第90話 魔法訓練初日
昼食を食べ終わってトキオが魔法訓練場に行くとクロアはすでに来ていたが、儀式用の法衣ではなく、いつもの服に着替えていた。
「お、クロア!儀式は終わったのか?」
クロアは、トキオの顔を見ると嬉しそうににっこりと微笑んだ。
クロアがそんな表情をするのを初めて見たトキオは、一瞬、ビクッとなって動きが止まったが、すぐに儀式がうまくいったんだと思いついて微笑みを返した。
「トキオ、やったわよ!光魔法を覚えたわ!」
「え?加護をもらっただけで魔法を覚えちゃうもんなのか?」
「そうだったのよ。儀式が終わった直後にミヒールさんに言われてステータス画面を見たら、レベル1だけど、フライシャとバリッドの二つも覚えてたわ!」
「そうなんだ!良かったな!」
「うん!」
クロアは本当に嬉しそうだった。
「次の目標はあんたのレベルを超えることね。まあ、私にかかればすぐに達成できると思うけど」
そこで、いつものクロアの表情に戻った。
「そうかあ?俺もどんどんレベルが上がっていくってこと忘れてないか?」
「だ、大丈夫よ!そんなの想定内よ!」
そうは言ったが、表情からそのことは頭になかったことがわかり、トキオは少しおかしかったが、今日のところは突っ込まないでおこうと思った。
「ああ、揃っているな」
そこで、魔導士5人が入って来た。
「本日からお世話になります!よろしくお願いします!」
クロアは、魔導士たちに向かってかしこまってお辞儀をしながら言った。
「ああ。よろしくな。今日はまず基本的な光魔法の使い方を私が教える」
シュミュード魔導士長が言った。
「ありがとうございます!」
クロアが嬉しそうに頭を下げながら答えた。
「トキオは、引き続きモルナール魔導士からフライショットの使い方を習ってくれ」
「わかりました」
「それでは、準備をするから少し待っていてくれ」
魔導士長は、そう言うと他の魔導士と一緒に壁際に行った。
「フライショット?」
クロアは怪訝な顔でトキオに聞いた。
「新しい攻撃系の光魔法だよ。お前からレベルが上がると新しい魔法を覚えるって聞いたから、ここに来る直前にステータス画面を確認したら覚えてるのがわかったんだよ」
「そうなんだ・・・なんか悔しいわね。どういう魔法なのよ?」
「光を薄く上下や左右に伸ばして物を切断する魔法らしい。まだ、防御魔法が張ってある魔法訓練場でしか使ったことがないから、実際の威力はわからないんだけどね」
「へえ~、いいわねそれ。私も早く覚えたい!レベルがいくつになれば覚えられるのよ」
「そこは分かんないんだよなあ。今の19になるまで気づかなかったからなあ。切りのいいところで覚えるとしたら10か15だと思うんだけど」
「なによそれ?自分でステータス画面をみんなに教えておきながら、なんで確認してないのよ」
「だって、俺にとっては魔法は補助的なもんだからね。あんまりレベルとか気にしてないんだよなあ」
「またそれ?なんか腹立つわね」
「だってホントなんだからしょうがないじゃん」
「待たせたな。さあ、始めよう」
そこで、魔導士たちが二人のそばまで来てそう言った。
「少し休憩にしよう。初日から飛ばすとあとが続かないからな」
魔導士長がそう言ったので、クロアは少しホッとした顔をした。
トキオたちも休憩になったが、魔導士長を除く魔導士たちは、用を足しに行ったのか部屋を出て行った。
「トキオ、トイレどこ?」
クロアが少し恥ずかしそうに聞いて来た。
「部屋を出て右に行ってすぐだよ」
「ありがと」
クロアはそう言うと、魔導士長の手前、言いだしにくかったのか、かなりこらえていたらしく速足で出て行った。
トキオは、魔導士長に聞きたいことがあったのでそばに行った。
「魔導士様、少しお伺いしたいことが」
「なんだね」
魔導士長は表情を変えずに言った。
「昨日、最初にクロアの顔を見た時、すごく驚いた顔をされてましたね。あれはどういうことでしょうか」
「ああ、そのことか・・・そうだな、トキオにだけは伝えておいたほうがいいだろう・・・クロアはギヌメール導師の亡くなられた奥様に非常によく似ているのだ」
「え!?そうなんですか?」
「ああ、私が若い頃に亡くなられたからもう何十年も経っているが、生前の奥様に本当によく似ている」
「そうですか・・・」
「クロアが導師の元を去ったのは、それが関係しているかもしれないと思ってな。だから、それ以上のことはクロアには聞かないことにしたのだ」
「なるほど」
「だぶん、クロアはそのことを知らないのだろう。去った事情を詮索する必要はないが、折を見て似ていることだけをさりげなく伝えてみてくれるか。それで、もしかしたら導師との関係が修復されるかもしれない。逆に悪くなることも考えられるが、今のところ会う気はないようだから何も変わるまい」
「わかりました」
「奥様の名前はジュディットだ。それも伝えておこう」
「ジュディットですね。覚えておきます」
それだけ話すと、トキオは元いた場所に戻った。
それからすぐにクロアは戻って来たが、魔導士はモルナール魔導士だけしか戻って来なかった。
トキオは、他の3人はクロアの様子を見るためにいたのだろうと思った。
「それでは再開しよう」
魔導士長の言葉で訓練は再開された。
「よし。初日だし、今日はこれぐらいにしておこう。トキオも今日は上がって、クロアをしっかり休ませてくれ。随分、体に力が入っていたようだからな」
「わかりました」
「ありがとうございました!」
クロアは退出して行く魔導士たちに向かって深々とお辞儀をしながら言った。
「さて、じゃあ体が冷える前にマッサージをしておこう。あそこの長椅子にうつぶせに寝てくれるか」
トキオは、壁際にある、物が置けるようになっている棚の右にある背もたれのない長椅子を指して言った。トキオのライキリや拳銃は、ベルトごとその棚に置いてあった。
「え?あんたそんなこともできるの?」
「ああ、柔道の練習が終わったらいつもやってたからな。これをやるのとやらないのでは随分違うんだよ」
「そうなの。じゃあ、お願いするわ」
二人で長椅子のところまで行き、クロアがそこにうつぶせに寝ると、トキオはまず、頭越しにクロアの両肩を揉んだ。
「ああ、やっぱり緊張してたんだな。かなり凝ってるな」
「そうかもね。魔導士様に稽古をつけてもらえるなんて、やっぱり緊張するじゃない?」
「ああ、わかるよ」
「でもトキオ、マッサージ上手ね。ホントに気持ちいいわ」
「まあ、いつもやってたからな」
それから、横に移動したりしながら、トキオはクロアの全身をマッサージした。
「よし!終わり!」
ペシッ!
トキオは、一通りマッサージが終わったので、そう言いながらクロアのお尻を叩いた。
勢いで叩いたものの、すぐに「しまった」と思い、怒られるかと思って身構えたが、クロアからは反応がなかった。
トキオがクロアの顔を覗き込むと、寝息を立てていた。
(ホントに緊張して疲れたんだな。しばらく寝かしといてやるか)
トキオは、帰る支度だけはしておこうと棚に行き、拳銃とライキリを腰に装着した。
それからクロアのところに戻って上からクロアの姿を眺めていた。
(あれ?コイツ、意外といいお尻してるな)
いつもは、魔女独特のゆったりとした服を着ているので気づかなかったが、うつぶせに寝て服が密着した状態だと、お尻の線が良く分かった。
(そう言えば、今、叩いた時にめちゃくちゃ柔らかそうな感触だっただな・・・ちょっと揉んでみたいけど、気づかれたらヤバいよな)
トキオは、クロアの寝顔を覗いて見たが、相変わらず寝息をたてていた。
そこで、起きるかどうか試そうと、耳元で、
「クロア」
と、名前を呼んでみた。
しかし、全く反応せずに寝息を立てたままだったので、どうやら熟睡してるようだった。
(これなら気づかないか?ちよっとだけなら大丈夫だよな。柔らかさを確認するだけだから)
トキオは自分にそう言い聞かせると、クロアのお尻を両手で掴みゆっくりと揉んでみた。
(うわー!めちゃくちゃ柔らけー!アウレラのオッパイより柔らかいぞ!)
その感触に感激してしまったら、少しのはずが無意識にそのまま揉み続けてしまった。
「あんた、どこ触ってんのよ」
しばらくすると、クロアがそのままの姿勢で言った。
(ヤバイ!起きた!)
「あ、いやあ、お尻も凝ってそうだったからマッサージしてたんだよ」
トキオは慌てて手を離して言い訳をした。
「ホントかしら?怪しいわね」
「ホント、ホント。いやー、もう、全身凝ってたね」
「まあいいわ。マッサージをしてくれたお礼にお尻ぐらい触らせてあげるわよ」
「え、ああ、そりゃどうも・・・それじゃ、そろそろ行こうか。城の中を案内するよ」
「ホント!嬉しい!」
「クロアは王都に住んでたって言ってたけど、お城の中は昨日が初めてだろ?」
「うん!」
トキオは必死で話をそらしたが、クロアがそれに乗って来たので
(ふー、助かった!)
と、思った。
それからトキオは、クロアを連れて城の中をあちこち案内して回った。
トキオは、このお城に来るようになってから毎日、いろんなところを見て周っていたので、城のどこを通ればどこに出るかはすでに大体把握していた。
最初の日は、知らない人間が城の中をうろうろしていたら不審がられるかと思い、少しびくびくしながら歩き始めたが、すれ違う人すれ違う人が軽く会釈をしていくので、それを返しながら歩いていたらだんだんと大丈夫だという気分になってきて、二日目からは気にせずに歩いていた。
トキオには知らされていなかったが、実は王様から、「左腰に黒くて細身で反りのある剣を下げ、右腰に拳銃を下げている男に会ったら、それは、ステータス画面や柔道などをこの国に広めてくれた功労者だから失礼のないように対応する事」というお達しが出ていたのだった。
初めての体験だったので、どこを見てもクロアは感激していた。
特に一番高い尖塔の最上階から見た王都の眺めには非常に感激していた。
その様子を見てトキオは、(アウレラたちにも見せてあげれば良かったな)と、思った。




