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その瞬間天上から淡い光が山上静可の身体に降り注いできました。千可ちゃんは空を見上げました。
「お迎えが来た・・・」
「おお~ 儂は天国に行けるのか? 神は儂を許してくれるのか?・・・」
山上静可の姿が薄くなり始めました。山上静可は千可ちゃんの顔を見て、こう言いました。
「千可、最後に1つ教えておこう。お前、母親を恨んでるようだが、それはただのお門違いじゃ。あいつに人を呪い殺す能力は皆無。あの事故はただの偶然じゃ」
千可ちゃんはそれを聞いてびっくりです。
「ええ?・・・」
山上静可は千可ちゃんの初体験の相手のことを言ってるようです。その人は千可ちゃんと初めてセックスした日の翌日に交通事故で死んでしまいました。千可ちゃんはずーっとお母さんが呪い殺したと思ってましたが、今の山上静可の発言を信じるのなら、あの事故はただの偶然だったようです。
「さらばじゃ、千可」
そう言うと、千可ちゃんのおばあちゃんの姿は消滅しました。千可ちゃんはそれをずーっと見送ってましたが、ふと何かに気づき振り返りました。すると、なんとお母さんが家の中で胸を押さえ、へたれ込んでいたのです。千可ちゃんは慌ててお母さんのところに駆け寄りました。
「お、お母さん?」
「だ、大丈夫よ。全身の霊力を一気に使ったから、ちょっと心臓に負担がかかっただけよ」
お母さんは立ち上がりました。
「あなたが勝ったようね」
その質問に千可ちゃんは明るく答えました。
「うん」
「さあ、帰ろ!」
と言うと、お母さんは歩き始めました。千可ちゃんは家の中に転がってる野中さんの死体を横目でちらっと見て、心の中で謝罪しました。
「ごめんなさい。羽月家の都合で助けられなくって」
千可ちゃんはお母さんのあとを追い駆けました。
さて、千可ちゃんとお母さんがそのままクルマで家に帰ったかと思えば、実はそうではなく、また地元のラブホテルに行ってました。今度はお母さんの身体がきつくなったようです。ムリもありません。千可ちゃんと手をつないで霊波を撃ったとき、千可ちゃんの身体に一気に霊力を吸い取られてしまったのです。おまけに、お母さんは昨日千可ちゃんの身体を治すために、かなりの霊力を使ってました。今お母さんの霊力は限りなくゼロ。くたくたなのです。
お母さんはラブホテルの部屋に入ると、すぐにベッドに入り、深く眠ってしまいました。今度は千可ちゃんが添い寝して、お母さんの身体に自分の霊力を注いでいます。
「お母さん・・・」
深い眠りについているお母さんは、応えることができません。千可ちゃんはかなり心配しています。千可ちゃんは今、ものすごく悪い予感に襲われてました。
でも、千可ちゃんもかなり疲れてました。幽体についた大きな刀傷も、実のところ6割くらいしか回復してません。千可ちゃんもすぐに深い眠りについてしまいました。
「千可、千可」
千可ちゃんを呼ぶ声がします。千可ちゃんが目を覚ますと、眼の前にお母さんの顔が。お母さんは横になったまま目を開けてる状態でした。
「さあ、行こっか」
お母さんは明るく言いました。もう元気なようです。お母さんの身体から出ていた嫌な予感は完全に消えてました。千可ちゃんの心配はただの杞憂だったようです。
「うん」
千可ちゃんは明るく答えました。お母さんがふとベッドの頭のある時計を見ると、午後3時を表示してました。
「あら、もう3時なの? 8時間も寝ていたのね」
お母さんがベッドから床に降りました。そのときなにげにぽつりと発言しました。
「私も死んだら呪い神になっちゃうのかな・・・」
そのセリフに千可ちゃんはビクッと反応しました。お母さんは言葉を続けました。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
千可ちゃんはその発言に納得いかないようです。
「そ、そんなことないよ。お母さんはこの世になんの恨みもないじゃん」
「ふふ、そうね。私はできるだけ幸せになって死ぬ。この世に未練を残さないように。千可も協力してよ」
「うん」
2人はドアを開けました。そこにはお母さんの愛車が駐まってました。クルマ1台分のガレージです。このラブホテルは昨日から今朝にかけて泊まったラブホテルと同じ造りのようです。
2人はクルマに乗り込みました。千可ちゃんは助手席のシートに座ると、さっきのお母さんのセリフを思い浮かべました。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
千可ちゃんは思いました。
「お母さん、なんであんなこと言ったんだろ?」
シャッターが上がり切り、クルマが出発しました。




