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私がカプセルに入ると共に、自動でカプセルが閉まる。
一瞬暗闇の中に身を包まれたが、直ぐに目の前に草原のような物が映し出され、そして私はまるでコックピットにいるような錯覚を受けるほどに精巧に作られた場所に座っていましたわ。
レバーを引く感触がまるで本物のような、それでいて此処はコックピットでは無く自分が寝ているだけだと知っているので、とても不思議な感覚にとらわれて行く。
「これは凄いですわね、本物に乗っているような感覚ですわ」
「あぁ、そう言えばアメリア伍長はウディアードでの戦闘経験があるんだったね」
「はい、と言いましても一回ですが」
コックピットを少し動かしてみると、あのときの様に今自分が乗っているウディアード――ヴァメリティ――が動く。
ただやはりヴァレリアとは少し違いますわね。
と言っても、回路のお蔭で何故かどのように動かすのかは分かってしまうのですけれど。
私は剣を構えて少尉の乗る機体を見据える。
「それでも一回とゼロ回だとかなり違う物だよ、それに無傷で勝ったと聞いてるから」
「それは相手が弱く、機体も此方が優れていただけですわ、しかし御褒めに預かり光栄ですわ受け取らせて頂きますの」
「ハハハ、それじゃあかかって来ていいよ」
「でしたら行かせて頂きますわ」
……本気で頑張りますわよ。
少尉の実力も知りたいですし……何よりやはりこれを操縦している時はかなり高揚感を感じますわ。
前世のせいか、それともライリー皇女のせいかは分かりかねますが、今はこの戦いに集中しますわ。
私は少尉に向かって直線的に走って行き、後五歩で間合いに入ると言う所で剣を相手に投げる、勿論走ったまま。
少尉のコックピットから驚きの声が漏れたのが聞こえて、ニヤリと笑ってしまう。
飛んで行った剣を少尉は剣で弾くがその隙に間合いを詰めて蹴りを入れる。
それが分かったためか後ろに避けようとしましたが、少尉は間に合わず私の蹴りが人で言う横っ腹に入りますわ。
私は瞬時に剣を拾い、その勢いで掬うように下から相手の剣を目掛けて振り上げ、同じ機体精度であるからその剣が上へと弾かれ、私はがら空きになった胸部分に蹴りを入れ、相手はフワリと機体を少し浮かせて後ろに飛ばされる。
チャンスですわ!
私はそのままコックピットがある場所目掛けて、剣を突き刺そうとしてできませんでしたわ。
私は辛うじて後ろへ飛び、反動で二、三歩下がる。
少尉はあの状態から足を掬おうと右足を振り抜いていた。
もしあのまま突っ込んでいましたら、足を刈られそのまま体制を崩し一刀両断でしたわね、流石少尉ですわ。
そう言えば武功で少尉になったと仰っておりましたし、流石ですわね。
既に少尉と私は少し空間を取り、お互い最初の位置少し手前まで戻る。
「……いや、流石に驚いたよ、まさかこれ程動けるとは思って無かったよ」
「少尉も流石ですわ、あの瞬間決まったと思いましたのに、危うくやられるところでしたわ」
「いやいや、危なかったよ、それにしても最初に武器を投げて拾いながら攻撃してくるなんて……最初から度肝を抜かれたよ」
「フフフ、ありがとうございますわ、どうもこう気分が少し高ぶってしまうのですわ、これに乗ると」
「……ハハハ、まぁ分からなくもないかな、ただあまりその感情に呑まれてしまうと正常な判断が出来なくなる時があるから気を付けておいてね」
「ご忠告ありがとうございますわ、しっかりと胸に刻みますわ」
なんだか少し声が懐かしむような物でしたわね。
少尉も昔何かあったのかもしれませんわ。
「まぁそれは置いておいて、今のでアメリア伍長は中々に優秀な戦闘員だと分かったかな、でも次は普通に剣での攻防を訓練しようね」
少尉もまさか私があのような攻撃をするとは思ってもおらず、剣での訓練をしようと最後に付けたのは最もですわね。
それに、剣でと言うのも私の望むところですわ。
何せ戦った事があるのは、あの影……ッフ、と少し笑いが出て来る程の者達ですもの。
そう言えば、あの方々あの後どうなったのでしょうか?
私の亡命の件も合わせて、処理をしておいて下さると言う事でしたが、自らのお事ですわ、少し気になりますわね。
ですが今は此方に集中しなくてはなりませんわね。
剣だけならば確実に少尉の方がお強いでしょう。
しかし、私にはゲームと言う大きなアドバンテージがありますの。
集中して行きますわよ。
私は一瞬大きく魔力を吸われる。
一気に全ブースターを解放し突撃する、そしてその勢いのまま剣と剣がぶつかる。
しかし少尉は剣を受け止めるのではなく、受け流し、剣がそれた反対方向に切る様に動き、私はそちらの脚で地を蹴り体をずらしながら、受け流された剣を掬い上げるように切りつけようとするが、少尉も後ろに下がり避ける。
お互い剣を構えて一歩踏み出し今度はつばぜり合いのような形になる。
ただブースターを使わなければ同じ機体、本来ならば整備の差なども有りますが、これはプログラミングにすぎませんから、同じだけの力で剣を合わせておりますので、埒があきませんわね。
私は少し力を緩ませ舐めるように剣と自分を右側に移動しながら少尉を切ろうとし、少尉もそれを見破りそれを避けようとしながら、抜ける体に刃を向ける。
結果として、私は少尉の左方部分に負傷を、少尉は私の左脇腹に負傷を与えましたわ。
「……アメリア伍長」
「はい少尉」
「正直伍長は戦場に出てもやっていけると思うよ」
「本当ですの? ありがとうございますわ」
「参考までに、剣は触ったことがあるのかな?」
「はい、一応これでも王となるべくお方の最後の護衛として少し剣を習っておりました、普通の令嬢であればそのような物は必要ありませんでしたが、私は立場が普通の令嬢のそれとは違いましたから」
「成程、納得したよ……いやそれにしても久しぶりに楽しい時間だった……長さで見て見れば一瞬だけど、とても長い時間に感じたよ」
「それは私もですわ……訓練としてでも絶対に相手を傷つけないと分かっておりますから、この様に全力で出来てとても良い訓練に成りましたわ」
「そうだね、この機械は本当に凄いよ、実際本物のウディアードでの訓練は必須だとしても、傷つけてしまったら整備や何だと色々と大変だからね……本物に乗らなくても出来る訓練や慣らすための訓練にこれは最適だと私も思ってるよ」
「それじゃあ伍長も今日の搭乗訓練は此処までにしておこうかな」
「はい、ありがとうございましたわ」
そう言って、私はスイッチを一つ押すと一瞬で暗闇が空間を支配し、そしてカプセルのフタが開く。
カプセルから出て外に立つと、入った時よりも幾何か疲れが来ており、向こうを見れば少尉もかなり疲れているように見えた。
「お疲れ様ですお嬢様……と言うかお嬢様流石です」
「おーっほっほっほっほ、そうでしょう、それにしても少し体が疲れたような気がしますわ」
「それは多分魔力を使ったからです」
成程、それならば私よりも長い時間魔力を使っていた少尉はかなり疲れているのではないかしら。
「少尉、大丈夫ですの?」
「うん大丈夫だよありがとうアメリア伍長、久しぶりにかなり魔力を使ったからね、体が少し驚いているだけだよ……皆も魔力を使う事になれる訓練も今後行っておくからね」
確かに長い時間の戦闘になった場合、魔力を使いすぎて疲れましたでやられてはお話しになりませんものね。
そのような訓練はウディアードが使える物ならではのと言ったことですわね。
その後、少尉の号令でその日の訓練は終了しましたわ。