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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第1章 アティム編
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第68話 出立

 二人はそのまま朝まで一緒にいたが、トキオがギルドに行くと言うと、アウレラは、着替えてから行くから先に行っててと言って家に帰って行った。


 トキオは、前に買っておいた少し大きめのリュックに旅行のための着替えと、昨日、フーゴの店からもらって来たものを詰めると、早めにギルドに行って入り口が見える場所に座り、朝食を済ませて3人の到着を待った。


 アウレラが一番先に来て、寂しそうな表情をしてトキオの左隣に座った。それから、テーブルの下でトキオの左手を握った。


「あんまり寝てないけど、体は大丈夫?」

「大丈夫だよ。体力だけはあるからね」

 そう言うとアウレラはやっと笑った。


「朝ご飯はいいの?」

「家でジュースを飲んできたから大丈夫。正直、昨日のお酒が残っててちょっと気持ち悪いし」

「そうか、実は俺もなんだけど、長旅になるからお腹になんか入れとかなきゃと思ってね」

 そう言って、アウレラに微笑んだ。



 しばらくすると、テリットとブロームが話しながら現れた。

 それに気づいたアウレラは、トキオから手を離した。


「どうしたトキオ、難しい顔して」

 トキオの神妙な表情から何かを感じたらしく、テリットがテーブルにつくなり言った。

「ごめん。実はちょっと王都に行って来なくちゃいけなくなったんだ。アウレラにはもう話した」

「は?なんで?」

「迎えに来た教団本部の司祭さんが言うには、俺が皆に教えたステータス画面とか、ドロップアイテムとか、柔道とかで国民の多くの命が救われたってことで、王様がなんかくれるんだって」

「ええー!?スゴイじゃないか!」

「マジか!」


「うーん、でも、俺自身はそんな大それたことをしたって気がしないんだけど。ただ、知ってることを皆に教えただけだから」

「いやいや、そんなことはないぞ。国民の多くの命が救われたってのは間近いなく事実だ。一般市民が銃で魔物から防衛できるようになったという直接的なものだけじゃなくて、俺たち冒険者のスキルや武器、魔法の威力が上がったことで俺たちが命を落とす確率が減ったこともそうで、それによって、間接的には多くの国民の命が救われてるからな。お前自身は大した苦労はしてないと思ってるかもしれないが、貢献度で言えば間違いなくこの国で一番の冒険者だ」

「そうよ。ほかのみんなもそう思ってるよ」

「間違いないな」


「そうかなあ」

「そうだぞ。もっと自信を持て」

「うーん・・・まあ、とにかく、そんな事情でしばらく留守にすることになったんだ。ごめんね」

「大丈夫だ。以前も3人だったんだし、それに、お前のおかげで色々とスキルが上がったからな」

「あとのことは気にするな」

「そうよ。ゆっくりしてきて」

 アウレラはそう言ったが、その表情は実に寂しそうだった。


「そう。ありがとう。じゃあ、せめてものお詫びにこれを」

 そう言ってトキオは、真っ黒くて角ばった拳銃を3つテーブルの上に置いた。


「これは自動拳銃と言って、弾がグリップの中に入ってて、銃の上側をスライドさせて装弾できるようになっている拳銃だよ。やっと最初の4丁が完成したんで、そのうちの3つを皆に残していくよ。弾は18発込められるようになってるから、これを使えば人型の魔物のが大挙して襲って来た時にも対応できる。王都に行ったら、量産するように進言してみるつもりだ」

「18発!今までの3倍か!」

「そう。こうやって装着するんだ」

 トキオはそう言ってから、銃の一つを握り、グリップの上にあるボタンを押して弾丸の入っているマガジンを取り出した。

「これはマガジンって言って、ここに弾が入ってるんだ」

 そう言いながら、マガジンのてっぺんが皆に見えるように斜めに倒したあと、再び銃に装着した。

「ここに、替えのマガジンが3つあるから、これも一つずつ渡すね。弾が切れたら、今の要領で入ってるマガジンと取り換えるんだよ」

 そして、言った通りのことを実演して見せた。


「これで36発は撃てることになる。ただし、あまり連続して撃つと、熱でスライド部分が変形して弾が出なくなることがあるから、そこは注意してね」

「わかった。ありがたくいただくよ」

「弾が切れたら、今まで通りフーゴの店で買ってね。アウレラが使ってる拳銃と同じ弾が使えるように作ってあるから」

「わかった」


 そのまましばらく話をしていたが、トキオが壁時計で約束の10時が近づいたのを確認した時、事務室の方からミヒール司祭とケリー支部長が出て来た。


 トキオは一瞬驚いたが、ミヒール司祭が支部長に話しておくって言っていたのを思い出した。



 支部長が深々とミヒール司祭にお辞儀をすると、ミヒール司祭が言った。

「こちらこそ申し訳ありません。この街のかなり強力な戦力をお借りすることになるわけですから」

「いえ、国のためにと考えると当然のことです」


 そこで、ミヒール司祭はトキオに気付いて歩いて来た。


「じゃあ、迎えが来たから俺は行くよ」

 そう言うと、トキオは立ち上がった。


「ああ、土産話を待ってるぞ」

「それじゃあね」

「気をつけてな」

 トキオは立ち上がると、全員と握手してから深々とお辞儀をした。


 入口で受付のミレリアにも声をかけた。


「それじゃミレリア、ちょっと王都に行って来るよ」

「え?王都にですか?」

「ああ、すぐ戻るから」

「そうですか。では、お気をつけて」

 ミレリアはにっこりと微笑んで言った。


 トキオもほほ笑み返すと外に出た。



 ギルドを出て馬車の横まで来たところでアウレラが走って追いかけてきた。


 トキオが振り返ると、両手をしっかりと握って来たが、その目は涙でにじんでいた。

「ホントに気を付けてね。そして、なるべく早く帰ってきてね」

「わかったよ。アウレラも元気でな」

「うん」

 トキオは、アウレラのおでこにキスをすると頭を撫でてから馬車に乗り込んだ。


 アウレラは、しばらく手を振りながら見送っていたが、トキオも涙を必死でこらえながら、角を曲がってアウレラの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。




 少し行くと、クロアが歩いて通り過ぎていく後ろ姿が見えた。


「クロア―!」

 トキオは、思わず大声で呼んでいた。


 クロアは呼ばれた声で振り返ったが、馬車にトキオが乗っていて、司祭と思われる人のほかには誰も乗っていないのを見て不思議に思った。


「トキオー、あんた一人でどこ行くのよー!」

「ちょっと王都まで行って来るー!」

「ええっ!・・・ちょっと、待ちなさいよー!」


 クロアは走って追いかけようとしたが、すぐに諦めて呆然と馬車を見送った。


 トキオは数回クロアに向かって手を振ると、すぐに進行方向に向き直った。

 そうしないと、今度こそ本当に涙が溢れそうだったから。





 アウレラがテーブルに戻ると、支部長がトキオがいた場所に座っていた。


「大きな戦力が一人欠けてしまうことになって申し訳ない。代わりの要員はすぐに補充するよ」

「いや、俺たちもかなり戦闘力が上がってきてるから3人で大丈夫だよ。トキオが来る前は3人だったんだしな。それに、トキオはすぐ戻って来るんだろ?」

「・・・いや、かなり長くなると思う」

「え?なぜだ!?」

「ウソでしょ!?」

「ホントかよ」


「まず、これからの魔物対策のために、王都でトキオが使える格闘技を大々的に教えて欲しいそうだ。やはり、正しく教えられるのはトキオしかないないだろう。それと、まだ、みんなが教わっていない格闘技の技や極意があると私は思っている」

「ああ、なるほど。それは確かにその通りだろうな。合気道ってのは言葉だけ聞いて教えもらってないし、槍術や棒術もできるって聞いたが、実際にやっているところを見たことはないしな」


「それから、トキオは光魔法に対する適性がかなり高いと思われるから、王都で魔導士が訓練したいと言ってるそうだ」

「ああ、それもその通りだな。レベルの上がり方が異常だもんな」

「そうだな。それは俺も思ってた」

 テリットの言葉にブロームも同意した。



「そんなのイヤだ」

 そこで、アウレラがそう言って泣き始めた。


 男たちがどう慰めようか考えていると、後ろで声がした。


「トキオさん、しばらく戻って来ないんですか?」


 振り返るとミレリアが立っていた。


「そんな・・・長いこと会えないなんて」


 ミレリアの目からも大粒の涙が流れ始めた。


 3人の男たちは、その二人の姿を見ておろおろするばかりだった。




 その時、クロアが息を切らして駆け込んで来た。


「ねえ!今、そこでトキオに会ったんだけど、王都に行くって行ってたわよ!どういうこと!」


 テリットは、いやな予感がするなと思いつつ答えた。

「今までの功績を讃えて王様が報奨をくださるそうで、それを貰いに行った」

「はあ?」

「馬車に乗ってるのを見たのか」

「そうよ」

「一緒に誰か乗ってただろ」

「司祭さんが乗ってたわね」

「それは、王都の教団本部から来た司祭さんで、彼がトキオを連れに来た」

「なにそれ。なに勝手なことしてるわけ?」

「王様からの褒美だからな。断れないだろう?それから、しばらく王都で格闘技を教えたり、魔法の訓練をしたりするそうだ」

「え?じゃあ、長いこと戻って来ないの?」

 そこで、クロアの顔が曇った。


 テリットは、やっぱり嫌な雰囲気だなと思った。

「ああ、そうらしい」

「それ、あいつは納得して行ったの?」


「いや、トキオにはそのことは話してないらしい」

 支部長が言った。


「それって、ひどくない?」

「まあ、そうだが、トキオが王都に行くのを渋ったそうなので、どうしてもトキオの力が必要だから、勇者と魔導士に会うだけでも、と言って了解をとったそうだ」

「ふざけた話ね!わかったわ!」


 そう言って、クロアは奥のテーブルの方へ歩いて行くと、パーシーたちがいるのとは別のテーブルに座ってエレザベスにぶっきら棒にメルコットを注文した。


 話を聞いたら当たり散らすんじゃないかと予想していたテリットは拍子抜けした。



 しかし、クロアは、

「あいつと一緒にやりたいことが色々あったのに!ふざけてるわ!」

 メルコットが来ると、そう言いながらやけ食いのようにかき込んだ。


 こっちのテーブルで今日の打ち合わせをするぞと言おうと思ってクロアのそばまで来たパーシーは、その様子を見て元の席に戻って行った。

 これにて、「アティム編」は終了です。

 次回からは「王都編」になって、登場人物がかなり変わります。

 本当は、アティム編のネタがもう少しあったんですが、60話を超えるほど予定よりかなり長くなってしまったので割愛しました。


書き始めた時は、アティム編ではトキオは自分が異世界を堪能するために冒険者を楽しむだけの人間として描こうと思っていたんですが、書き進むうちに、周りで人が死ぬこともあるような状況で元刑事がそんな風に振る舞うのは不自然だと感じたんで、今の形に若干路線変更しています。


ここからのお話は、半分ぐらいは大雑把にしか考えていないので、少し進みが悪くなるかもしれません。

ご容赦ください。

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