第561話 オスヴァルト家の秘伝
「女の人があんな言葉を使うのは感心しませんわ」
女子高生二人が店を出ていくとユアが言った。
「魔法を使ってしまいましたわ。ごめんなさい」
スアは、トキオに向かってそう言うと申し訳なさそうな顔で少し頭を下げた。
「今回はしょうがないかな。まあ、わからないように使ってたし」
「むしろ、咄嗟にやったにしては上出来じゃない?」
クロアが頷きながら言った。
「でも、自分の体に危険がありそうな場合を除いて、やっぱり使っちゃダメだよ」
「わかりましたわ」
そう言ったスアの顔には少し笑顔が戻った。
「それで、ウィッグってなんですの?」
「ああ、かつらのことだよ」
「え?私そんなもの付けてませんわ?」
「この世界にはピンク色の髪の毛をした人はいないからかつらだと思ったんじゃないかな?」
「ああ、そういうことですのね」
「そう言えば、キミたち以外に見かけたことないから、あっちの世界でも珍しい髪色なんじゃないの?」
「はい。この色は、オスヴァルト家にだけ生まれてくる髪の色なんですわ」
「え?そうなの?」
この言葉には、トキオだけでなくクロアとマキノもびっくりした表情になった。
「しかも、数百年に一度だけらしくて、双子に現れたのは私たちが初めてらしいですわ」
「へ~、なんでだろうね?」
「理由はわかってないらしいですわ」
「そうなんだ。何か条件でもあるの?」
「この髪の色で生まれてきたら優秀な魔法使いになるって言い伝えがあるらしいですわ」
「でも、私たちはお姉さまに敵いませんから、そんなに優秀ではありませんわ」
ユアが言った。
そう言われてクロアは、
(いやいや、あなたたちの方が絶対優秀でしょ!)
と、思ったが、トキオは、別のことを思った。
(ということは、この子たちは将来チシタリア夫人を超えるってことか!・・・いや、待てよ?)
「ねえ、チシタリア夫人ってオスヴァルト家に嫁いできた人なの?」
「そうですわ。元々はカシミーレ家の方ですわ」
(ああ、そういうことか。じゃあ、どこまでいくか今後が楽しみだな)
トキオは、そう考えて思わずほくそ笑んだ。
「なによ、急にニヤッとして。気持ち悪い」
すると、クロアに睨まれた。
「お前ちょっと口が悪すぎるぞ」
「ホントのことなんだからしょうがないじゃない」
「じゃあ、私はおかわりを取ってきます~」
そこでマキノが、トキオとクロアのやり取りには興味ないかのように立ち上がった。
「え?もう全部食べちゃったの?」
驚いてトキオが聞いた。
「こんなちっちゃいのすぐですよ~」
「そうよ」
そう言ったクロアのトレーも空になっていた。
「やれやれ。じゃあ、気をつけてな」
「そうだ!ソフトクリームを作りに行こう!」
二人がスイーツの棚に向かった直後、トキオはスアとユアに向かって言った。
「それなんですの?」
「来ればわかるよ。おいで」
「はい!」
「まず、この先のとがったのがコーンって言うんだけど、これの広く開いてる方を上にしてこの機会の下に持ってくる。それから、このレバーを引くとソフトクリームが出てくるから、とぐろ状になるようにコーンの方をゆっくり水平に回すと・・・できた!」
トキオは、出来上がったソフトクリームをスアとユアの顔の前に持って行った。
「すごいですわ!」
「これは生クリームですの?」
「近いけど、基本的にはアイスクリームだから冷たいんだよ。上の方を食べてみて」
スアは、差し出されたソフトクリームの一番上を小さく開いた口でパクリ食べた。
「冷た~い!でも、甘くておいしいですわ!」
「私も!」
続けてユアも同じように食べた。
「本当ですわ!」
「これはバニラだけど、バニラとチョコのミックスとか、バニラとストロベリーのミックスも作れるよ」
「やりたいですわ!」
二人が同時に答えた。
「じゃあ、1個ずつコーンを取って、さっき俺がやったみたいにやってみて」
「わかりましたわ!」
スアとユアは、右と左に分かれて、それぞれチョコとのミックスとストロベリーとのミックスの下にコーンを当て、トキオがやったようにレバーを引きながらソフトクリームをコーンの上にのせて行った。
「これ、難しいですわ」
「あ、曲がっちゃった!」
見ると、ユアのソフトクリームは少し曲がっていた。
「そのくらいなら初めてやったにしては上出来だよ」
テーブルに戻ってから、スアとユアはニコニコ顔でおいしそうにソフトクリームを食べていたが、そこにクロアとマキノが戻って来て「私も食べたい!」言い出したので、トキオは、もう一度説明に行く羽目になった。
その後、トキオがお腹が空いたとカレーライスとナポリタンのスパゲッティーを取って来たら、皆食べたいと言い出し、テーブルの上にいろんな種類のスパゲッティーも並ぶことになった。
そんなことをしていたら制限時間の70分があっという間に来てしまい、
「ええ~!」
「早いです~!」
「もっと食べたいですわ!」
「まだ食べてないお菓子がありますわ!」
と、皆から不満続出だったが、
「別のおいしい物を食べに連れて行くから」
と言って、なんとかなだめた。
帰りはバスにしたが、その車中でも、
「馬車より大きいのにすごく速いですわ!」
「こんなにたくさん人が乗れるなんてすごいですわ!」
といった感じで大騒ぎだったので、他の乗客の注目を浴びた。
(服を着替えても意味なかったな)
トキオは苦笑した。
最寄りのバス停で降りると、すでに暗くなり始めていたため通りに面したビルや商店に灯りが点き、看板にも灯が入り始めていた。すると、
「文字が光ってますわ!」
「お店の中が明るい!」
「道路に沿った高い位置にあるものが光ってます~」
と、大声を出すので、今度は通行人の注目を浴びた。トキオは、さすがに恥ずかしくなり、皆を急かしてマンションへと急いだ。
マンションに着くとトキオはすぐに風呂場に行ってみたが、きれいに掃除されていたので湯船の中を軽く流してからお湯を張り始めた。
「もう少ししたら風呂が沸くから順番に風呂に入ってくれ。狭い風呂だからせいぜい二人ずつしか入れないから、スアとユアは一人ずつクロアかマキノと一緒に入るのがいいな」
「わかりましたわ」
「おっと!シャワーとかの使い方を説明しないとだな。みんな一緒に来て」
「はい~」
「まず、この横のレバーをこっちに倒して上のレバーをひねると下の蛇口からお湯が出るんだよ。最初は冷たい水が出るけどすぐお湯になるから」
「えっ!レバーをひねるだけで水が・・・ホントにお湯に変わった!」
蛇口から水が出たことと、そこから湯気が立ち上るのを見て、皆はひどく驚いた。
「うん。それで、横のレバーを逆側に倒すと、今度はこのシャワーからお湯が出る」
「すごく細いお湯がいくつも出てますわ!」
「そうそう。体とか頭を洗ったあとに、これでシャボンを流すんだ」
「スゴいです~!」
「頭を洗うのはこの水色のボトルで、上を押すとその横の細い口からシャンプーが出るから、それを手に取って髪の毛を洗ってくれ」
トキオはそう言いながら、シャンプーのボトルをワンプッシュしてシャンプーを出して見せた。
「わっ!なんかドロッとした液体が出て来た!」
「これがこの世界の頭用の石鹸みたいなもんだよ。それで、洗い終わったら一旦シャワーで流して、今度はピンクのボトルのリンスを手に取ってから頭に満遍なく伸ばして。そうすると髪の毛がしっとりするからね」
「そんなのもあるんだ!」
「そう。それで、体用はこっち。これは、濡らしたタオルの上に出してから少しタオルを揉むと泡立つから、それで体を洗ってくれ」
「わかりましたわ」
「あと、タオルはドアの脇の棚にあるのを使って。大きいのが体を拭く用のバスタオルだからね」
「わかりました~」
「じゃあ、よろしく」
まず、クロアとユアが風呂に入った。
「待ってる間ヒマだろうから、キミたちはそこの本棚にあるマンガでも読んでて」
「マンガってなんですか~?」
「絵本みたいなものさ。同じタイトルのは続きものだから1と書いてあるヤツから読むんだよ」
「わかりました~」
マキノは、スアと一緒に本棚からマンガを1冊ずつ取った。最初は驚いた声を出したりしていたがすぐに夢中になって、ソファに腰掛けて静かに読み始めた。
その間、トキオはデスクトップ・パソコンを起動して調べ物を始めた。
「出たわよ」
「シャワー、気持ちよかったですわ!」
30分ほどすると、クロアとユアが風呂から出て来た。ユアは、ニコニコ顔だった。
「じゃあ、交代で入って」
トキオは、マキノとスアに言った。
「もう少しこれ読みたいですわ」
「面白いです~」
(そうか、そうなるよな~)
トキオは、しまったと思ったが、良い手を思いついた。
「風呂から出て来てから続きを読めばいいでしょ?あんまり遅くなると、おいしい食べ物屋のお店が閉まっちゃうよ!」
「えっ?それは困ります~」
「すぐに入ってきますわ!」
二人は慌てて風呂場に向かった。
「あの子たち、なにを読んでたの?」
クロアが、マキノとスアがソファの前のテーブルに置いて行ったマンガを取り上げて聞いてきた。
「マンガさ」
「マンガ?・・・細かい絵がたくさん描いてある絵本みたい!」
「そうですの?」
クロアは、ユアに1冊渡した。
「・・・すごいですわ!こんなの初めて見ましたわ!」
「あっちの世界にはないからな。おっと、それはマキノとスアの読みかけだから別のにした方がいいぞ。そっちの本棚にたくさんあるから」
そう言われて、クロアとユアは、本棚に行ってそこから1冊ずつを手に取った。
「ドラ○ンボール?」
「ワ○ピース?」
「ああ、その二つは特に面白いからおすすめだな」
「へ~」
二人は、マキノ達と同じようにすぐに夢中になり、ソファに座って読み始めた。




