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第9話 アル-シャの実力

 ライトとアル-シャは草原に辿り着いた。いちようここからは道がある。だから茂みを避けて通ることができた。

 前も言ったがこの辺の魔物は比較的に大人しい。だが無暗に戦っては可哀想だ。故にアル-シャはなるべく好戦的な魔物を倒すようだ。特にゴブリンのような魔物とかを。

 ゴブリンは腰くらいの高さの魔物だ。しかも実に巧妙なくらいに好戦的だ。一匹いれば数匹は群れていると考えるべきだろう。


 ライトとアル-シャはまだ出会ったばかりだ。お互いのことをなにも知らない。これからが心配になるがアル-シャの実力とはいかに。

 そんなアル-シャは先導することに集中しているからかライトと交流することがなかった。むしろ逆に一人で張り切っている様子だった。

 これではどっちがゴブリンなのかが分からない。それはライトも薄く感じていた。こうして見れば人も魔物も好戦的なのだろう。実に恐ろしいことだ。


 凪の世界で人は憩いの場所になにを感じたのだろうか。物寂しさ。悔し涙。あるとあらゆる感情が押し寄せてくる筈だ。なのに人は一つのことしか集中できなかった。

 むなしさの残る世界に唯一の希望が新たな場所を求めて旅をしている。世界を照らし出すのはきっとライト達だろう。そう思えるのに時間はいらない。


 だが今のライトは銀髪赤眼だった。この髪色は世界では灰被りの出来損ないと呼ばれていた。なぜならどこの属性にも当てはまらなかった。不遇の髪色だった。

 その逆境に苛まれるのはもう必然だろう。ライトはもう既に覚悟を決めていた。身近のアル-シャを信用した訳ではない。だが少なからずアル-シャは理解者になり得た。


 期待外れはごめんだと思うライトをよそにアル-シャはようやくゴブリンに狙いを定めた。あのゴブリンはレッサーが頭文字につく。実に好戦的な魔物だ。

 にしても道なりだとすぐに見つかってしまうと二人は思った。だがもう見つかっても良い覚悟でいかないと茂みの中のゴブリンと遭遇してしまう。

 故にアル-シャは急に走り出し帯剣を腰から引き抜いた。全てはライトに実力を見せるためだ。一方のライトは見届けようとアル-シャのあとを追った。


 さすがに足音やその他の気配でアル-シャはレッサーゴブリンに気付かれてしまう。レッサーゴブリンの装備は錆び付いた短剣に錆び付いた楯だった。

 曲がりなりにもそこそこ良い装備だった。だが錆び付いた部分を除く方法を思い付かなかった。今のアル-シャなら余裕だろう。油断さえしなければ。

 今ここにアル-シャとレッサーゴブリンが対峙した。今から始まるのは一対一の闘いだ。双方の生死が係っている。だがアル-シャのことだ。無防備ならば逃がすだろう。


 まず荒ぶる勢いで突っ込んできたのはレッサーゴブリンだった。レッサーゴブリンは錆び付いた短剣を振り回していた。実に乱雑だが当たれば痛いでは済まない。

 今のアル-シャならば魔法で応戦もできた。だがそれでは実力にならないし手順がむしろ逆に悪いと感じ取った。ここは潔く剣術で対処しようとしていた。

 どんどん近付いてくるレッサーゴブリン。と急にアル-シャは走り出した。そして間合いが詰まると帯剣を振り上げレッサーゴブリンの短剣を弾き飛ばした。


 一瞬の出来事だがあの乱雑に振り回していた短剣に当てるというのは至難の技だ。見事としか言いようがなかった。ライトも思わず見入ってしまった。

 だがレッサーゴブリンはまだ諦めなかった。レッサーゴブリンは楯を構え体当たりを仕出かした。余りの気の早さにアル-シャは戸惑った。


「危ない!」


 思わず声を上げるライト。一方のアル-シャは戸惑い遅れての魔法を発動しようとした。だがそれは間に合わないとライトは跳び上からレッサーゴブリンを抑え込んだ。


「く」


 実にアル-シャは悔しそうだった。手順が逆ならば勝てたかも知れなかった。やはり慢心は死を生むと双方が理解し始めた。人は独りでは不器用なままだろう。

 ライトは抑え込んだレッサーゴブリンの顔面に気絶するほどの威力を与えた。レッサーゴブリンの顔面からは煙が立っていた。静かに立ったライトは振り返る。


「す、すまない。私としたことが」


 この時のアル-シャは実に恥ずかしそうだった。顔を逸らし目線を合わせようとはしなかった。アル-シャの実戦はこれが初めてに近かった。


「怪我はないか」


 ライトが詰め寄る。幸いなことにアル-シャに怪我はなかった。だが心に傷ができた。それは劣等感という言葉の挟み撃ちだ。


「実はな。私は実戦を余りしたことがなくてだな」


 噛み合わない会話にライトは深く溜め息をついた。そしてライトは意味もなくアル-シャに抱き付いた。


「よかった、本当に」


 これ以上に失いたくはなかった。兄さんのようになってほしいがなかった。ある意味でライトにも心の中に病んでいる部分があった。


「ちょっ!? ……ああ。温かい」


 アル-シャはライトの懐が温かいと感じた。これは初めての経験だった。そもそも身分をわきまえないライトにアル-シャは胸の高鳴りを覚えた。


「俺があんたを守る! もう……これ以上に失いたくはない」


 段々と萎れていく花のようにライトもまた勢いが衰えていった。凄く真剣な言葉にアル-シャは涙した。ライトは涙に気付かなかったがアル-シャの心の拠り所となった。


「ああ。守ってくれ。私でよければな」


 アル-シャもライトも不思議な感覚だったが恋とかではなかった。ましてや愛でもなかった。お互いの傷を舐めあう関係に近かった。


「でいつまでこうするつもりなんだ?」

「は!?」


 と言いつつアル-シャから離れ赤面と化すライト。思わず目線を外してしまう。そんなライトを見てアル-シャは遂に吹き出してしまう。


「ふ。はは。有難うな。ライト」


 未だに赤面なライトは目線をちょっとずつ合わせていた。急に恥ずかしくなるなんて俺らしくないと思い始めていた。


「いこう! 先はまだ長い! 私も決めたぞ! ライトを守るとな!」

「ふ。……ああ。お互いさまにな。いこう! 次の森へ!」

「ああ!」


 お互いがお互いを助け合えば自ずと道は切り開けると双方は思った。故にライトとアル-シャはこれからも助け合うことだろう。

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