第50話 聖光祭
「じゃあ、俺はそろそろ帰るけど、ミレリアはどうする?」
「あ、私はまだ会場の片づけがありますので、それが終わってから帰ります」
「あ、そうか。手伝おうか?」
「いえ、うちのスタッフはみんな若くて体力があるから大丈夫です。トキオさんこそ、解説や挨拶でお疲れでしょうからお先にどうぞ」
「そう?悪いね。正直に言うと、初めて大会を主催したから気疲れしちゃってね。冒険者の仕事の方がよっぽど疲れないよ」
「ふふふ、トキオさんらしいですね。それでは、お疲れさまでした」
「ああ、お疲れさま。ミレリアも慣れない実況をありがとう。早めに帰ってね」
「ありがとうございます。わかりました」
トキオが公民館の外に出ると、大通りに降りて行く階段の上で、テリットとブロームが何か飲みながら話をしていた。
「あれ?テリット、ブローム、待っててくれたの?」
その声で二人はトキオの方を見た。
「終わったか。お疲れさん」
「色々と大変だったな」
「いや、二人こそ、試合で疲れてるでしょうに。悪いね」
「お前さん、アティムの聖光祭は初めてだろ?色々と案内してやろうと思ってな」
「ああ、そういうことか。ありがとう。うん、初めて。というか、聖光祭そのものが、この街に限らず初めてだよ」
「そういえばお前、聖光祭を知らなかったな。じゃあ、何をやるかも知らないんだな」
「おい、ここで話してると時間がもったいないから、見て回りながら話そうぜ」
「ああ、そうだな。じゃあ、トキオ着いて来て」
「うん」
トキオはテリットとブロームのあとについて大通りに降りて行った。
「なにしてんのよ」
大通りに出て歩き始めたところで、後ろから女性の声がしたので振り返ったらクロアだった。
「おあ!クロア!帰ったんじゃなかったの?」
「1回、アパートに帰ったわよ。そしたら、通りの方が騒がしくなってきたから見に来たのよ」
「聖光祭は夕方からが本番だからな。人が急に増えるし、色々とイベントも始まるから、その音だろ」
テリットが、何かのイベントをやってる方を指して言った。
「そういえばクロアもアティムの聖光祭は初めてだろ?トキオに色々と説明しようとしてたところだ。一緒に来るか?」
「あらそう。女の子がいた方がみんなも楽しいでしょ?しょうがないからついて行ってあげるわ」
「ははははは!その通りだな!じゃあ行こう!」
4人は並んで歩き出した。
「トキオは聖光教の信者じゃないみたいだから知らないだろうが、聖光祭は、まず、教会にお祈りに行くところから始まるんだ。教会は朝の6時から開いているから、今日の柔道大会に参加したヤツらは朝のうちに行って来たんだよ」
「あ、そうだったんだ。でも、聖光祭の日だけなの?」
「熱心な信者は毎週行ってるが、俺やブロームのような親が聖光教団に入ってるからなんとなく聖光教徒みたいになってる人間は、まあ、めったに行かないな」
「あー、宗教がそれほど生活に密着してない感じなんだね」
「まあ、そうだな。人によるけどな」
「じゃあ、うちの村と大差ないな」
「そうなのか?でも、聖光祭を知らなかったぐらいだから、村全体が聖光教徒じゃないってことだろ?」
「そうだね。うちの方は、一応、仏教が多いんだけど、ホントに『一応』って人がほとんどだね」
「仏教?・・・聞かないなあ。どんな神様なんだ?」
「あ゛!・・・・・えーと、今度時間があったときに話すよ」
「なんか今『まずい!』って顔したわね?やっぱりなんか隠してるでしょ!」
「え?・・・・いや、別に何もないよ。ちょっと説明が面倒くさいなあと思っただけだよ」
「そうかしら?怪しいわねえ」
(クロアってこういうとこ鋭いよなあ。一緒にいる時は注意しなくちゃ)
「そ、それよりテリット、聖光祭のことを色々教えてよ。ホントに何も知らないから」
「そうだよな。じゃあ、まずあそこでやってる舞踏を見に行こうか」
テリットがそう言って周りに人だかりができている舞台を指したので、4人はそこへ向かって歩きだした。
そのころ、王都ネオカビスでは・・・
「困ったものだな」
キロウ司教は、そう言いながら自室に入ると、イライラした様子で応接ソファにどっかと腰を下ろした。
そのうしろからついて来たミヒール司祭も、その対面に静かに腰を下ろした。
「申し訳ございません。エモダイスの街のハイマンという男が柔道の達人と聞き、もしや彼こそが!と思ったんですが、彼もさらに南の街の冒険者に習ったということでした。その街にも行きたかったのですが、聖光祭の式典を欠席するわけにはまいりませんので、断念して戻ってまいりました」
「そうか。遠いところから1日で戻って来て疲れてはいるだろうが、もう少し状況を聞かせてくれるか」
「はい。まず最初に、ここから北北西の街『ノモナロット』に向かったのですが、そこで北東の街から伝わったと聞き、そこへ行ったところ、今度は東の街と言われまして、さらにそこから、南、南西、東、南と周らされ、そこですでに王都より南側になる街になっておりました。さらに南の街、オーリーを経てエモダイスの街にたどり着いたわけですが、結局はすべて徒労に終わりました」
「そうか。一体どうなっているのだ・・・」
「戻りが式典間際になってしまったため朝の報告会に出席できませんでしたが、他の街を訪ねた者の報告はどうなっておりますでしょうか」
「同じようなものだ。やはり、いくつもの街を周らされ、結局はすべて徒労に終わっておる」
「そうですか・・・本当に困りました」
「ただ、朝の報告会で本日の式典のために一旦戻って来た全員に聞いたところ、皆、王都より南側の街までたどり着いておった。どうやら、召喚者は南の方にいるようだ」
「おお、そうなのですね。ここのギルドで聞いた時は南はないと思ったんですが、まったく当てが外れましたね」
「そうだな。どうやら、他の者が現地のギルドで聞いたところによると、ギルドは外部からの侵入者を警戒して、国境に近い地域に一番神経を使っているため、何か伝達事項があると国境に近いところから伝わって行き、中央に近いこの王都には最後に伝わってくるそうだ」
「なんと!連絡ルートがそんな風になっていたとは!」
「ああ、ワシもそこまでは考えが至らなかった。まあ、言われてみればもっともなことではあるのだが」
「そうですか。では、南東と南西の国境付近の街に聞き込みをすれば、召喚者様にたどり着くのが早くなりそうですね」
「そうだな。では、手分けしてそこへ向かってくれるか」
「承知いたしました。では、指示を出してから早速出立いたしましょう」
「いや、今日は家に戻って休んでくれ。出立は明日で良い」
「いえ、一刻も早く・・・」
「だめだ!見たところ相当に疲労が溜まっているぞ。上に立つお前が倒れてしまったら、召喚者探しに支障が出るではないか。今日は休め」
「は!かしこまりました。お気遣いありがとうございます」
「厳しいことを言うようだが、お前を気遣っているわけではない。召喚者を少しでも早く見つけるために必要なことをしろと言っているのだ。お前はやることががむしゃら過ぎる。自分の行動がどういう結果を招くかをよく考えて行動することだ」
「わかりました。申し訳ございません」
「頼んだぞ。お前が一番頼りなのだ」
「は!気を付けます」
「話は変わるが、各街を周ってみて魔物とその討伐の状況はどうだったのだ?」
「宿泊をした街で主にギルドから話を聞いてまいりましたが、召喚者様の偉業により、各冒険者は、武器を質の高いものに買い替え、格闘技と武器への強化魔法によって戦闘力も上がり、召喚者様が現れる前よりかなり楽に討伐が進められるようになり、以前は数パーティーが合同でかからないと討伐が難しかったグリベラーや人型の魔物でさえ、単独のパーティーで討伐できるようになってきたとのことです。そのため、1日にあたりの魔物の討伐数が増えて魔物の増加速度が鈍り、魔物による被害は確実に減ってきております」
「おお!そうか!それは素晴らしい!苦労して召喚した甲斐があったな」
「はい!さらには、魔物の被害が増え続けたことで知人を殺された冒険者も多く、精神的に参ってしまう者が結構な数おりましたが、召喚者様が持ち込んだ、腕相撲、ダーツ、サッカーなどの娯楽によって気分転換ができるようになって、そういった者の数が確実に減ってきているそうです。そして、これも魔物討伐に貢献しております」
「そうか、そうか」
「はい!そういった話を聞くたびに嬉しく思いました。しかし、だからこそ、早く召喚者様を探し出して、整った環境でもっと力を発揮していただきたいという思いが強くなりました」
「そうだな、そうだな」
司教の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見たミヒール司祭も、自分の目が潤んでくるのを感じた。
「それでは、まだまだ困難な道が待っておるかも知れんが、よろしく頼んだぞ」
「かしこまりました」
「光を我らに」
「光を我らに」
ミヒール司祭は、聖光教団本部を出て久しぶりにわが家への帰路についたが、その道中、今、自分が司教に話したことを思い出し、召喚者が成した偉業が国中で効果を上げていることを実感して自然と顔がほころぶのだった。
「しかし、司教様がおっしゃられた通り、大分疲れてが溜まっているな。今日は早く寝ることにしよう」
改めてそう考えてみると、召喚者を探す旅に出てから自分が少しも休もうとしていなかったことに気付き、それではいけないと思い直すのであった。
「司教様に言われた通り、今まではひたすらがむしゃらにやって来たが、これからは、少しでも早く召喚者様を見つけ出すための最善策を考えながら行動せねば」
そう考えながら、ミヒール司祭は自宅への道を急ぐのだった。




