第81話 普通の冒険者たち
「なんだあの魔物は!1,2,3・・・6体いるな」
「オクスドンね。荒れ地にしか住まないから、アティム近辺みたいな森に囲まれた場所では見かけないのよ」
クロアが言った。
そこで、逃げようとしたのか、馭者が馬車を加速させた。
「おい!あのスピードだと馬車じゃ追いつかれるからダメだ!止めろ!」
テリットがそう怒鳴ると、馭者は慌てて馬車を止めた。
それと同時に、テリットたち4人は弾かれたように外へ飛び出した。
「なにするんですか!あの魔物はその人数じゃ無理だ!」
開いた馬車のドアからサイマンが叫んだ。
「大丈夫だ!・・・やるぞ!」
テリット、ブローム、アウレラは、拳銃を抜くと突進してくる魔物に狙いをつけた。
クロアはステータス画面で魔物の弱点を確認すると、手を胸の前で合わて精神を集中し始めた。
「頭部がすごく硬いから、そんなのじゃ無理ですって!」
サイマンが叫んだ。
「聞いたか?じゃあ、まず俺がけん制してみる」
ブロームはそう言うと、その距離が15マインほどになったところで発砲した。
バン!
真ん中の1体の鼻の上に命中すると、その魔物は足を止めた。
「おい!倒れないぞ!」
ブロームが叫ぶと当時にテリットとアウレラも同じ魔物に目掛けて発砲したが、どちらも頭部を外れて肩と前足に当たった。
「ちっ!この距離じゃ難しいか!」
「え!?1発でオクスドンが止まった?」
サイマンは逆の意味で驚いていた。
「もう、まどろっこしいわね。私がやるわ!」
クロアが言った。
「あのスゴい魔法を使うのか?」
「こんなの相手に使うわけないでしょ!・・・・はあぁぁぁぁ・・・スプラッシャー!」
突き出したクロアの両手から、巨大な水流が飛び出し、クロアは放水するように手を左右に振ってそれを魔物全体に浴びせた。
「グアアアア!」
魔物は6体とも、苦しそうにもがくと次々に倒れていき、倒れた後も鳴き声を上げながらのたうち回った。
それを見たクロアを除く3人は、その魔物に駆け寄り、近くから頭を拳銃で撃ち抜くと、動きが止まったのを確認してからテリットとアウレラが順に首を切断していった。
「なんと!こんなに短時間でこの数のオクスドンを!」
馬車の外に出てきていたサイマンは、呆然としてテリットたちを見つめていた。
馭者も、そのそばに来て感心した顔で見ていた。
「おお!金貨だよ!」
「ええ!?」
テリットの言葉で、ブロームとアウレラも慌てて破壊されたオクスドンの頭部に手を突っ込んだ。
「ホントだ!」
「こりゃありがたい!」
3人は、6体から金貨を回収すると、それを濡れたオクスドンの毛で拭った。
そして、クロアのところに歩いてきて、
「お前が一番活躍したから2枚な」
そう言って、テリットからクロアに金貨を2枚渡した。
「あらどうも。気が利くわね」
クロアは、微笑みながら金貨を受け取った。
「さて、そうなると1枚余るが・・・トキオと同じでいいか?」
テリットが馭者を見ながら言った。
「うん?ああ、いいぞ。こんなの予定外の収入だからな」
「いいよ~」
ブロームとアウレラが同意したので、テリットは馭者のところに歩いて行って金貨を1枚渡した。
「え!?」
馭者は目を丸くした。
「あげるよ。俺たちは1枚あれば十分だ」
テリットはにっこり微笑みながら言った。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
馭者は、両手で持った金貨を拝むようにおでこのところに上げると、深々と何度もお辞儀をした。
「素晴らしい手際の良さと腕前ですね!驚きました!あなたたち何者です?」
サイマンが感動した顔で言った。
「いや、普通の冒険者ですよ」
テリットが真顔で答えた。
「いやいや、全然普通じゃないですよ。仕事柄、討伐の現場に行くこともありますが、1体に複数のパーティーでかかってもこんな短時間じゃ倒せないのに、6体ものオクスドンをたった4人で簡単に倒してしまうとは!」
「まあ、正確に言うと、コイツは普通じゃないですけどね」
テリットはそう言ってクロアの肩に手を乗せた。
「なによその言い方。まるで私が変質者みたいじゃないの」
クロアは怒った顔でテリットの手を払ったが、ブロームとアウレラも含め、ニヤニヤと笑っていた。
「確かに、あなたの水魔法はスゴかった。上級魔法使いレベルではないですか?お若いのに素晴らしいです」
「まあ、あのくらいは当然ね。全然本気じゃなかったけど」
「そうなんですか!?驚きです!」
クロアのいつものしゃべり口だったのでテリットたち3人は相変わらずニヤニヤとした顔でクロアを見ていたが、サイマンは本気で驚いているようだった。
「あとは、この拳銃だな。今ので威力がある程度わかったでしょ?」
「はい!オクスドンが1発で止まりましたからね。こんな威力の武器は見たことがない。うちの店でも扱いたいですが、どこに行ったら買えるんでしょうか?」
「王都の造兵局に量産依頼が出てるはずだから、そろそろ製品化されるんじゃないかな。武器の商人をしてるんだったら造兵局に知り合いがいるでしょ?行って聞いてみてくださいよ」
「そうなんですね!わかりました。戻ったら早速行ってみます」
「あと、ライフル銃っていう、もっと射程距離が長くて威力の高い銃もあるんで、それも聞いてみてください」
「おお、そうなんですか!わかりました!・・・それと、アウレラさんの持ってる剣、珍しいカタチをしてますね。姿も実に美しい。これはどこで手に入れたんですか?」
「ああ、これは特注品だからアティムじゃないと買えないわよ。製法も普通の剣とは違うらしいし。それと、これは剣じゃなくて刀って言うの」
「カタナですか・・・ほぉ~。ちょっと持ってみたいんですが、よろしいですかね?」
「いいわよ、はい」
アウレラは抜身のままチドリを手渡した。
「どうも・・・ほお、かなり軽いですね。それと、間近で見るとこの細工が実に見事だ」
サイマンは刀身に彫られている模様をマジマジと見つめて言った。
それから、柄を両手で持つと、上から、横からと数回振った。
振るたびに、ヒュッ!という空気を割く澄んだ音がした。
「おや?なかなかの剣の腕前ですね」
テリットが言った。
「いえいえ、皆さんに比べたら全然ですよ。若い頃に少しだけ冒険者をやってましたもんで・・・しかし、非常に振りやすくて切れ味も良さそうだ」
「そう、切れ味は抜群よ」
「やっぱりそうですか。1本欲しいですが、アティムは遠いですね。いつか機会を見つけて行ってみましょう」
「フーゴっていう鍛冶屋が作ってるわ。確か、店にトキオが持ってるのと同じ黒いのが出てたはず」
「トキオさんというのは同僚の冒険者の方ですか?」
「そうよ。王様から報奨を貰うために、今、王都に行ってるの」
「え?王から報奨をですか!?どんな功績があったんでしょうか」
「えーと、ステータス画面って知ってるでしょ?」
「はい。最初に見た時はびっくりしました」
「あと、このドロップアイテムが魔物の頭部からとれるのも」
そう言いながら、アウレラは金貨を示した。
「はい」
「魔物の肉は食べたことある?」
「あります。すごくおいしくて驚きました」
「強化魔法が武器にも使えるってことは?」
「はい、知ってます」
「あとは、柔道、腕相撲、ダーツ、サッカーは?」
「はい、やってるのを王都でも見かけます」
「それって全部、数か月前まで知らなかったり見かけなかったりしたでしょ?」
「そうですね。すべて結構最近ですね」
「それと、この拳銃と刀ね・・・・・全部、トキオがみんなに教えてくれたのよ」
「え!?」
サイマンはひと声そう言ったきり絶句した。
「・・・全部同じ人から伝わったことなんですか?」
「そうよ。それで、その功績で報奨を貰えることになったわけ」
「なるほど・・・大いに納得です。もしかすると、勇者にも匹敵する功労者なんじゃないでしょうか」
「そうね。そうだと思うわ」
実際のところ、アウレラは勇者の功績がどんなものなのか把握していなかったが、勇者に匹敵すると言われたことには同意した。
「遅くなっちゃうからそろそろ行きましょう」
テリットが言った。
「あ、そうですね。長々と失礼しました」
サイマンはそう言うと、チドリをアウレラに返した。
それから全員で馬車に乗り込んで、再び王都へと出発した。
「色々と驚きました。しかし、この拳銃という武器は絶対売れますね。王都に戻ったらすぐに造兵局に行かねば」
馬車が発射するとサイマンが言った。
「威力がすごいから、アティムやその近辺の街でもあっという間に広く出回りましたよ。ただ、犯罪に使われる可能性があるから、基本的には冒険者と兵士以外には販売できなくなってますんで、そこはよろしくお願いしますね。まあ、造兵局から話があると思いますが」
「ああ、なるほど。確かにそうですね。わかりました」
サイマンは期待感のこもったような顔で頷いて背もたれにもたれかかったが、すぐに身を起こしてきて聞いた。
「ところで皆さんはどういった御用で王都に行かれるんですか?」
「え?・・・ああ、このクロアが王都に呼ばれたので俺たちはその護衛です」
「呼ばれた?どなたからですか?」
「ああっと、ごめんなさい。それはちょっと話せないかな」
「ああ、プライベートなことをお聞きしてしまいましたね。すみません」
「いえいえ」
場が気まずい雰囲気になって沈黙が流れた。
「ところで、お店は王都のどのへんにあるんですか?」
すかさずブロームが話を変えた。
「ああ、そうですね。お伝えしてなかった。お城に近いところにあるんですが、住所を書いておきましょう。店の名前は『サイマン兄弟商会』です。弟とやってますんで」
「ありがとうございます。兄弟でやられてるんですか、いいですね」
「はい、二人とも元は冒険者だったので、引退してから一緒にこの仕事を始めました。それなりに繁盛していてありがたい限りです」
「それは素晴らしい。じゃあ、護衛の仕事が終わったら必ず寄らせてもらいます」
「はい、ぜひお願いします」
それからは、テリットたちが王都の近況を聞き、その話で盛り上がって、誰も眠ることなく次に宿泊する街へと進んでいった。




