第218話 嬉しい二人乗り
腰の状態は大分良くなったんですが、お仕事が二つ来てしまい、そっちの方で更新が止まってしまいました。
そんなわけで、また、しばらく止まるかもしれません。
ネタが切れたわけじゃないんですが、9月はホントにあんまり更新ができませんでしたね。申し訳ないです。
お休みしているうちに、この小説の初投稿(2020/9/8)から丸一年が経過しました。
最初の頃から読んでいただいている方は、本当にありがとうございます。
途中から読んでくださっている方もありがとうございます。
総合評価が410点になり、PVも10万に届くところまで来ており、本当に励みになっています。
まだまだ続きますが、よろしくお付き合いのほどをお願いいたします。
「申し訳ありません!」
メアリーは焦った顔で慌てて立ち上がり、トキオから離れた。
「いきなり乗れたじゃない。さすがだね」
「いえ、ご主人様がしっかり押さえてくれていたおかげです」
「それでも、バランス感覚が高くないとこんなに簡単には乗れないよ」
「ありがとうございます!一輪車で練習したのが良かったのかもしれません」
「ああ、それはあるだろうね」
「メアリーすごーい!」
そこで、ジェーンが興奮した顔で二人のところに走って来た。
トキオは、その様子を見ながら倒れている自転車を起こした。
「いきなり乗れたじゃない!」
ジェーンはそう言うと、メアリーの目の前まで来てメアリーの両手を掴みながら言った。
(普段はそういうところを見せないけど、やっぱり仲良しなんだな)
トキオは、そう思いながら二人を見ていた。
しかし、そのトキオの視線に気づいたメアリーは、慌てて手を離し、
「ご主人様の前で申し訳ありません!」
トキオに向かって深々と頭を下げながら言った。
トキオは、そのリアクションに少し驚き、
「え~?そんなこと気にしなくていいよ~。ほんっとに真面目なんだから」
と、苦笑しながら言った。
「いえ、大変失礼な態度でした!」
「そんなことないって!・・・それより、次はジェーンの番だな。さあ、乗って」
「え?私もいいんですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます!」
メアリーは嬉しそうな顔でトキオから自転車を受け取ると、メアリーと同じ要領で跨った。
「じゃあ、行くよ。右足に力を込めて」
トキオは、荷台を両手でしっかり掴むとそう声をかけた。
「はい!」
ジェーンは元気にそう答えてからペダルに乗せた右足を踏み込み、自転車をゆっくりと発信させた。
走り出しはハンドルがかなりフラフラしたため、トキオはかなりの力で荷台を押さえている必要があったが、スピードが上がるにつれ、少しずつ安定して来た。
「じゃあ、さらに門の方にまっすぐ行って」
「はい!」
トキオの言葉に、ジェーンは再び元気に答えると、少し右に逸れていた方向を門の方に向けたが、その瞬間にバランスを崩し、
「あ!」
という声を上げると、自転車ごと左に倒れそうになり、思わず左足をペダルから離すと地面に付けて踏ん張った。
同時に、トキオが力を入れて自転車を支えたため自転車自体はなんとか倒れずに済んだが、ジェーンは右足も地面につき、左手をハンドルから離して右手だけで持つ格好になった。
「申し訳ありません!」
ジェーンはトキオの方を振り返って頭を下げた。
「いちいち謝らなくていいよ。それより、どこもぶつけなかった?」
「はい!大丈夫です!」
「じゃあ、もう一回行こうか」
「はい!」
その言葉で、ジェーンはもう一度トキオに頭を下げた後に、自転車を起こしながら再び跨った。
「じゃあ、行こう。また、門の方ね」
「はい!」
トキオの屋敷がとてつもなく広いため、門はまだまだ先にあり、門から玄関に続く道路もかなりの広さがあったため、自転車の練習をするにはもってこいだった。
しかも、貴族の屋敷だっただけあって、石畳の道なのに段差が全然ないほど丁寧に作られており、その点は王都内の幹線道路とは全く違っていた。
そのスムーズさは、馬車に乗っていてもまるで振動を感じないほどだった。
走り始めたところでトキオがチラッと後ろを振り向くと、メアリーはついて来ており、トキオと目が合うと走りながら会釈をした。
(やっぱり気になるんだな)
トキオはそう思って微笑ましい気分になった。
そんなことを思っていたら、自転車のスピードがかなり上がって来たので、トキオは慌てて自分の走るスピードを上げると同時に、荷台を押さえている手に力を込めた。
ジェーンも、メアリー同様、かなり良いバランス感覚をしており、走っているうちに徐々にハンドルの揺れが収まって来ていた。
そこでトキオはメアリーの方を振り返り、立てた人差し指を口に当てて「静かに」という仕草をすると、荷台から手を離した。
メアリーは驚いたが、声は立てずに黙ってそのまま後ろからついて行った。
トキオは、アメリ―の時と同じように自転車と同じスピードでそのすぐ後ろを走って行った。
ジェーンの自転車は、少しハンドルをフラフラさせながらも前へ前へと進んで行った。
「まだ、しっかり荷台を押さえてるからね」
トキオは、ジェーンの背後からそう声をかけた。
「はい!お願いします!」
余裕のないジェーンは、前を見ながらそう答えた。
トキオはそこでスピードを落とすと、後ろを走ってたメアリーが追いついて来たところで、
「じゃあ、あとは任せた」
と、言って立ち止まった。
「えっ!?」
メアリーはトキオを追い越しながら驚いた声を上げたが、ジェーンが心配になって、スピードを上げるとすぐに自転車の真後ろに付いた。そして、こっそりと自分の両腕に強化魔法をかけた。
ジェーンは一人で自転車を進めていることには気付かず、そのまま、少しフラフラしながらも自転車を門に向けて走らせて行った。
「もう、どこまで行くのよ。遠すぎて良く見えなくなって来たじゃない」
「ホントだよなあ」
その時、玄関先に立ったままのクロアとフーゴはそんな会話をしていた。
セバスチャンは、不安そうにジェーンが乗った自転車が走って行く様子を見つめていたが、クロアとフーゴの斜め後方にいたたため誰もそのことに気付かなかった。
「あれ?トキオ、立ち止まったんじゃない?どうしたのかしら」
「え?・・・ああ、確かにそうだな。何かあったのか?」
「どうだろ?ここからじゃ良くわからないわ」
その二人の会話を聞いてトキオの様子を確認したセバスチャンは、さらに不安な表情になった。
ジェーンは、すっかり楽しくなって快調に自転車を走らせていたが、どんどん門が近づいて来たのでそのまま走らせていいのか不安になり、前を向いたまま、すぐ後ろにいるはずのトキオに聞いた。
「ご主人様、そろそろ門ですが、このまま走らせていて良いでしょうか」
しかし、返事がないので不思議に思って振り返ったら、トキオがいると思っていた場所にメアリーがいて驚いた。
「えっ!?」
ジェーンは、その拍子にバランスを崩してハンドルを大きく左右に振らせてしまったが、メアリーがすぐに荷台を掴み力を込めて自転車を支えた。
強化魔法のおかげで自転車は倒れずに済んだが、ジェーンは止まり方がわからずにハンドルをフラフラさせながらも走り続けた。
「いけね。ブレーキを教えてなかったな」
そう気づいたトキオは、あわてて走り出した。
そして、走りながらジェーンに向かって大声で叫んだ。
「ハンドルに親指をかけたまま、ハンドルの下にある細い棒を握って!」
「は、はい!」
それを聞いたジェーンは、言われた通りにブレーキレバーを力いっぱい握った。
すると、当然のことながら「キーーーー!」という音とともに自転車は急停車した。
そうなることを予想していなかったジェーンは、思わず前のめりになったが、ハンドルを握っていたためなんとか持ちこたえた。
しかし、自転車の後方にいたメアリーは完全に前方に体を持って行かれて、下腹部を自転車の荷台に打ち付けた後、ジェーンの背中にまともにぶつかった。
二人は、そのまま前方に投げ出されて道路に落下した。
ガシャーン!
乗り手のいなくなった自転車は、派手な音ともに右に倒れた。
「あちゃー!」
トキオは、おでこに手を当てながらスピードを上げた。
「大丈夫?ケガしなかった?」
トキオは、倒れている二人のところまで来ると、手を差し伸べながら言った。
「あ、はい!大丈夫です」
ジェーンがそう答え、二人はトキオの手を借りずにすぐに立ち上がったが、メアリーの下敷きになったジェーンの両膝からは血がにじんでいた。
「ああ、膝をすりむいちゃったかあ」
「え?」
そのことに気付いてなかったジェーンは、あわてて自分の膝を見た。
「これはちょっと手当が必要だな」
そう言ってトキオは、ジェーンの目の前で前かがみになったが、
「この程度なら大丈夫です!」
ジェーンはそう言うと、しゃがみ込んで自分の両膝に両手を当てた。
そして、少し俯いて目を瞑った。
「・・・ああ、治癒魔法か」
トキオはすぐにその行動の意味を理解した。
しばらくしてジェーンは手を離したが、両膝の擦り傷は消え、血も止まっていた。
「おお~、治癒魔法って便利なものだなあ」
トキオは感心しながら言った。
「自転車を倒してしまって申し訳ありません!」
ジェーンは立ち上がるとそう言い、二人はトキオに向かって同時に頭を下げた。
「いや、ブレーキのことを教えてなかった俺が悪いよ。むしろ、ケガをさせてすまなかったね」
「とんでもありません!すぐに治りましたから大丈夫です!」
トキオは、ジェーンの言葉に微笑みながら、サドルとハンドルの真ん中を掴んで自転車を起こした。
それから、後輪を少し持ち上げてペダルを踏みつけ、後輪が回転するのを確認した。
「うん。チェーンも外れてないし、自転車は大丈夫だよ。じゃあ、屋敷に戻ろう」
「はい!すみませんでした!」
「だから、大丈夫だって・・・むしろ、ジェーンの膝が気になるね。じゃあ、帰りは俺が漕ぐから、ジェーンは荷台に乗って」
「・・・え?」
トキオの言葉にジェーンは困惑した。
「さすがに女の子に足を開いて荷台に跨れとは言えないから横座りでいいか」
トキオは、自転車に跨りながら言った。
「ほら、横を向いて荷台の上に座って」
「いえ!そんな、とんでもないです!」
「いいから、いいから。傷は消えたけど、少しひざに痛みがあるでしょ?」
「確かにそうですが・・・・」
「その方が戻るの早いし・・・メアリーは走れるでしょ?」
「はい、私は大丈夫です」
「じゃあ、ジェーン早く!色々と仕事もあるんじゃないの?」
「あ、はい・・・」
「じゃあ、乗って」
「・・・わかりました。命令とあれば」
ジェーンはそう言うと、言われたとおりに左側から横向きに荷台に座った。
「座ったら俺の腰に手を回してしっかり掴まって」
「そ、そんな・・・」
「いいから」
「・・・はい」
ジェーンは、おずおずと言われたとおりにトキオの腰に右手を回してから、両手をトキオの左のわき腹辺りで組んだ。
「じゃあ、行くよ」
トキオはそう言って、自転車を発進させたが、走ってついて来るメアリーのことを考えてあまりスピードは出さなかった。
(あれ?俺って、女の子と自転車で二人乗りするの人生で初めてじゃないか?・・・うーん、なかなかいいもんだな)
自転車を走らせながら、にやついた顔でトキオはそんなことを思っていた。
自転車の左斜め後方からジョギング程度のスピードでついて来ていたメアリーは、ジェーンが幸せそうな顔をしているのを見逃さなかった。




