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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第2章 王都編
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第89話 加護の授与式とアウレラの暴走

「この部屋です。準備はよろしいですか?」

「は、はい」

「少し緊張されてますね。それほど時間はかかりませんから大丈夫ですよ」

「はい」


 ミヒール司祭とクロアは、教団本部の一番奥にある、格式の高い儀礼全般を執り行う部屋「聖光殿」の前に来ていた。


「それでは入ります」

「はい」


 中はかなり大きな部屋で、正面に祭壇があり、その上に青白く光る玉があるのが最初にクロアの目に入った。

 なぜか、その青い玉にクロアは惹きつけられたが、かつて、ここでトキオを召喚する儀式が執り行われ、その玉の光がトキオがこの世界にいることを示しているということを、当然のことながらクロアは知らなかった。



「クロアよこちらへ」

 その声で初めて、クロアは祭壇の左に魔導士長と初老の男が二人、右に4人の魔導士が立っているのに気づいた。

 魔導士長は手で祭壇の前を指しており、その場所には重厚な法衣を着て冠を被った老人が立っていた。


「クロアさん、大司教の前へどうぞ」

 ミヒール司祭がそう声をかけたので、クロアはしずしずと祭壇への階段を上り大司教の前まで移動した。


「汝、魔女クロアよ、これよりそなたに聖光教団の加護を授与する。そなたに、聖光神の恩恵があらんことを」

 大司教はそう言うと、持っていた、上部が輪っか状になってその中央に水晶のような玉が嵌っている杖をクロアの頭の上にかざした。


 その途端、両脇にいた魔導士長たちがなにか詠唱のような言葉を唱え始めた。


 その詠唱が1分ほど続いた後に、大司教が杖をクロアの頭上で差し出すように振ると、その杖から青白い光が降りて来てクロアの体を包み込んだ。

 その瞬間、クロアは、体の中に生気のようなものが入り込んで来るのを感じた。


「加護はそなたに授与された。今後は、聖光神の恩恵のもと、世界の平和のために精進を欠かさぬよう」

「は!このクロア、その言葉を肝に銘じて精進に務めてまいります」

 クロアは右手を胸にあて、左膝を付いて深々とお辞儀をしながら言った。


「ご苦労であった。そなたの才能の高さは魔導士長から聞いておる。期待しておるが、焦る必要はない。魔導士たちの教えを良く聴き、精進することじゃ。下がって良いぞ」

 儀式が終わった途端、大司教は少しくだけた口調になって言った。

「は!ありがとうございます!」


 クロアは大司教の方を見ながら階段の前まで下がると、回れ右をしてゆっくりと階段を下りて行った。


「お疲れさまでした」

 ミヒール司祭は、クロアが近くまで来るとそう言って軽くお辞儀をし、ドアを手で示した。


 二人が外に出ると、ミヒール司祭は言った。

「これで光魔法が使えるようになりましたよ。ステータス画面で確認してみてください」

「ホントですか!?・・・ステータス!」


 クロアがステータス画面を確認すると、そこには、


【特殊魔法属性】

 光 Lv1


 という項目が追加されており、その部分をタッチするとさらに、


【特殊魔法属性】

 光 Lv1

 ・閃光弾:フライシャ

 ・防壁 :バリッド


 と、表示された。


「ホントだ・・・しかも、二つも」


 クロアは感極まって大粒の涙を流した。


「良かったですね。それでは、お城に参りましょう」

「はい!」


 クロアは、ミヒール司祭のあとをゆっくりと教団本部の出口に向かった。


 ・・・それは、着ている法衣のせいで速く歩けなかっただけなのだが。





 その頃、お城では・・・


「おや、勇者様。こんなところに来るなんて珍しいね」

 フラビア兵士長が言った。


「私も柔道を教えて貰おうと思ってな。フラビアも使えるようになって来たか」

「さすがにトキオ本人が教えてくれるだけあって、私だけじゃなくてみんな以前よりは随分と様になって来たけど、ヘンなクセがついちゃってたみたいで、それを矯正するのに少し時間がかかったね。もう少し早くトキオに来てもらって、最初からトキオに教えてもらいたかったよ」

「そうか。まあ、今からしっかりやれば大丈夫だろう」

「まあ、そうだけどね」


「それでは、勇者様そろそろ」

 トキオが横から声をかけた。

「おお、そうだな。よろしく頼む」


「まずは受身を覚えてもらいます。俺がコツを言いながら実演してみせますから、その通りにやってください」

「わかった」


 トキオは、言ったとおりに各種の受身を実演して見せた。

 そのあとに実際に勇者にやってもらったが、10分ほどですべて問題なくできるようになった。

 兵士たちは、乱取りをしながら、その様子をチラチラと見ていた。


「さすがですね。それでは、実際の技にいきましょう」


 そう言うと、二人は訓練場の中央に移動した。

 周りで乱取りをしていた兵士たちは、皆、手をやすめ、興味深そうに少し下がって二人を囲むように輪を作った。


 テリットたちも訓練場の隅でその様子を見ていたが、アウレラはすぐに兵士たちの輪をかき分けるように最前列に出て行った。

 周りの兵士たちは、見たこともない女が突然現れたので驚いたが、巨乳なうえにかなりの美人だったので、その姿に見入ってしまった。

 そのうち、外にいた兵士たちからトキオのパーティー仲間だと言うのが伝わったので、何も言わず、そのままにさせておいた。


「勇者様には技を体感してもらうのが覚えてもらうのに一番早いと思いますので、俺が今から色々な柔道の技をかけます。ですので、躱さないで俺に投げられてください」

 その言葉で、フラビアを含めた周りで見ていた兵士たちはざわめいた。


「了解した」

 勇者は表情を変えずにそう答えた。


「それではいきます」


 トキオは勇者の襟首をつかむと、まず、払腰で勇者を投げ飛ばした。

 勇者は素直に投げられたが、先ほど教えた受け身をきっちりととっていた。


「ダメっ!」

 勇者が投げられた瞬間にアウレラが小さな声でそう言ったので、そばにいた兵士たちは驚いてアウレラを見たが、アウレラの目には勇者しか入っていなかった。


 続いてトキオは内股をかけた。


「イヤっ!」

 また、アラレラが声を出した。


 次に、トキオは背負投を決めた。


「やめて!」

 また、アラレラが声を出した。



 その後も、勇者が投げられるたびにアウレラが声を出すので、周りの兵士はアウレラが勇者のファンになってるのを悟ったらしく、ニヤニヤした顔でその様子を見ていた。



「だいたいこんなところですね。じゃあ、今俺が使った技を、今度は勇者様が俺にかけてください。俺も、躱さずに投げられますから」

「わかった」


 そう言うと、勇者はしっかりとトキオの襟首をつかんだ。


「最初の技はこんな感じだったか」

 勇者はそう言いながら、トキオに払腰をかけた。


 トキオは投げられた直後に思った。

(ほぼ完璧な払腰じゃないか!1回投げただけなのに、勇者様恐ろしー)


「次はこれだったな」

 そう言うと、内股でトキオを投げ飛ばしたが、それもほぼ完璧だった。


 それから、次々とトキオがかけた技をかけていったが、どれもほぼ完璧な技になっており、順番もトキオが投げたとおりだった。


 アウレラは、トキオが投げられている時には、「やった!」「すごい!」とか言っていた。



「勇者様、1回投げただけでほとんどマスターしてしまうなんて、さすが過ぎて言葉もありません。恐れ入りました」

 トキオはそう言うと、勇者に向かって深々と頭を下げた。


「いや、まだまだだろう。お前の技の切れには及ばないと感じている」


(まあ、そりゃそうなんだけど、1回受けただけでここまでできる人なんかいないって!)

 トキオはそう思った。


「それでは対等に立会してもらっていいかな」

 勇者が言った。


「え?・・・まあ、いいですけど」

(これで俺が投げられたら立場ないよな。真剣にやろう)


「では、行くぞ」

「勇者様がんばってー!」

 そこでアウレラから声がかかった。

 勇者はアウレラの方を見て微笑むと軽く手を挙げた。


「キャー!」

 アウレラは、嬉しそうに悲鳴を上げた。


 トキオは、その様子を見てガッカリしたが、勇者が前進して来たので、あわてて気を引き締め、伸ばして来た勇者の手を払った。


 それからは、もう完全に柔道の試合になったが、お互いにかけられた技を巧妙に躱しながら決定打のないまま時間が過ぎた。


 3分ほど経ったところで、どちらともなく手を離して下がった。


 その瞬間、兵士たちから拍手が起こった。アウラレも、嬉しそうな顔で大きく拍手をしていた。


「ふむ、柔道というのはなかなか奥が深そうだな」

「そうですよ。まだまだ色々な技がありますから」

「そうか。それでは、私も自分で訓練してみるが、時々ここに来るので引き続き教えて貰えるか」

「もちろんです。いつでもどうぞ」

「よろしく頼むぞ」

「では、次に来た時には絞め技と関節技を教えましょう」

「なんだそれは。今日やったのとは違う種類の技か」

「今日やったのは投げ技だけなので全然違いますね。他に寝技というのもあります」

「そうか。それは楽しみだな。それでは、そろそろ失礼するぞ」

「はい!お疲れさまでした!」

 トキオはそう言って頭を下げたが、勇者は軽く手を挙げ、微笑んで訓練場から出ていった。


 それをアウレラが追いかけて行こうとしたので、さすがにそれはテリットが手を掴んで引き留めた。

「お前、いい加減にしとけよ!相手はこの国最強の戦士、勇者様だぞ。お前なんか相手にしてくれるわけないだろ!」

「そんなの分かってるけどさ、もう、カッコ良すぎてダメよ~」

 勇者はすでに見えなくなっていたが、アウレラの目は開け放たれた訓練場の入口から勇者が去った方向を見続けていた。



「もう、アウレラなにやってんのさ」

 トキオが来てガッカリした顔で言った。


「だってー、しょうがないじゃない~」

 アウレラは、照れたような顔のまま言った。


「それじゃ、トキオ、俺たちはそろそろ王都の見物に行くよ。サイマンさんの店にも行かなくちゃいけないし。夕方までにはトキオの家に戻るから」

「あ、そうだね。楽しんできてね。俺たちが乗って来た馬車を使っていいから」

「そうか、助かる・・・ほら、アウレラ行くぞ!」


 テリットとブロームは、アウレラを引きずるようにして来た方へ戻って行った。



「トキオ、さすがだな」

 フラビアが寄って来て言った。


「え?なにが?」

「勇者と互角だったじゃないか」

「えー?だって、勇者様は今日初めて柔道やったんだよ。それで互角じゃ俺の立場がないじゃない。あの人、恐ろし過ぎるよ!」

「ああ、そう言われればそうだな。まあ、勇者の恐ろしさは今に始まったことじゃないけどな」

「次に来た時には投げ飛ばされそうで怖いよ」

「まあ、そうならないようにお前も頑張れ!」

他人事ひとごとだと思って!」


 フラビアは声を上げて笑った。

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