第30話 オークとの厳しい戦い?
「おい!大変だぞ!」
トキオが、アウレラ、ブロームと談笑しながらギルドの飲食コーナーで朝食を食べていると、テリットが緊張した顔で事務所の方から出て来た。
「どうした?」
ブロームが引き締まった顔になって聞いた。
「隣町の郊外にある集落が、突然、30体ほどのオークに襲われて全滅したらしい」
「なんだって!」
「そんな!」
ブロームとアウレラが驚きの声を上げた。
そういう事態に遭遇したことのなかったトキオは、驚きすぎて絶句してしまった。
「先日のゴブリンのこともあるから街では警戒はしていたらしいが、どうもオークは夜中に移動してきたらしく、明け方近くに襲われて、見張りの一人があわてて街に知らせに走ったんだが間に合わなかったらしい」
「そうか・・・」
「それで、駆け付けた街の冒険者たちがオークの足跡をたどったところ、ゴブリンがいた洞窟から現れたことがわかった」
「え?あそこはゴブリンだけじゃなかったの?」
アウレラが驚いて聞いた。
「いや、下の階層に別の魔物がいることは声や音で以前からわかってたんだが、今までは何も動きがないし、数も少なそうだから、警戒はしていたものの特に討伐のようなことはしてなかったらしい。下の階層には誰も足を踏み入れたことがないから、下手に行って大きな犠牲が出ても困るからって理由だったそうだ」
「そうなんだ・・・」
「それで、他の集落が襲われたり、街を襲撃されたりする可能性があるから討伐に行くことになった。今回は、相手がゴブリンより数段厄介なオークだし、数もかなりいると思われるから、うちの街だけじゃなくて、他にも2つの街に依頼を出したってことだから、かなり大掛かりな討伐になる。しかも、できるだけ早く来てほしいってことだったので、支部長から出られる者は今すぐ出発して欲しいと要請があった」
「わかった」
「了解よ」
「すぐ用意しよう」
「じゃあ、俺は馬車の調整をしてくるから、みんな外で待っていてくれ」
テリットは、そう言って出て行った。
(しかし、オークかあ。見るの初めてだなあ。本物のオークってどんな感じなのかなあ)
トキオは、アウレラ、ブロームと一緒に、立ち上がって準備をしている時にそう考えたため、思わず顔が緩んでしまった。
しかし、すぐにそれに気づいたので、下を向くと、ほっぺたを両手で引っ張って顔のゆるみを直そうとした。
「トキオ、なにしてるの?」
その様子に気づいたアウレラが聞いた。
「あ、いや、ちょっと気を引き締めて行かないとなあと思ってね」
そう言って顔を上げたトキオだったが、無理やり顔を引き締めようとしたため、かなりの変顔になっていた。
「ぷっ!なによその顔」
「こんな時に、なんて顔してんだよ」
「え?ああ、俺、緊張するとこんな顔になるんだよ」
「そうなの~?」
「面白いヤツだな」
そう言うと、二人はあきれ顔で先にギルドの外に向かった。
今回は時間短縮のために、直接オークのいる場所に向かった。
着いてみると、4つの街の合同討伐と言うだけあって、トキオが今まで見たこともないほどの数の冒険者がいて、みんな緊張した顔をしていた。
「みんな、聞いてくれ」
馬車の御者台に乗ったエルンストの声で、全員、彼を注目した。
「さきほど、各街のリーダーには隊列を含めて作戦の概要は説明したが、今回は事前に詳細な打ち合わせをする時間がなかったから、全員には簡単な説明になる。集落を襲ったオークは30体ほどだったということだから、この奥には100体、もしかすると200体以上いる可能性がある」
「マジか!?」
「ホントに!?」
「考えられるな」
「そういうことだから、今回は、全員固まって行く。後方を担当するアティムの街のパーティーは後ろから襲撃されないように常に注意していてくれ。他の者たちも左右に注意することを忘れないように。洞窟内は狭いから、固まって行けばまとまった数を同時に相手にすることにはならないはずだ」
「わかった!」
「おう!」
「了解よ」
各リーダーが口々に答えた
「厳しい戦いになると思うが、それだけたくさんいるってことはドロップアイテムもたくさん取れるってことだ。集落を襲撃したオークのうち、住民に反撃されてやられたオークからは銀貨が3枚出たらしいから、それを支えにして頑張ってくれ」
「そうか!そうだな!」
「よし!頑張るぞ!」
「その数だとすごい額になるな!」
「やるぞー!」
エルンストの横にいたルニエのその言葉で、皆、気合が入ったようだった。
「みんな、準備はいいか?じゃあ、行くぞ!」
「おおー!」
そう声を上げて皆が洞窟・・・ダンジョンの入口に向かおうとした時、その奥から「ドドドドド」という地響きが聞こえてきた。
何事かと皆が足を止めて入口を見ていると、手に手に、鉈や斧を持ったオークが何体も一気に飛び出してきた。
「しまった!先手を取られたぞ!」
誰かが叫んだ。
皆は一瞬たじろいだが、ベテランの冒険者が多かったため、すぐにオークを迎え撃ち、それからは、完全に混戦になった。
トキオも、ライキリを抜いて向かってくるオークに立ち向かったが、スピードはなかったので簡単に攻撃をかわすと横から首を切り落とした。
しかし、入り口を見ると、後から後からどんどんオークが出てきていたので、このままでは一度に大量のオークを相手にすることになり、かなりまずい状況になると思われた。
(出てくる奴らをなんとかしないと・・・あ、そうか!)
「みんな、入り口から離れて!」
その言葉を聞いた他の冒険者は、オークを相手にしながら入り口から遠ざかった。
それを確認したトキオは、ライキリを地面に突き立てると四股立ちの姿勢を取った。
「はあああぁぁぁぁぁぁ・・・はっ!」
突き出したトキオの右手から巨大な光の玉が飛び出し、猛スピードで飛んで行った。
ドォーーーン!
それが入り口に直撃すると、その周辺の岩が崩れ落ち、さらにはその先の通路の天井が奥行30メートルほど崩落して、その部分の岩肌が陥没した。
入り口のそばまで来ていたオークたちは声を出す間もなく岩の下敷きになり、その後ろにいたオークたちは外に出られなくなって立ち往生した。
「え!?」
「なに?」
「どうなった!?」
冒険者たちは、皆、わけがわからず困惑した声を上げたが、しばらくは目の前のオークの相手を続けた。
外に出てきていたオークをすべて倒し終わると、アウレラがぼそりと言った。
「えーと・・・・・終わり?」
「・・・そのようだな」
エルンストが言った。
「は?」
「ホント?」
他の者はポカーンとした表情でトキオを見た。
トキオはなんだかばつの悪い感じになって、思わずテリットを見た。
「えーと、楽に討伐できたから・・・良かったな」
テリットがトキオを庇うように皆の方を向いて言った。
「ああ、確かにな・・・ドロップアイテムは少しになったけど」
ルニエが言った。
(あ、そうか!忘れてた!)
トキオは、冒険者たちがそれを期待していたことを完全に忘れていた。
皆の顔を改めて見ると、嬉しさ半分、残念さ半分という微妙な表情になっている者がほとんどだった。
「ま、まあ、オークの武器がかすったヤツはいたみたいだけど、誰も大ケガしなかったから良かったんじゃないか」
テリットがさらに言った。
「そうだな。助かったな。それと、入り口が完全に潰れたようで、他に入り口はないから、もう、ここからオークが出てくることもないだろう。街や集落がオークに脅かされることがなくなったということが一番大事だ」
エルンストがそう言うと、やっと皆は安堵した表情になって武器を仕舞った。
エルンストがトキオの方に歩いてきた。
「また助けられたな。しかし、なんだ今の魔法の威力は!今日は、ガードコフを連れてこなくて良かったよ」
そう言って苦笑した。
テリットも寄って来た。
「今の光魔法、ゴブリン討伐の時より全然威力が上がってたじゃないか!どうやったんだ?」
「実は、人型の魔物が増えてきたから練習してたんだよ」
「えー!いつの間に!?」
アウレラも来た。
「夜だと街の外の練習場に誰も来なくて好都合だったから、そこで毎日」
「どれくらい前からやってたんだ?」
ブロームも来て聞いた。
「1か月半くらい前からかな。大体コツがつかめたから2週間前にやめちゃったけどね」
「しばらく居酒屋に現れなかったことがあったと思ったら、そういうことだったのか」
「まあ、なんにしろ、今日は下手すると死人が出るかもしれないと思っていたからすごく助かったよ。ドロップアイテムのことは気にするな」
エルンストが、優しい顔で言った。
「お金は、また別の討伐をして稼げばいいしな」
「そうそう」
「その通りだ」
テリットたちも言った。
トキオの光魔法のせい・・・いや、おかげで、倒したオークの数はかなり少なくなったが、それでも42体いて、1体から銀貨が2枚から5枚採れたので、一人に銀貨2枚以上の稼ぎになった。
結果的には、簡単な討伐で結構な収入があったことになって皆は満足したようで、トキオが馬車に戻る途中で、
「今日はありがとな!」
「助かったよ!」
「また、頼むぞ!」
と、声をかけられた。
トキオは照れくさくてうつむいて歩いていたが、
「トキオ、ステキ!」
という女性の声がした時は、思わずそっちの方を見た。
しかし、かなり年配であまり美人でもない人だったので、すぐに視線を戻した。
帰りの馬車の中でトキオは考えた。
(今日の光魔法は、気合が入っていたせいか、かなり威力が高かったな。これなら有効に使えそうだけど、ダンジョン内で使うと天井が落ちてきたりして危ないから注意しないとな)
(しかし、すぐに入り口をふさいだのはちょっと失敗だったな。ドロップアイテムは置いといても、初めて相手にしたオークがどの程度の強さなのかほとんどわからなかったからな。俺が切り捨てたやつがオークの中で強い個体なのか弱い個体なのかもわからなかったし)
(まあしかし、今日はそんなことを言ってられる状況じゃなかったな)
そんなことを考えているうちに眠気が襲ってきた。
(やっぱり、威力の高い魔法を使うとかなり疲れるんだな)
そう思った途端、トキオは眠りに落ちた。
エルンストの予想通り、ここにはオークが200体ほどいたが、完全に閉じ込められることになったため、しばらくののち、半分は餓死した。
しかし、さらに下の階層には別の大きな魔物が潜んでおり、残りの半分はその魔物の餌になった。
そして、その魔物は、オークを食らうたびに力を増していったのだった。




