第560話 プライド
「これにしましたわ」
戻って来たスアとユアは、セーラー服をモチーフにしたお揃いの紺色のワンピースを着ていた。
「おお、似合ってて可愛いよ。ワンピースなら動きやすくていいしね」
「はい、すごく動きやすいですわ!」
「それに、とても軽いですわ!」
(ああ、今まで来てた服はごちゃごちゃと装飾されてたから結構重かったんだろうな)
「その脱いだ服はきれいに畳んでもらえますか?このスーツケースに入れるので」
「わかりました。では、こちらへどうぞ」
3人は、店員と一緒にレジに移動した。
「お二人ともすごく上品な物腰と言葉遣いですし、着ていた服もすごく仕立ての良い物でしたけど、由緒正しい家柄ののお嬢さんなんですか?」
歩いて行く途中で、店員の一人に小声で聞かれた。
「まあ、そうですね。侯爵令嬢、つまり貴族ですから」
「ええっ!?」
店員はひどく驚いた顔でスアとユアを見たが、二人は、おしゃべりをしていたため、そのことには気付かなかった。
レジで支払いをしているとクロアがやって来た。
「欲しい服があるんだけど買ってもらっていい?あとで銀貨で払うから」
「わかった」
トキオは、金を出させるつもりはなかったが、やり取りが面倒くさそうだったのでそう答えた。
それから、スアとユアの今まで来ていた服と買った服の残りをスーツケースに入れてもらい、婦人服売り場に移動するためにスーツケースの上部の取っ手を引き出し、引いて転がしながら移動を始めたらスアとユアが興味深そうな様子でスーツケースに近寄って来た。
「そのケースって転がすための小さな車輪が付いてるんですのね!」
「ケースの中から取っ手が出て来ましたわ!」
「うん。これは長期旅行用のスーツケースで、楽に歩いて移動できるように引き出し式の取っ手と車輪が付いてるのさ・・・やってみたい?」
「はい!」
トキオが、まずスアにスーツケースを渡すと、嬉しそうな顔でスーツケースの方を向いたまま後退で進みながら引き始めた。
「軽いですわ!」
「次は私よ!」
「もうちょっと!」
「ええ~?・・・本当にちょっとだからね!」
そそれから前を向いて10メートルほど進むと、ユアがずっと睨んでいるので渋々という感じでスーツケースを渡した。
「本当ですわ!中にいっぱい入っているのに楽に進めますわ!」
二人は楽しそうに交代で引っ張って行った。
婦人服売り場に着くと、マキノがたっぷり服の入った店内用のカゴを両手に一つずつ持って立っていた。
「え?それ全部買うの?」
「そうです~。ダメですか~?」
「ま、まあ、大丈夫だよ」
「ありがとうございます~!」
マキノは満面の笑みになった。
(高級ブティックとかに行かなくて良かった。けど、こっちのものはどれも珍しいだろうからこれからも色々と買い物するんじゃないのか?金足りるかなあ・・・)
トキオは心配になって来た。
「それじゃスイーツの店に行くか」
店を出たところでトキオが言った。
「やった!」
「あ、そうだ!色んな種類が食べられるから食べ放題の店に行こう!」
「それどういうの?」
「時間制限はあるんだけど、2、30種類のケーキなんかをいくつでも食べていいって店があるんだよ」
「ホント!?」
「それいいですわ!」
「行きたいですわ!」
「たくさん食べたいです~!」
「じゃあ、レッツゴー!」
「おー!」
「あ、その前に現金しか使えないかもしれないからお金おろさないと」
「え?どういうこと?」
「銀行に預けてあるお金を引き出すってこと」
「ああ、わかったわ」
向こうの世界にも銀行はあるので、皆はすぐに了解した。
銀行のキャッシュコーナーに入って行くと、大きな店舗だったせいで空いていた。
トキオがATMに近寄って行くと4人は付いてきたが、財布からキャッシュカードを出してATMに挿入すると不思議そうな顔をした。
「それ、何してんの?」
「今入れたカードで誰の口座かがわかるんだよ。あとは金額を入れればその金が出てくるのさ」
「え?ホントに?」
皆、驚いた顔になったが、そのまま待っているとすぐに電子音とともに1万円札が10枚出て来た。
「ん?なんか紙が出て来たわよ?」
「あ、そうか。あっちの世界には紙幣がないもんな。これがこの世界のお金なのさ」
「え~!?」
4人が大きな驚きの声を上げたので、周りにいた人たちが一斉にこっちを見た。
「ちょっと静かにして」
トキオが口に人差し指を当てながら言った。
「あ、ごめんなさい・・・でも、さっき飲み物を買うときは硬貨を入れてたわよね?」
「硬貨は少額用のお金で、大きな金額になるとこの紙のお金になるのさ」
「へえ~」
「さあ、用は済んだから行こう」
「は~い」
トキオは、周りからジロジロ見られたていたので恥ずかしくなって、取引明細ののレシートを取ると内容を見ずに財布に押し込んで、そそくさとキャッシュコーナーを出た。
スイーツ食べ放題の店に着くと、平日の午後なのに結構にぎわっていたが、空席はありそうだった。ただ、都心の店舗のせいか、客は女性だけだった。
(わっちゃー!女しかいないじゃん。しかも若い子ばかりで。俺、完全に浮いてるなあ)
トキオは、かなり恥ずかしい気分になったが、今更他の店に行くと言っても皆が承知しないと思い入ることにした。
券売機で5人分のチケットを買って店員に見せると6人掛けのテーブル席に案内してくれた。
「じゃあ、説明するから一緒に来て」
「は~い」
トキオは、離席中の札をテーブルに置くと、4人を引き連れてケーキが並んでるコーナーへ行った。
「わあ!」
「すごいです~」
「たくさんありますわ!」
「全部おいしそうですわ!」
「はいはい。まず、このトレーを一つずつ持ってね」
「はい!」
「それで、それぞれのスイーツのところにある挟むやつやスプーンで好きなのを取ったらさっきの席に戻って食べるんだよ」
「はい!」
返事するや否や、4人はスイーツの棚に貼り付くと、乗り出すようにキョロキョロと品定めを始めた。
「これおいしそう!」
「これ可愛いですわ!」
「こっちは綺麗な色ですわ!」
「どれもおいしそうです~」
「あっちに果物もあるからね」
「ホントだ!でも、まずはお菓子ね!」
「そうですわ!」
「でも、どれにするか悩みますわ!」
「食べ放題なんだから、何度でも取りに来ていいいんだよ」
「あ、そうか!」
「じゃあ、順番に端っこから取って行きます~」
「そうしますわ!」
それからは早かった。
トキオも3つほど取ってから一緒にテーブルに戻った。
「あと、飲み物も飲み放題だからね。スイーツは置いたままこっちに来て」
「そうなの?」
「それいいです~」
それからドリンクコーナー行き、一人ずつ飲み物を持ってテーブルに戻った。
「じゃあ、食べよう。全部食べ終わったら、また取って来ていいからね」
「はい!」
「おいしいです~!」
まず、マキノが一口食べて満面の笑みで言った。
「今まで食べたことのない味がしますわ」
「味もまあまあですわ」
それに対し、スアとユアは割と冷静なコメントだった。
(ああ、貴族だから美味しいスイーツは食べ慣れてるんだな。じゃあ、ジュリオのスイーツを食べ慣れてるクロアも・・・)
「甘くっておいしい~!」
トキオの予想を裏切るようにクロアが嬉しそうな顔で言った。
(なんで???・・・・そうか。ジュリオの作るスイーツは甘さが控えめだからか)
トキオは納得した。
そんな感じで4人がスイーツを満喫していると、派手な化粧をした女子高生が二人寄って来た。
「そのウィッグどこで売ってんの?」
一番通路側に座っていたスアの横に来ると、そのうちの一人が言った。
「縦ロールがスゴいんだけど」
もう一人がそう言いながらスアの髪の縦ロール部分を触った。
パシン!
途端に、スアがその手を激しく払いのけてその女子高生を睨んだ。
「黙って人の髪の毛を触るなんて失礼ですわ!」
二人の女子高生は、一瞬唖然とした表情になったが、すぐに怒りの表情になってスアをにらみ返した。
「ガキんちょのくせに生意気だよ!」
「ふざけんな!」
一人がスアの胸倉に手を伸ばしたので、スアの対面にいたトキオは立ち上がってその手首を掴んだ。
「なんだオッサン!」
「ええ~?俺まだ28なんだけど」
「十分にオッサンだよ!勝手に人の手を掴んでんじゃねーよ!」
「それは、この子に対してキミが先にやっただろ?」
「手首なんか掴んでねーよ!離せよ!」
「さてはお前チカンだな!」
「そうだ!チカンだよ!警察呼べ!警察!」
その子が店員に向かって言った。
「はい、呼んだかい?」
トキオは、懐から警察手帳を出すと、二人の顔の前に持って行ってぶらぶらと振った。
「え?な・・・」
「これ以上騒ぐとキミたちを補導しなくちゃいけなくなるんだが」
「何もしてねーだろ!」
「俺に抵抗すると立派に公務執行妨害になるねえ」
「わかったよ!離せよ!」
「じゃあ、大人しくしてね」
トキオは、手を離した。
「この人たち言葉がひどいですわ。育ちが知れますわね」
それと同時に、スアの隣に座っていたユアが言った。
「こんのぉ!」
それを聞いた途端、もう一人がスア越しにユアに掴みかかろうとした。すると、それを予想していたのか、スアがその腕の下に人差し指を当てた。
「痛っ!」
途端にその子は、顔をゆがめて手を引っ込めた。
「どうしたの!」
もう一人が慌てた声で聞いた。
「わかんない。なんか急にビリっと来た」
(あ、弱い雷魔法使ったな)
トキオは思った。
「なにすんだよ!」
もう一人が今度はスアに掴みかかろうとしたが、スアは、その手の平の真ん中に指を当てた。
「熱っ!」
その子はひきつった顔で手を引っ込めた。
(今度は火魔法か)
「なにこいつら!?」
二人は、かなり困惑した顔になっていた。
「この子たちは特殊な拳法を習得してるんだよ。これ以上手を出すと骨折程度じゃ済まなくなるよ」
「お前、なに言って・・・」
「ちょっと、こいつらなんかヤバいよ。もう行こう」
一人は完全に弱気になっていた。
「くそっ!覚えてろよ!」
もう一人もあきらめたのか、お決まりの捨て台詞を吐いた。
「わかった。覚えとくよ」
トキオは、そう答えてほほ笑んだ。
「チッ!」
最後に、二人して舌打ちして去って行った。




