授が苦手だった!始めて調査依頼を打診してきた時の印象が良くなかった!心がまるで感じられないのだ!フローリスは常日頃心がけていることがあった!それは、出来るだけ人が持つ良い面を見つけてそこを意識しながら接すること!完璧な人物など自分も含めいないのだというところから、人には嫌なところもあるけれど良いところも必ずあると言う心がけでいるうちに、ふと気がつくと、周りから苦手な人間がいなくなっていた!ところが、この教授と出会って違う認識を持つに至った!心を通わすことができない存在があるということ!他を威圧する重量級の威圧感が半端ない。黒い巨大な鉄の塊がもし凍ったとしたら、メッサー・ヴォルフ教授になるだろう!


ネージャー王国技術省生態系監視院の床一面にメゲレス大砂漠の地図が描かれていた!その中央に0.5メトロ大の球体が浮いていた。通信儀の親機おやきといったところか?先程からアラート音がなっている!

地図上の1点が点滅し始めた!

一旦無効にし、再度有効化を試みた!3呼吸ほどの短い時間で、再有効化は完了した。が、

だめだ!点滅が止まらない!

親機側の使っていない新たなポートを開いて、再接続、反応を確認してみることにした!これには30呼吸ほどの時間を要する。この待つ時間は、とても長く感じる。もしまたこれで点滅が止まらないようだと、あの苦手な教授に報告しなければならない!背中を冷たい汗が一筋、スーッと落ちていくのを感じた次の瞬間、再接続完了し、一瞬赤く光ったが、そのあとは点滅が消え、安定した状態が続いている!

メッサー・ヴォルフ教授への報告は不要のようだ!安堵したことで飲み込み、溜め込んでいた憂鬱ゆううつが嘘のように消えて無くなった!

砂漠の地中に奇跡の果実が存在した!地下10メトロほどの深さに1メトロほどの大きさの水分を多量に含んだ柑橘かんきつ系の実をつける。その根は細く長く地下100メトロにある地下水脈まで通じている!単体で実を成すものもあれば、ふさ状に複数個で群生する場合もあり、砂の民を含めこの砂漠に生きとし生ける全ての生物がその恩恵に浴していた!

「マリア・ガゼル!助かったぜ!ギリ、セーフだよなぁ?」

「大丈夫!エランネーブルの皮が通常のものより分厚くて少し焦あせったけれど、うまくいったわ!」

砂漠の奇跡、エランネーブルの巨大な実に先ほどの通信儀付きの金属プレートが取り付けられていた!いずれバレるかもだが、当分はごまかせそうだだ。

?????

陽は沈み、空に浮かぶ2つの月。その光に照らし出された砂漠の風が自然に描き出した「波状文様はじょうもよう」が美しい。この砂漠の夜は意外に明るかった!

声が聞こえてくる先はどこだろう?

と、居た!直径20メトロ深さ10メトロほどの深さの巨大な蟻地獄ありじごくといったところか、その底に見覚えのある2つの人影と2頭のゼゲレオス、そして1体のサンドワッパーが見えた!

 「この子がネーブルの場所を教えてくれた!いい子だわ。ねえ、そう思わない?」そう言いながら、J.J.をジーっと見つめた!

 「‥ダメだ!マリア・ガゼル!こいつが気に入って手放したく無い気持ちはよくわかった。だが、もう1頭捕獲している時間はない。こいつを50頭目にする!」

 マリア・ガゼルはJ.J.に少し顔を近づけ、更に目を見開き無言でJ.J.を凝視した。

 「瞳孔が開きすぎだ!そんな含みのある目で俺を見ても何も出ないぞ!だいたい、この先、万が一にももう1頭捕獲出来たとして、その個体には必ず呪術符が取り付けられている。それをどうやっで外すんだ?」

 「もし、仮に、呪術符が付けられていない個体があるとしたら?」

 「いたとしても、捕獲している時間はない!」

 「捕獲する必要がなければOKよね!」

J.J.は訝いぶかしそうにマリア・ガゼルを見た。

 マリア・ガゼルはエランネーブルで水分補給をしていたサンドワッパーに軽く触れて「呼んでもも大丈夫よ!OKが出たわ!」

 それを理解したのか、サンドワッパーは水分補給をやめてマリア・ガゼルの方に向きをさ変えると体を少し反らしながら、人間には聞き取れないのではないかと思われる細く鋭い音を発した!

ワラワラと地面が振動をはじめた。次の瞬間、砂が大きく隆起りゅうきし、一頭の真っ白なサンドワッパーが現れた!

「一頭目に呪術符が取り付けられる時、そばにいたみたい!で、とっさに隠れて呪術符は取り付けられなかった!二頭は兄妹で兄が暴走した時からずーっと私達の後をついてきていたのよ!だから彼女は、ことの一部始終を知っていて、私達と一緒に行きたいと言っている。」

「わかった!了解だ!但し、あくまでこれはビジネスだ!いずれ、時が来れば依頼主に引き渡さなければならないんだぞ!そこはわかっているんだろうな!」

「わかっているわ!ても、私、なんとなくだけれど、この子達とズーッと一緒にいるような気がするの!」

「未来が、見えるのか?!」

「いいえ少し違うわ!でも、確信を持って言える!私のこの想いが、この子達とJ.J.とそして私が一緒にいるという未来を作るのよ!」


後にこの2人と2頭が、魔狄まてきとの戦いで大活躍すことになるのだが、今は未だのお話し。

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