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沖島の後悔

三股アホ男の話です。淡々と進む、短い話です。

俺は昔からモテていた。

顔も街でスカウトを受けるほどカッコイイし、性格だって男らしい俺を、女の子は放っておかなかった。

小学校から早くも色気づいた女の子から告白されていたし、中学校に入ってからはちょっとしたファンクラブが出来るほどだった。

高校に入ってからもそれは変わらなかった。

「好きです」

頬をほんのり染めて告白してきたのは同級生の野崎だった。

少し気の強い面もあるが、顔は良く見ると可愛らしく、男女ともに割と人気がある女だった。

今、俺には恋人が二人いる。

一人は二つ年下の部活の後輩で、年下らしく愛らしく俺を頼ってくる様はとても庇護欲をそそられた。

もう一人は20歳の社会人で、年上らしくお金を出してくれることも多い。

多いときには5人と同時に付き合ったことがあるが、とてもやりくりが大変で、友達に笑われたこともあった。

「嬉しい。これからよろしく」

同級生ならば対等な付き合いが出来るという利点から俺は野崎との交際を了承した。

野崎との交際は順調だった。

三股かけていることを誰も気づかず、尚且つ、ばれていないことに俺は気分をよくさせていた。

そんなある時、俺は書店でコソコソと会計を済ましていた。

こんなに完璧な俺だが、どうしてもやめられない悪い癖がある。

それがばれたら俺のイメージも崩れてしまうだろう。

何とか知り合いにも見つからず会計を終えて、書店から出ようとした時に野崎と出会った。

本当に偶然だった出会いに、思わず動揺してさっき購入した本を落としてしまった。

それだけではなく、袋からアッサリと出たその本を野崎が拾うという事態にまで発展した。

あまりに焦って俺はどう言い訳すればいいのかわからず、固まってしまう。

「あっ!これ!愛のメトロノーム!」

題名をそんなに大きな声で言わないで欲しい。

そう。俺の悪い癖とは、少女漫画を愛読していることだ。

今まで誰にもばれずに隠してきたのに、まさかこのタイミングでばれるとは思わなかった。

「いや、それは!」

思わず背中に冷や汗が垂れる。

「もう新刊でたんだ!私もこの本好きなの。同じもの読んでたなんてなんだか嬉しい」

ほんのり頬を染めてにっこりと笑う野崎に、俺はまた呆然としていた。

それからというもの、野崎とは少女漫画を貸し借りする仲になっていた。

もちろん俺が少女漫画を読んでいることは口止めしておいたが、野崎は不思議そうにしていた。

結構本の趣味が合うらしく、お互いに未発見だったタイトルの漫画を貸し借りしては、意見を述べ合った。

正直、楽しかった。

誰にも言えない俺の秘密を知ってる人物がいるだけで、少し心が軽くなった気がした。

他の二人とも交際は順調に進んでいた。

ただ、二人は完璧な俺を求めているので少しも気が抜けない。

徐々に野崎とのデート回数が増えていくのは、やっぱり気軽に少女漫画の話が出来るからだろうと俺は思っていた。



「私ね。あなたみたいな不誠実な人、大嫌いなの」

その日は後輩と約束をしていて、待ち合わせまで少し時間があった。

だから野崎の「放課後に会いたい」というメールにも了解の返事をした。

新しく出た少女漫画の新刊の事だろうと思っていたのだが、野崎から出た言葉は別れの言葉だった。

少し呆然としている俺を尻目にさっさと野崎は帰ってしまった。

そんな野崎に対して初めに湧き上がってきたのは怒りだった。

産まれてこの方、女のほうから振られたことがなかった俺を振ったのだ。

怒って当然だろう。

何で俺を振ったのか理解出来なかったが、後輩との時間が差し迫っていたから後で怒りをぶつけることに決めて、重たい本をどうするか考えながら待ち合わせ場所へと向かった。。

さて。いざ怒りをぶつけようと思ってメールを送ったものの拒否設定をされていた。

学校で、と思っていたが、卒業式の最後の予行練習とか、卒業を寂しがっている後輩がべったりとくっ付いていたおかげで何も行動に出ることが出来なかった。

卒業式の前日に後輩とは別れることにした。

理由はあまりに束縛が激しくなった為、うっとおしくなったのだ。

もちろん後輩には当たり障りない言葉で別れを切り出したが、別れの言葉を聞いた途端、ワンワンと泣き喚き、とても面倒くさいことになった。

卒業式の当日になっても、やり直したいとすがり付いてくる後輩を嫌々説得したが、理解したのかはわからない。

やっと後輩を追いやり、ため息をついていると友達がニヤニヤとした顔で近づいてきた。

「お前にしては面倒くさい女を選んじまったな」

「本当に。はぁ、疲れた」

結局卒業式の当日まで忙しく、野崎に怒りをぶつける機会がなかった。

ぐったりとした疲れを引きずったまま、年上の彼女と約束したレストランへと急いだ。

いつもなら豊富な話題で飽きることのない会話も、とてもつまらなかった。

いや、今日だけではなく、最近年上の彼女といても息苦しいだけだった。

だから俺は当然別れを切り出した。

彼女は一瞬驚いたが、後輩とは違い、別れをあっさり承諾してくれた。

これで俺は数年ぶりにフリーとなった。

大学入学までの短い休みに少女漫画を読みながら、ふと野崎と過ごしていた日々を思い出していた。

誰もが軽蔑するであろう趣味を、野崎は最初から馬鹿にせずに一緒に付き合ってくれた。

色んな意見を出し合って笑いあっていた日々を、大学に入ってもよく思い出すようになっていた。

大学に入って付き合った子と一緒にいてもあまり楽しくないことに気がついた。

野崎と無意識に比べていることを自覚した途端、俺は理解した。

俺は野崎が好きだったのだと。

「今更遅くね?」という高校からの友達の言葉を無視して、俺は野崎と元鞘に戻るべく行動に移ることにした。

大丈夫。野崎はイケメン好きだし、俺との趣味も合う。

完璧なカップルになるに違いない。

そう遠くない未来に思いを馳せて、俺は高校時代の友人全員にメールを送った。



「また来た」

そう呟いたのは仁科卓哉だった。

今、香織の家で香織家族と由香利とでファミリーゲームの真っ最中だった。

本当ならば由香利とデートしたかったのだが・・・とも思ったが、由香利のはちきれんばかりの笑顔を見れたので良しとする。

それよりもこのメールだ。

はぁ、とため息をつくとそれに気がついた由香利がやってきた。

「どうしたの?」

「あぁ、これ。また同窓会のメールが来た」

心底面倒くさそうにメールを見せると、あぁ、と由香利もため息をついた。

送信してきたのは、高校の時に香織と付き合っていた沖島で、文章の最後には「野嶋も誘ってくれ」と追伸があった。

実はこの同窓会のメールはここ最近頻繁に来ている。

どんだけ同窓会をするんだ、と思う一方で沖島の狙いが野崎であることを知っているので今度は深いため息をついた。

一度だけ参加した同窓会では、横に沖島がべったりと張り付き、香織について根堀葉堀聞いてきたので、すぐに香織が目的なんだと理解した。

もう二度と同窓会には行かないと心に誓っているし、香織を傷つけた沖島に香織を会わせるつもりもない。

すぐにメールを返信して、送信した。

『俺と野崎は不参加』

この後に来るだろう沖島からの「なんで参加しないの?」メールに頭を悩ませながら本日三度目のため息をついた。

浮気男には是非とも片思いに苦しんで欲しいです。

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