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 けど、おばあさんが自殺した理由は、ほかにもあったんだよ。それは私を助けるため」

「お母さんを助けるために?」

 お母さんはうなずくと、話を続けました。

「おばあさんは私やあなたみたいな治癒能力はなかった。私の首をつなぐためには、自分が幽霊になって治療するしかなかったのよ。あの日の夜、おばあさんは・・・ 山上静可は幽霊になって私の身体の中に入ってきた。翌日朝起きたら、私の身体は元に戻っていた。私はおばあさんに助けられたんだよ。

 でも、その日野中雄一は飛んできた鉄骨に踏み潰されて、ぺっちゃんこになった・・・ ここまで話せば、あとはもうわかるでしょ?」

「そんな話があったんだ。おばあちゃんが怨霊になった理由がよくわかったよ」

「千年前だったら怨霊が出現したら、大きな神社を建ててそこに祀ったんだけどね。怨霊は正しく祀れば、最強の守り神になるから。でも、今は・・・」

「今は退治するしかないのか・・・」

「さあ、もうお休み。まだ身体は治りきってないんだろ」

「うん。お母さんは?」

「私はお風呂に入ってくるよ」

 お母さんは奥の浴室に向かいました。一方千可ちゃんは、再び深い眠りにつきました。


 千可ちゃんがふと目を覚ましました。で、ちょっと気になり横を見たら、お母さんがそこに横たわってました。お母さんは愛しい目で千可ちゃんを見てます。お母さんの右手は千可ちゃんの左の乳房の上にありました。

「お、お母さん、何やってんの?」

「あなたの傷ついた幽体を直してるの」

「え?」

「恥ずかしい?」

「う、うん・・・」

「ふふ、10年前はこうやって仲良く寝ていたのよ」

 と、ここで千可ちゃんはとても不穏なものを感じました。

「あっ・・・」

「ん、どうしたの?」

「大変だ、お母さん、山上静可が野中さんを襲撃してるよ!」

「ふふ、それはいいことね」

「ええ?」

 千可ちゃんはお母さんのあらぬ返答にびっくです。

「あなたが言ってる野中て、野中雄一の妹の野中圭子のことでしょ? 私はねぇ、野中雄一が絶対許せないの! あいつの血をひいてるやつは、みんな死んじまえばいいのよ!」

 山上静可同様、お母さんもいまだに野中家を恨んでました。野中さんを助ける。それはパイロットの先祖霊との約束ですが、それはムリとなってしまいました。千可ちゃんは内心落胆してます。

 お母さんは話を続けました。

「でも、あなたも山上静可に呪われてるようね。いいわ、決着をつけましょ。私も手伝ってあげる」

「うん・・・」

「立てる?」

「もちろん」

「じゃ、行こっか」

 2人はベッドから降り、ドアを開けました。そこにはお母さんの愛車が駐まってました。クルマ1台分のガレージです。お母さんが運転席に、千可ちゃんが助手席に乗り込みました。シャッターが音をたて開き始めました。外はもうすぐ夜明け、東の空が明るくなってます。お母さんがイグニッションスイッチのボタンを押すと、クルマのエンジンが始動。続いてヘッドライトが点灯。いよいよクルマが走り始めました。目的地は当然、野中家豪邸跡地です。


 ここは野中家の豪邸跡地です。今女性の悲鳴が響きました。山上静可が妖刀キララで看護師の先祖霊を斬り捨てたのです。野中さんが隠れてる平屋の前です。それを傍らで見ていたパイロットの先祖霊と学生服の先祖霊が愕然としてます。学生服の幽霊の発言。

「ああ、結界が破られる。もうだめだ・・・」

 それに呼応するようにパイロットの幽霊がぽつりと発言しました。

「野中家はこれでお終いだ・・・」


 平屋の中、玄関のドアをすり抜け、山上静可の霊が侵入してきました。

「くーっ・・・」

 野中さんは壁に掛けてある八角形の護符を手に取りました。そしてその両端を両手で持ち、それを山上静可に突き付けました。

「く、来るなーっ! こいつが見えないの!」

 山上静可は妖刀キララを上段に構えました。山上静可は小柄なせいか、太刀でも天井には触れないようです。

「バカめ! 先祖霊が足りなくなった今、そんなもん、なんの効力もないわ!

 死ねーっ!」

 山上静可は刀を思いっきり振り下ろしました。野中さんは護符でその刀を受け止める気です。が、刃は護符を素通りし、山上さんの脳天から肉体に入り、首、胸、腹を通過し、股間からズバッと抜けました。

「ぐはっ!・・・」

 野中さんの眼から一気に生気が消えました。野中さんの身体は一見無事のようですが、見える人が見たら霊体と幽体が真っ二つになって、今左右180度別方向に倒れたところです。ワンテンポ置いて、肉体そのものも仰向けに倒れました。

 一方本懐を果たした山上静可ですが、彼女もかなり苦しいようです。はぁはぁと息が荒くなってます。が、突然笑い始めました。

「あはは、ついに、ついに野中家を全滅させてやったぞ! もう何も思い残すことはないわ!」

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