第562話 インターネットと映画
マキノとスアは、この世界の風呂が気に入ったのか、40分ほどしてようやく出て来た。
スアは、すぐにトイレに行ったが、マキノは、トキオのところに寄って来た。
「何してるんですか~?」
「キミのひいお爺さんがこの世界のどこに来たのか調べてたのさ。見せてもらった日記の地名と世話になっていた家の苗字から探してたんだけど、地名が変わってるのかなかなかヒットしなかったよ。でも、その人の孫だと思われる人がブログを書いてて場所がわかった」
「え?このおうちにそんなのが調べられるん本があるんですか~?」
「インターネットって言う世界中のあらゆる場所と電気信号で情報のやり取りができる仕組みを利用したのさ」
「えっ!そんなことができるんですか!?」
相当驚いたのか、マキノは語尾を伸ばさなかった。
「そう。この世界の技術はでは可能なんだ」
「スゴいです~!」
「那須塩原ってところで、少しここから遠いけど新幹線とレンタカーを使って明日行ってみよう。予約はすでにとったから」
「予約?何の予約ですか~?」
「乗り物の予約さ。あっちの世界で言えば、駅馬車の予約と同じこと」
「えっ?家にいて馬車の予約ができるんですか!?」
「そう。これも、インターネットのおかげさ」
「驚きました!」
「俺は他にも調べたいことがあるから、みんなと一緒にマンガを・・・そうだ!」
そこでトイレからスアが出て来た。
「映画を観ててもらおう」
「映画ってなんですか~?」
「観ればわかる・・・って、わからないか」
トキオは、今から見せるものがどういう仕掛けになってるかを4人は理解できないだろうと気づいて苦笑した。
「こっちに来て」
トキオは、マキノとスアを連れてクロアとユアがマンガを読んでいるソファの対面に行き、リモコンを取ってテレビの電源を入れた。テレビでは、夕方のニュースをやっていた。
「えっ!?」
「人が動いてますわ!」
テレビの画面を見た途端、マキノとスアは驚きの声を上げた。
その声を聴いて、マンガに夢中になっていたクロアとユアも顔を上げ、テレビの画面を見て固まった。
「あの人たちは、どうやってあの中に入ったんですの?」
「なんか体が小さくなってる!」
「あー、別にこの中に入ったわけじゃなくて、この人たちは離れたところに居て、その姿を電気信号に変換してここに映し出してるだけなのさ」
「よくわからないです~」
「まあ、そうだろうね。それより、今から映画っていう架空の物語をここに映すから、みんなはしばらくそれを観てて。あ、長いから、みんな飲み物出しといた方がいいね」
トキオは、テレビの下のキャビネを開け、そこに立てて収納してあった映画のDVDのタイトルを見た。その間に、他の4人は自分のリュックサックから飲み物を出してテーブルの上に置いた。
(宇宙物のSFはさすがにハードル高いよなあ・・・あ、これなら魔法が出てくるお話だからちょうどいいかも!)
トキオは、「ハ○ーポッターと賢者の石」のDVDを取り出して、その中身をテレビの裏側の横にあるDVDのドライブに入れ、リモコンの再生ボタンを押した。途端に映画が始まったが、トキオはすぐに日本語吹き替えに設定した。
「ちょっとしばらくこれを観てて」
「これなに?」
「動く絵本みたいなものさ」
「え?」
4人は不思議そうな顔をした。
「まあ、観てて」
トキオは、そう言うとパソコンのところへ戻った。
「あ、鳥さんですわ」
「おじいさんが歩いてますわ」
「えっ?猫が人になった?」
そんな声が聞こえてきたが、映画に引き込まれたらしくすぐに静かになった。
パチパチパチパチ!
パソコンで調べ物に集中していたトキオは、突然の拍手に驚いてテレビの方を見た。
「最後良かったです~」
「ドキドキしましたわ!」
「みんな可愛かったわね!」
「学校の中がステキでしたわ」
どうやら、映画が終わったようだった。
「面白かったかい?」
トキオの言葉に全員が大きく頷いた。
「この世界には、こんな魔法の学校があるんですのね」
「ないよ。架空のお話だって言ったでしょ?」
「あ、そうでしたわ!」
皆は一斉に笑った。
「だいぶお腹が空いたんじゃないか?」
「そう言えば!」
「お話に夢中で気づかなかったです~」
「よし!じゃあ、おいしい物を食べに行こう!」
「やった!」
「行きましょう~」
おいしい物と聞いて、皆は一斉に立ち上がった。
(最初は、やっぱり寿司だよな。本当の味わってもらいたいし、母さんが振り込んでくれた金があるから、奮発して回ってない寿司屋に行くか!)
「さあ、ここだ」
「入口に何か垂れ下がってますわ?」
「これは暖簾って言ってね、和食って言われるこの国の料理を出してる店の入り口に掛かってるものなんだよ」
「へえ~」
トキオは、入口の扉を横に引いて中に入った。
「へい、らっしゃい!」
途端に、カウンターの中にいた板前から威勢の良い声が上がった。
4人の女子は驚いて一瞬固まったが、すぐにトキオの後について店に入った。
「おや?珍しいお客さんだ。随分久しぶりだねえ」
トキオを見ると板前が声をかけて来た。
「ちょっと2年ほど外国に行っててね」
「ほう・・・もしかすると、後ろの外人さんはその国の人たちかい?」
「そういうこと。奥、空いてる?」
「空いてるよ・・・5名様奥へご案内~!」
「はい!」
奥から威勢の良い声がして、板前と同じような格好をした若い店員が出て来た。
「こちらへどうぞ」
トキオたちは、案内されて奥の個室に行った。
その個室はお座敷になっていて、6人用の大きな座卓があった。
皆が着座すると、先ほどの店員がすぐにお茶とおしぼりを人数分持ってやって来て、全員の席を回って置いた。
「飲み物はいかがいたします?」
「まずはビールだよな。中ジョッキ3つと、この子たちには・・・そうだな、発泡酒に合わせてサイダーをお願い」
「かしこまりました」
「あと、お寿司のお勧めを3人前くらいと、鯛とハマチとサザエのお刺身をお願い。とりあえずはそれで」
「かしこまりました」
店員は一礼して下がって行った。
「この巻いてある白いハンドタオルみたいなものはなに?」
「おしぼりって言って、食事の前に手をきれいにするために拭くものさ」
トキオは、そう言うと、自分のところに置かれたおしぼりを取り手を拭いた。
「へえ~」
他の4人は、それを見て同じように手を拭いた。
「暖かい!」
「何か気持ちいいです~」
「すごく手がきれいになる気がしますわ」
「うんうん」
「でしょ?これがいいんだよ~」
「この飲み物はなに?」
クロアが今度はお茶の湯呑みを両手で取りながら聞いた。
「この国のお茶だよ」
「え?色が黄色いわよ?」
「この国ではそうなんだよ。他の国には茶色いお茶もあるんだけどね」
「へえ~、そうなんだ」
そう言うと、手に取って一口飲もうとしたが、
「熱っ!」
と言って、すぐに口を離した。
「そうそう、この国のお茶は熱~く入れる場合が多くてね。特に、この寿司屋なんかは」
「先に言いなさいよ!」
「悪い悪い。こうやって、冷まして飲むといいよ」
トキオは、お茶の湯飲みを手に取ると、口を近づけてふーふーと息を吹きかけた。それを見て、皆同じようにしたが、冷める前にビールとサイダーがやって来た。
「とりあえずお茶は後にして、まずはこっちの飲み物で乾杯だな」
「これお酒?これも黄色いけど白い泡が乗ってる」
「ビールっていう、この世界の各国共通の飲み物さ。スアとユアのは、サイダーっていう甘い飲み物だよ。どっちも発砲系の飲み物だから泡がシュワシュワしてるでしょ?」
「確かに!」
「さあ、乾杯するからみんなグラスを持って」
「乾杯?」
「みんなでお酒を飲むときの最初にする、この国の儀式みたいなもんだよ。俺が先にこのグラス、ビールジョッキって言うんだけど、これを持ち上げて『かんぱーい!』って言うから、みんなも続けて大きな声で『かんぱーい!』って言うんだよ」
「え~?」
「面白そうです~」
「やっみたいですわ!」
「うんうん」
「じゃあいくよ・・・かんぱーい!」
「かんぱーい!・・・きゃははは!」
「何か楽しいです~!」
「そうだろ?じゃあ、飲んでもいいよ」
「は~い・・・・・あ、ちょっと苦いけどおいしいです~!」
「なんか、のどがスッキリする感じ?」
「こっちは口の中でシュワシュワして、のどを通る時に少し刺激がありますわ!」
「でも、甘くておいしいですわ!」
「でしょ?・・・ゴクゴクゴク・・・くう~!これだよこれ!2年ぶりだから最高~!」
「失礼します!」
そこで、さっきの店員がお盆の上に刺身の皿を乗せて入って来た。
「どうぞ」
座卓の上に置くと、すぐに下がって行った。
「これって・・・生のお魚?」
「そう。黒っぽいのは巻貝だけどね」
「生のお魚なんか食べるんだ」
「え?食べたことない?・・・そう言えば、お屋敷でも出たことなかったな」
「私も食べたことないです~」
「私たちもですわ」
「うんうん」
「そうなんだ。食べ方はね、まず、みんなのところにある小さな皿にこの醤油を少したらすんだけど、慣れてないから俺がやるよ」
トキオは、ます、隣に座ってたマキノの皿に醤油を注ぎ、次に、立ち上がって座卓の反対側に座っていたスア、クロア、ユアの皿に醤油を注いでから自席に戻った。
「で、この刺身が乗ってる皿の端っこにあるワサビをちょっとだけ切り身に付けてから、その切り身を取って醤油に付けて食べる・・・・・う~ん、これも久しぶりだからめっちゃうまい!」
トキオは、鯛の刺身を一切れつまんで頬張り、感嘆の声を上げた。




