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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第1章 アティム編

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第29話 良い子は外で遊びましょう

「あ、トキオ!ちょっと話があるんだけど」


 休日の昼近く、トキオが冬服を買おうと洋服店に向かっていると、後ろから声をかけられた。


 振り返ると、子供をトキオの柔道教室に通わせている母親の一人だった。


「あ、どうも。なに?」

(そういえば、この人の名前知らないなあ。まあ、別にいいけど)


「あのダーツってのをみんなに教えたのはトキオ?」

「そうだけど」

「うちの人が買ってきたら子供たちも夢中になっちゃって」

「あ、そう。楽しんでもらえてなにより」


「困るのよ!」


「え?なんで?」

「ダーツを始めてから、近所の子供たちもうちに集まって、毎日、学校から帰ってきたら、柔道教室に行ってる時間以外はずーっとダーツやってるんだから!」

「あらら。それで勉強しなくなって困ってると」


「そうじゃないわよ!うちの子は頭悪いし、どうせ、大人になってもうちの農家を継ぐか冒険者になるかだから、勉強なんかほどほどでいいのよ。そうじゃなくて、外で遊ばなくなったのがダメなの!」

「え?・・・よくわかんないんだけど」

「何言ってるの!子供は外で遊ぶのが当たり前でしょ!柔道教室に通わせてると言っても、やるのは室内だし、家に帰ってからもずっと室内じゃ不健康じゃないの!」

「はあ・・・」

「体もなまっちゃうでしょ!農家にしろ、冒険者にしろ、体力が勝負なんだから、今のうちに体鍛えとかないでどうするの!」

「あ、まあ、確かにその通りで・・・」

「私の言うことなんか聞きやしないんだから、トキオからも言ってもらって、やめさせてくれないと困るのよ!」

「あ、そういうこと・・・・じゃあ、柔道教室に来たとき話しとくから」

「頼んだわよ!」


 きつい口調でそう言うと、その母親は去って行った。


(うーん・・・ああは言ったけど、母親が言っても聞かないことは、俺が言ったって聞かないと思うなあ。困ったぞ・・・)


 トキオはそのまま、どうしようか思案しながら俯《うつむ》いて歩いていた。


(あ、そうか!要は外で遊ぶようにすればいいのか!じゃあ、あれをやらせよう!)

 そう思いついて顔を上げたら、いつの間にか西門の近くまで来ていた。


「ありゃ、行き過ぎちゃった。あ、でも、革製品を売ってるのは確かこの辺りだったな。ちょうどいいや」


 トキオはそう呟くと、革製品を扱っている店に向かって行った。




 次の日の夕方、柔道教室に通って来た子供たちの前に現れたトキオは、手に皮でできていると思われるこげ茶色の大きな玉のようなものを持っていた。


「はい、ちゅーもーく!」

 おしゃべりをしていた子供たちがトキオに注目すると、トキオは続けた。


「俺が今持っているのは、ボールっていうものね」

「ボール?」

「そうボール」


「グリベラーの皮で作ってあって、中には空気がパンパンに入ってて、こんな風に弾むんだよ」

 トキオは、バスケットボールのドリブルのようにその場でボールをついて見せた。


「へえ~」

 少し、子供たちの興味を引いたようだった。


「それで、今日はこのボールを使って、瞬発力の訓練をするよー」

「しゅんぱつりょく?」

「素早く動けるようになるための訓練ってことだな」

「おお~」

 子供たちには、こっちの方が興味を引いたようだった。


「じゃあみんな、靴を履いて外に出て」




「俺の後ろに2本、棒が立ってるのが見えるでしょ」

 子供たちと一緒に外に出ると、トキオは言った。


 子供たちは、言われた通りトキオの後ろを見た。するとそこには2本の棒が少し離れて立っていて、その上端は、ピンと張ったロープで結ばれていた。


「そして、キミたちの後ろにも同じものがある」


 子供たちが振り返ると、確かにそこにも同じものがあった。


「あれはゴールって言うものね」

「ふーん・・・」


「今日来てるのは・・・14人か。じゃあ、7人ずつに分かれてくれる?」


 トキオが、子供たちの真ん中を手刀で切って開くようなしぐさをすると、子供たちは、その通りに7人ずつ左右に移動した。


「はい。じゃあ、こっちのチームをウサギさんチーム、こっちのチームをネコさんチームとするよ」

「なんだそれー」

「いいの!・・・それで、ウサギさんチームは、キミたちの後ろのゴールに向かって、ネコさんチームは俺の後ろのゴールに向かって、足でこのボールを蹴って入れるってわけ」

「ふーん」

「あ、使えるのは足だけだからね。手で触ったりしたら反則。他の人の体に触れるのも、足だろうと反則。いい?」

「ふーん」

「蹴り方はこんな感じ」


 トキオは、壁に向かって色んな蹴り方で何回かボールを蹴って見せた。


「おおー!」

 子供たちから、この日一番の声が上がった。



「それで、一人だけゴールキーパーって人がいて、その人はずっとゴールの前にいて、相手チームが蹴ったボールが自分のゴールに入らないように止める役ね。この人だけは手を使っていいのね」

「なんでいいのー?」

「それはね・・・知らない(笑)」

「ええ~!」

「ひどいぞー!」


「そういうルールなの!とにかく、このゲームは『サッカー』って言うんだ。これをやると、瞬発力と咄嗟《とっさ》の判断力が鍛えられていいぞー」

「おお~」

 子供たちは、驚きと嬉しさが入り混じったような声を上げた。



「じゃあ、とりあえずやってみようか。ゴールキーパーは・・・一番体の大きな、ヒイロとアスマに頼もう」

「わかったー」



「じゃあ、一番近いところにいる、ターバルとコノリー、じゃんけんして」


 二人は言われたとおりにじゃんけんをして、コノリーが勝った。


「じゃあ、ネコさんチームのボールで開始だな。俺が、この真ん中の円の中央にボールを置くから、コノリーだけそのそばに立って、他の子は少し下がって。俺が合図したら、同じチームの他の子にボールをパスしながら、相手のゴールに入るように蹴るんだよ」


「パスってなーに?」

「他の人に蹴ってボールを渡すことだよ。そうかー、いきなりじゃうまくできないよな。ちょっと練習しよう。このボールを皆で蹴って他の人にパスしてね。ボールを受けた人は、蹴ってくれた人とは別の人にパスするんだよ」


 そう言うと、トキオはボールを地面に置いてから、蹴ってコノリーにパスした。

 受けたコノリーは、隣にいた子にパスした。


 そして、それから10分ぐらい全員でパス回しの練習をした。


 最初は、皆うまくできなかったが、だいたい思っているところに蹴れるようになると、楽しくなってきたようできゃっきゃっとはしゃぎながらパスを回すようになった。



「次は、走りながらちょっとずつボールを前に蹴って進む練習をしよう。これはドリブルって言うんだ」

「はーい」


 サッカーに興味を持ち始めた子供たちは、素直な返事をした。


「じゃあ、それぞれのチームはちょっと離れて。最初の子がボールを蹴りながら進んで反対側のチームのところに着いたらボールを渡して、ボールをもらった子は、また同じように反対側に行って、と、その繰り返しね。最初は俺が蹴るよー」


 トキオはそう言うと、コノリーのチームの先頭に立って、ターバルのチームまでドリブルで行き、ターバルにボールを軽く蹴って渡した。

 ターバルは、トキオを真似て反対側にドリブルで進み、コノリーに渡して・・・と、それを全員が10分ほど繰り返した。



「大体蹴り方が分かってきたようだから始めるぞー」


 それぞれのチームの子供たちは、さっき言われたとおりの配置についた。



「ここに砂時計を用意して来たから、この砂が全部落ちたら終わりね。ゴールにボールを入れたチームに1点入るから、終わった時に点数を多くとってたチームが勝ちだぞ」


 そう言って、壁の前のテーブルに置いてあった砂時計をひっくり返すと、中央の円のところに行った。

 それから、ボールをその真ん中に置くと、そばにコノリーを立たせ、その場で右手を上げた。


「それじゃあ、よーい・・・はじめ!」


 そう言って右手を振り下ろした。



 するとコノリーは、自分とゴールの間に誰もいなかったので、いきなりゴール目がけて思いっきりボールを蹴った。


 ボールは、ゴールやや右に飛んで行った。


 ゴールキーパーのヒイロが、驚いて左にジャンプして左手を突き出すと、ボールは手首の下あたりに当たって前に跳ね返った。

 それを、そこにいた味方の女の子が受けて、前の方にいる味方の男の子にパスした。


 そして、他の子もゴールを目指して走った・・・



 ・・・そんな感じで砂時計の砂が落ちるまで続けて、3対2でコノリーのチームが勝った。



「よーし!みんな中々いい動きだったよ!明日は、前に教えたフェイントとか、チェンジ・オブ・ペースとかを取り入れて、相手のチームを躱《かわ》す方法を練習しよう」

「はーい!」


「で、どうだった?面白かったか?」

「面白かったー!」

「サイコー!」

「もっとやりたーい!」


 子供たちは嬉しそうに答え、今日やったことを楽しそうに話しながら帰って行った。




 それからは、ダーツは大人たちだけの娯楽になって、子供たちは、元気に広場や校庭でサッカーをして遊ぶようになった。



 後日、トキオに「頼んだわよ!」と言った母親と街中ですれ違ったが、にっこりと微笑むとありがとうと言いながらトキオに向かってお辞儀をした。


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