第27話 見つからない召喚者
トキオがこの世界に召喚されて・・・いや、押しかけてきてから4か月が経った。
トキオたちは、今日もアティムの街で格闘技・武器教室を開催しつつ、魔物討伐を続けていた。
そのころ、王都ネオカビスの聖光教団本部では・・・
「司教様、定期報告のため、ただ今戻りました」
「おお!ミヒール司祭!待ちかねたぞ!今回の首尾はどうだった?」
「少し情報は得られましたが、まだ、召喚者様の居場所ははっきりしません。申し訳ございません」
「そうか・・・」
司教はがっくりと肩を落とした。
「まあ、他の者の報告も同じようなものだ。ここで召喚の儀式を行ったのだから、この近辺に召喚されたはずだと考えていたが、どうやら、王都からかなり遠いところに召喚されてしまったようだな」
「はい、私はここから少し西の方を訪ねて回りましたが、私の聞いた限りでは異質な者が現れたという情報は得られませんでした。おっしゃる通り、かなり辺境に召喚されたものと思われます」
「困ったな。この国は広いから、教会の者だけで辺境まで探すとなるとかなり時間がかかってしまうな」
「はい。しかしながら、魔族に召喚者様の存在を知られるわけにはいきませんので、他に漏らすこともできません」
「ううむ・・・・ところで、得られた情報とはなんだね?」
「はい。司教様もお聞き及びと思いますが、少し前にステータス画面というもので自分の能力値が見られることがわかりました」
「これだろう?・・・ステータス!」
司祭はステータス画面を眼前に表示させた。
「はい、これは魔導士、勇者、兵士、冒険者などの魔物討伐を行う者だけでなく、一般市民も見られるようです」
「そうらしいな。私の聞いたところによると、実は以前から見られたらしいが、この国には「ステータス」という言葉自体が存在しないので誰も気づいてなかったということだな」
「はい。そして、どうやら、この情報をもたらしたのは召喚者様らしいのです」
「なに!?」
「また、魔物の頭部には実は毒がなくて、その頭部からドロップアイテムと称するお金や強化素材がとれることがわかったのもご存じですか?」
「ああ・・・まさか!それも!」
「はい、どうもそのようです。魔物の肉が食べられるというのも召喚者様からの情報とのことです」
「なんと!」
「まだあります。強化魔法が武器にも使えることがわかったこと、柔道という、投げ技、関節技、絞め技を使う格闘技を広めたこともそうだということです。これらによって、冒険者全体のスキルがかなり向上しました。また、スキルには直接関係ないですが、腕相撲やじゃんけんというものを広めたのも召喚者様らしいです」
「なんと!なんと!召喚者が数々の偉業を成し遂げるという言い伝えは本当だったのだな!」
「はい!このまま、召喚者様によってさらに偉業が行われるならば、本当にこの世界は救われるでしょう」
「そうだな、そうだな」
司教の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「しかし、それが分かっていてもなお、召喚者の居場所はわからないのかね」
「はい。ギルドや商工組合に問い合わせてみましたが、これらの情報は街から街へと伝わって来たため、発信源がはっきりしないとのことでした。かなり、辺境の街であることは間違いなさそうですが」
「うーむ、そういうことか・・・待てよ?それならば、ギルドの本部に行って、どこの街から伝わって来た話か確認し、その街に行ってさらにどこの街から伝わったのか確認し、と、それを続けて行けば最終的には召喚者のいる街にたどり着けるのではないかね?」
「ああ、なるほど!確かにそうですね!それでは、早速ギルド本部に行ってまいります!」
「帰ったばかりですまんが、よろしく頼む。分かったら一旦報告に戻って来て欲しいが、最初の街に出かけるのは明日で構わんぞ」
「いえ、一刻も早く召喚者様を見つけ出したいですから、場所がわかりましたら今日のうちに出かけます」
「そうか。その熱心な姿勢、教団の鏡だ。苦労をかけるがよろしく頼むぞ」
「は!」
「光を我らに」
「光を我らに」
ミヒール司祭は、教会を出ると足早に王都内にあるギルド本部へ向かった。
「これは、これはミヒール司祭、今日はどのようなご用件でしょうか」
ギルド本部に着くと、応接室に通されてギルド本部長が応対した。
「本部長、少し聞きたいことがありまして」
「はあ、何でしょうか」
「ステータス画面、魔物の頭部に毒がないこと、魔物の頭部からドロップアイテムが採れること、強化魔法が武器にも使えること、柔道という今まで知られていなかった格闘技が各地に広まり始めていること、腕相撲、じゃんけんという今まで見なかった娯楽を見かけるようになったこと、これらのことが最近知られるようになりましたが、そのことはご存知でしょうな?」
「あ、はい。一通り聞いております」
「なんでもそれらが王都に伝わったのは、他の街からとのことだそうで」
「はい、私もそう聞いております」
「実は、今日伺ったのは、それらの情報がどの街から伝わって来たのかを教えていただくためななのです」
「そうですか。しかし、なぜにまたそのようなことを?」
「詳細な理由は私も聞かされておりませんが、司教様から出所を探る必要があると言われましてね」
「司教様からのご依頼ですか。わかりました、記録はとってあるはずですから少々お待ちください」
そう言うと、本部長は部屋を出て行った。
そのまま、ミヒール司祭は30分も待たされた。
「遅くなって申し訳ございません。記録の整理が悪く、バラバラに保管されておりましたので、すべてを探すのに手間取ってしまいました」
応接室に戻ってくると、本部長はそう言って深々と頭を下げた。
「構いません。それでは、わかったのですね」
「あ、はい。すべてわかりました。ステータス画面は東の街『ノミアッド』から、魔物の頭部に毒がないというのは西の街『オウロー』から、ドロップアイテムは・・・」
本部長は、紙を1枚ずつめくりながら報告を始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください!・・・別の街からなんですか?」
「え?はい、すべて別の街からでした」
「すべて!?なんと!」
「続けてよろしいでしょうか?」
「・・・あ、はい・・・」
「ドロップアイテムは北東の街『イサブニス』から、武器への強化魔法適用は北の街『ノミラノ』から、柔道は北北西の街『ノモナロット』から、腕相撲は西北西の街『ウバザ』から、じゃんけんは北北東の街『アズニグ』からでした」
「そうですか・・・」
「これが、その情報を記載した紙になります。よろしければお持ちください」
「・・・はい、頂きます」
「他には何か?」
「いえ、それだけです。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそお待たせして申し訳ありませんでした。また、何かありましたらどうぞ」
「はい。それではこれで。失礼いたします」
「お気をつけて」
ミヒール司祭は、一礼をすると部屋を出た。
司教へ報告するために本部に戻ろうと歩いてたが、これから先のことを考えると今までの旅の疲れがどっと襲ってくる気がした。
「戻りました」
「おお、ミヒール司祭!どうであった?」
「それが、かなりやっかいなことになりまして」
「やっかい?」
司教は眉間に皺を寄せて聞き返した。
「はい。すべて別の街からの情報ということで、全部で7か所でした。しかも、東から西まで広範囲に渡っております」
「なんだと!?そんなバカな!」
「これは想像ですが、それぞれ少しずつずれた時期に発信され、その時々でこれらの情報を伝えた商人やギルドの関係者が別の方向に向かったからではないかと思います」
「なるほど。それはあり得るな・・・そうでなければ、召喚者が一つの街にとどまらず、国中を旅しながらいくつもの街で偉業の伝授を行っているかだな」
「その可能性もありますね。とにかく、これがその街の名前が記された紙になります」
ミヒール司祭は、ギルド本部長に貰った紙を手渡した。
「どれ・・・」
受け取った司教は、紙を次々とめくって街の名前を確認した。
「うーむ、確かに分散しておるなあ。これは困ったな・・・・・・うん?しかし、これらの街はすべて北側半分に限定されているようだな」
「あ、そういえば、説明を受けた時、南という言葉は聞きませんでしたね」
「これは、南側は捨てても大丈夫そうだな」
「そうですね。各地を旅しているとしても、まだ北方を周っている可能性が高いでしょうから。私を含めた7人はこれらの街を訪問しますが、少しでも時間を早めるために、残りの人員も北側半分に集中して派遣するようにいたしましょう。そして、国境に近い街にいる可能性が高いですから、そこから南下するように指示いたします」
「ああ、それがいいな。そうしてくれ」
「は!」
「光を我らに」
「光を我らに」
ミヒール司祭は、教団本部事務局で新しい訪問先を各派遣要員に伝えるよう指示すると、新たな旅支度を整えるために自宅に向かいながら考えた。
(召喚者様を探し出すのにこんなに時間がかかってしまうとは、毎日、魔物のために多くの人命が失われているというのに、なんという不手際。きっと、慣れない土地で十分な収入も得られずに、生活にすら困っておられるに違いない。一刻も早く探し出して、教団の庇護のもと十分な装備で魔王討伐に力を貸していただかねば!召喚者様、もうしばらくの辛抱です!私がすぐにお迎えに上がります!)
「へっくしょん!」
「あら?どうしたのトキオ、風邪ひいた?」
「いや、体調は全然いいんだけど、今日はちょっと寒いからそのせいかな?」
「そろそろ冬だからねえ。まあ、この街は王国の中でもかなり南の方だがら寒さはそれほどでもないけどね。でも、王都から北の寒さは半端ないから、あっちに住んでる人は大変よ。一番寒い時期は毎日雪かきだもの」
「そうなんだー。この街は雪はどうなの?」
「ここはほとんど積もらないわ。最後に積もったのは5年前じゃないかな?」
「そうかー。少しは助かったな・・・へっくしょい!」
「あら、また?早く家に帰って暖かくした方が良さそうね」
「いや、なんか鼻の中がむずむずするから、何か入ったのかも」
「え!?虫?」
「いや、それはちょっと勘弁して」
「あたし、虫苦手なの。近寄らないで―!」
アウレラは走ってトキオから逃げて行った。
「そんなー、ちょっと待ってよー。虫じゃないってー」
トキオは、アウレラを追ってギルドの方へ走って行った。




