第84話 魔導士長とクロア
魔導士たちの姿を見ると、トキオとアウレラはゆっくりと離れた。
「どちらがクロアだ?」
シュミュード魔導士長が聞いた。
「あちらの背の低い方がクロアです」
ミヒール司祭が、手でクロアを指しながら答えた。
「そうか」
シュミュード魔導士長は、そう言うとクロアの方へ歩いて行った。
ミヒール司祭と他の4人の魔導士たちもそのあとに従った。
「・・・なんと、これは!」
「どうされました?」
「・・・いや、何でもない」
クロアのそばまで来てその顔を見たシュミュード魔導士長は、一瞬、非常に驚いた顔をしたが、すぐに真顔に戻った。
「そなたがクロアだな。私は魔導士長のシュミュードだ」
「はい。初めまして魔導士長様」
クロアは、そう答えると静かにお辞儀をした。
「そなたが、完全体のヒドラを一撃で倒す魔法を使った者ということで合っているか?」
「はい、その通りです」
「わざわざ王都まで呼びつけてすまなかったが、今まで見聞きしたことのないその魔法に強い興味を引かれた。詳しく教えてくれるか」
「承知しました。魔導士長様なら見ていただくのが一番早いと思いますが、ここでは建物に被害が出てしまいます」
「ふむ。この部屋には魔法を無効化する防御魔法が張ってあるから被害が出ることはないが、それではそなたの魔法の威力がわからないな。少し離れているが城に行こう」
魔導士長がそう言って入って来た入り口の方へ向かったので、全員、そのあとについて行った。
教会本部の外に出ると馬車が3両停まっていた。
3両とも、かなり高級そうな馬車だったが、馬はすべて茶色い普通の色だった。
(魔導士様が普通の馬に引かれた馬車に乗ってるってことは、あの白馬はキロウ司教の趣味か)
トキオはそう考えて、軽く笑ってしまった。
「クロアとトキオは私と同じ馬車に乗ってくれ・・・何を笑っている」
「あ、いえ、ちょっと思い出し笑いを」
そう答えたら、クロアに変な人を見るような目で見られた。
「すみません。クロアと一緒に来た3人にもお城の中を見せたいんですが、一緒に連れってっても構いませんか?」
「そなたの仲間なのだろう。構わんよ。ミヒール司祭と一緒の馬車で来るが良い」
「だってさ」
トキオは、3人の方を振り返って言った。
「やったー!」
「お城に入れるのか!」
「楽しみだな」
3人とも喜んでいた。
城の中に入ると、テリット、アウレラ、ブロームの3人は、トキオが初めて城に入った時と同じように、完全にお上りさんモードになってあたりをキョロキョロと見回していた。
「うっわー、天井高け~」
「あのすごくおっきくて見事な絵を見てよ~」
「柱が太いし細工がキレイだ~」
3人は思わず見とれて歩くのが遅くなったが、気づくと他の皆は魔導士長を先頭にどんどん先に進んでいたので、あわてて追って行った。
随分歩いた上に相当階段を上った末に到着したのは、高さ的には城の中層ほどで、王都が一望に見渡せる眺めのいい場所だった。
視界の中に他に見えるものは、城の3重の外壁の途中に何本か建てられている丸い尖塔だけだった。
「いくつか尖塔が見えると思うが、一番右の二つは老朽化していて近々建て直すことになっている。そなたの魔法は消滅系の魔法だということだからどちらかの上半分を消し去ってみてくれるか。万が一、いくつか破片が落下することになっても、その先はお堀になっているから大丈夫だ」
「承知しました」
クロアは、胸の前で両手を握ると人差し指だけ立てて目を瞑り、口の中で詠唱を始めた。
それから、20秒ぐらい経ったところで両手を緩く左右に広げ、手のひらを上に向けた。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ」
クロアが気合を込めると、左手の上に1メートルほどの火炎が立ち上り、右手の上に直径50センチほどの水球が浮かんだ。
さらに詠唱を続けながら、ゆっくりと両手を体の前に持ってきてまっすぐ伸ばし、手首を近づけていくと、それに合わせて火炎と水球が渦巻き状に混ざり合っていった。
それからゆっくりと手を胸の前まで引いたあと、目を開けて手首を合わせたまま両手を前に突き出した。
「スプライド!」
その瞬間、「ゴウッ!」という轟音とともに、黄色い光の帯がやや広がりながら尖塔目掛けて飛んで行った。
皆、その眩しさに一斉に目を細めたが、光が消えて目を開けてみると、尖塔の上半分が消失し残った部分の上端が曲線状に綺麗に削り取られているのが目に入った。
「なんということだ。このような魔法が・・・」
さすがの魔導士たちも、愕然とした表情をしていた。
その後方では・・・
「えー!この間ヒドラに使ったのってこんなのだったの!」
「消えたよな!今、崩れたんじゃなくて消えたよな!」
「俺は自分の目がどうにかなっちまったのかと思ったぞ!」
そんな会話をしているテリットたち3人は、この中で一番驚いた顔をしていた。
「ふうむ」
魔導士長は一声唸ると、クロアがやったように胸の前で両手を握ると人差し指だけ立てて目を瞑り、口の中で詠唱を始めた。
それから、これまたクロアと同じように両手を広げると、左手に火炎、右手に水球を出現させ、それから胸の前にその両手をゆっくりと移動させた。
それと同時に火炎と水球が渦巻き状に混ざり合っていったが、途中で右に湾曲を始めると徐々に消えて行った。
「なるほど・・・クロア、そなたの火魔法と水魔法のレベルはそれぞれいくつだ」
「両方とも10です」
「最初にこの魔法を使った時も同じか?」
「その時は両方9でした」
「そうか」
それから、魔導士長はトキオの方を向いた。
「トキオ、お前がやろうとしてダメだったときのそれぞれのレベルはいくつだった」
「確か、火が7で水が5でした」
「ふむ。そうか」
それから今度は4人の魔導士の方を向いた。
「誰か、今現在で両方のレベルが同じだという者はいるか」
「ステータス!」
その魔導士長の言葉で、魔導士は全員ステータス画面を表示させて、自分の魔法レベルを確認した。
「私が両方同じです」
一人の魔導士が手を挙げた。
「イディアスか。ここに来て、今、クロアがやったのと同じようにやってみてくれるか。火と水が渦巻き状に混ざり合うところをイメージすることが大事だ」
「かしこまりました」
イディアス魔導士は前に出てくると、同じような動作で火炎と水球を出現させ、その両手をゆっくりと体の前に持って行った。
すると、同じように火炎と水球が渦巻き状に混ざり合っていったが、シュミュード魔導士長とは違い途中で曲がるようなことはなく、クロアと同じように前に向かってまっすぐ混ざり合ったままだった。
それからイディアス魔導士は、両手を一旦、胸の方へ引いてから気合とともに前方に突き出した。
「はっ!」
すると、クロアのものよりはかなり細かったが、黄色い光の帯がもう一つの尖塔目がけて飛んで行き、その上部のやや右側に丸い穴を開けた。
(すげっ!1回見ただけでできちゃったよ!さすが魔導士様だな!)
トキオは非常に驚いた。
「できましたね。こういう技ですか」
イディアス魔導士が言った。
「やはりそうか」
シュミュード魔導士長はそう言うと、トキオとクロアの方を向いて言った。
「この魔法は両方の魔法レベルが同一でないと繰り出せない魔法のようだ。多分、意識的に高い方の魔法の威力を抑えれば出すことは可能だろうが、それにはかなりの訓練が必要だと思われる。しかしクロアよ。このイメージをすぐに実現させたそなたの才能は並ではないだろうな」
クロアは、そう言われて少し満足そうな顔になった。
「それで、聞きたいことがある」
魔導士長はクロアに言った。
「なんでしょう」
「若いながら高い魔法のスキルを身に着けているようだが、そうなると誰に魔法を教わったのかが気になる。色々な情報を総合すると、そなたの師はギヌメール導師以外に考えられないのだが、それで合っているか」
「・・・・・はい、その通りです」
クロアは長い沈黙のあと、静かに答えた。
「数か月前、そなたはギヌメール導師の元から何も告げずに突然姿を消したと聞いている。それも合っているか」
「・・・はい」
「ギヌメール導師の元へ戻りたいと考えているか?」
「いいえ」
「わかった。何か特別な事情があったのであろう。そのことについては私は何も聞かぬ」
「・・・え?」
「今はただ、そなたのその才能が惜しい。辺境のアティムで冒険者をやっておったのでは、その才能も頭打ちだ。我々がここでそなたを鍛えたいと思うが良いか?」
「光魔法も教えていただけるんでしょうか」
「もちろんだ。光魔法の習得に必要な加護も授けよう」
「ありがとうございます!」
そこでクロアは、王都に来て初めて明るい表情になった。
「導師は私の師でもある。今後は、私が導師に代わって責任をもってそなたを一流の魔法使いに育てよう」
「ありがとうございます!」
クロアは再びそう答えると、頭を下げて大粒の涙を流した。
(クロアって生意気な口の利き方するけど、魔法に対する探究心は人一倍だもんな。相当嬉しいんだろうな)
トキオは思った。
「ところでクロアよ。そなたは魔法を導師から何年教わった」
「5年です」
「ほお、たった5年でここまで来たか。やはり、大きな才能を持っているな。導師もそれに気づいたからそなたを鍛えたのであろう」
(あれ?クロアって15歳の時から魔法の訓練を始めたって言ってなかったっけ?ということは、今の歳はせいぜい21歳じゃないか!やっぱりサバ読んでたな!きっと、甘く見られたくなかったんだろうな)
「それでは、明日からそなたを鍛えてみたい。トキオも一緒に教えることになるから、教団本部の魔法訓練場では手狭だな。明日からはこの城の訓練場を使うとしよう。長旅で疲れているだろうから、今日は宿に行って休むが良い」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
クロアはそう言うと深々と頭を下げた。
「それではこれで失礼する」
魔導士たちとミヒール司祭は、そう言うと去って行った。
「クロア、良かったな」
トキオは、クロアに寄って声をかけた。
「そうね。こうなったら、すぐにあんたの光魔法のレベルを追い越してあげるわ。覚悟しなさい!」
「お、やる気だね~。俺も魔導士様から教わってるってことを忘れるなよ」
「ふん、魔法に対する思い入れが違うから楽勝よ」
「そうか。でも、ぜひ俺もそうなって欲しいな」
トキオはそう言うとクロアに向かってにっこりと微笑んだ。
「な、なによ!張り合いがないわね!」
クロアはそう言いながら頬を赤くした。
その後方では・・・
「やっとクロア節が出て来たな」
「これなら話しかけても大丈夫そうね」
「ずっとあのままかと思って心配したぞ」
テリットたち3人は、ホッとした顔をしていた。
「じゃあみんな、今から家に帰るから一緒に来て」
「了解~」
5人は仲良く話をしながら城の入口へと向かって行った。




