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【三章/開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者《ヘドニスター》編

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78話 『最後の晩餐』


『ーーただでは死なん……。』



亡者であるはずの"彼"の言葉。



無駄な足掻きと切り捨てたはずの遺言が……


ーー享楽者ヘドニスターの耳へと響いた気がした。



彼女が最も警戒し、最優先で始末した逆奪者。



『ルド』



彼が残した宣告は、単なる言語の羅列でも、想いの継承などという曖昧なものでも無かった。



ルド自身の妹、ルシェ。


彼女の解析によって発明された、理層発動を狂わせる"毒"。



それは既に……



ーー享楽者ヘドニスターの体内を……


"侵食"していたのだった。




***




盤上の支配者は、常に戦場を支配し続けた。


数たる反逆因子イレギュラーが刃を掲げようと、この最終遊戯エンド・ゲームで彼女が受けた予想外の攻撃は……


ーーイヴとカナンによる、"右腕の切断"だけだった。


だがその腕は所詮、機械で作られた擬似的な肉体部位だ。


反逆者の刃に、認知していなかった理層妨害能力があろうと、己の身体に、"直接的な影響"を及ぼすことはない。



ならば享楽者ヘドニスターは、いつ"毒"を盛られたのか……?



その答えは、戦局を見つめ直せば、自ずと現れた。


彼女がーー肉体に受けた傷。



思い当たるその"攻撃"は、たった一つしか無かった。



「出会い頭に突き立てられた"槍"……!」



司令塔ノード・ナイトにて放たれた……


ーールドによる"最初の攻撃"。


これから始まる"終焉"に享楽し、侵入を許した奇襲。


その槍に……既に"毒"は、仕込まれていたのだ。




熱気の上がる戦場で、享楽者ヘドニスターは、未だ理解不能な焦燥感と恐怖に、身を震わせていた。


ーーズズ……ッ! ズズ……ッ!



機械の両足が、ゆっくりと引きづられていく。



硬質な殻を割られ、張りつめた蔦を引き続けるウォーレンス。


彼の殺意が、異形の魂へと畏怖を刻みつけていた。


(ありえない……ッ!!!)


盤上を狂わされてもなお、全てを優位に進めてきたはずの支配者。


彼女の行動は、まるでゲームを攻略するかのように……


ーー"洗礼"されていたはずだった。


脅威となる存在を優先的に排除し、不安要素との多人数戦闘を避ける。


異端者イレギュラーにも享楽者ヘドニスターは冷静に対応した。


不意を突き、搦手を使い、手札を一度も使い切らずに、温存しながら遊戯ゲームを進める。


この盤上は、"終焉の原罪"が支配していたはずだった。




けれどーー



積み上げられた全ての知識。


失われたいくつも命。


そして……逆奪者スティーラーたちが残した"反逆の意思"。


それらが、偽物の楽園へと抗う……


ーー"盤上の切札ジョーカー"として、享楽者ヘドニスターに最初で最後の"結末"を刻みつけた。




******




ーー毒林檎さいご理層妨害ばんさん


最序盤で打ち込まれた毒が、今となって享楽者ヘドニスターの身体へ巡る。


「ルシェェェ……!!!! 貴様ァァァ!!!!」


盤上の支配者は、叫びのような咆哮を上げ、戦場に在する最も力なき者を睨みつけた。


鼓膜を突くような絶叫に後退りつつも、ルシェは冷静に、異形の心臓から伸びかけた管を見つめ解析する。


(両手の粒子操作とは違う力……)


割れた胴体に淡く光る赤い臓器。


宝石で創られた林檎のような内部から、一本の管がウォーレンスを突き刺すために、殺意を象っていた。


享楽者ヘドニスターが、隠し持っていた最後の力。

その鱗片を理解し、彼女は……結論を下す。


「ーーここまで来たら、間違いないでしょう。」


痙攣する肉体を必死に抑え……管理者の片割れ


ーールシェは、ルドと創った、最後の反逆を口にする。


「発動の鍵は……


ーー理層能力の、"複数同時使用"……!」




ーー時間差による理層能力の封殺。


それは決して、彼女たちが意図的に細工したものではなかった。


本来ならば、槍を打ち込んだ瞬間、享楽者ヘドニスターは無力化する算段だった。


けれどーー


体内へと直接毒を投与しようとも、異形の支配者の力が衰えることは無かった……。


それはーー


ルシェによる解析が、模倣体ヘドニスターーの"空間操作"を軸としていたからだ。


つまり、毒の効きが遅れたのは……単なる"情報不足"だった。


例えそれが、"仕方のなかった"ことだとしても


ーー"最愛の兄を失った痛み"は……彼女の心を蝕み続ける。



(私がもっと賢ければ……兄様は死なずに済んだのかもしれない。)


拭いきれない後悔が、頭を巡る。


(私がもっと強ければ……兄様を守れたかもしれない。)


ありもしない希望にすら、可能性を見出す。



唯一無二の家族と創り上げた反逆の意思。


その"毒林檎"が、確かに盤上を翻した。


だからこそ、有り得たかもしれない希望が胸を締め付け、彼女の心は……酷く凍りつく。


そんなルシェに寄り添うように、一人の少女は身を寄せる。


「ーールシェ……、ありがとう。」


冷えきった心を溶かすように、イヴは彼女の手を握る。


「"あなた"が居てくれたから……"私たち"は……

ーーここまで辿り着けた。」


一人の少女として、記憶アーカイヴ管理者レコーダーとして、少女はルシェへと笑顔を見せる。


「もう大丈夫……"結末"はーー"記憶"された。」



二つの面影が重なり、言葉を紡ぐ。



それは、救いの一言ではない。


絶望の淵へと立たされた少女を希望へ導くほど、強い言葉ではなかった。


けれどその神妙な感謝は……


ーールシェを現実に引き戻すには十分だった。



「イヴ……様……。」



涙ぐんだ視界に、一人の少女が映る。



繋がった反逆の末ーー彼女たちの逆奪は、享楽者ヘドニスターの理層能力を無効化する事に成功した。



その現実を噛み締め、少女は瞳に光を戻す。


そんなルシェの手を握り、イヴは確信に満ちた希望で笑った。



勝利を掴んだ天使の微笑み。



その笑顔には、実の兄、ルドが望んだ……

ーー本物の楽園が待っている気がした。





だがーー




遊戯ゲームはまだ……




ーー終わっていない……。




ーーズサ……ッ……!




「ーーイヴ様ッ……!!」


ルシェの叫びと共に、イヴの背後から姿を現した黒い影……



『デブリ』



命令を与えられずに逆位相空間から呼び寄せられた、大量の死骸。


その肉塊たちへ刻まれた、生まれついた命令。


楽園エデンの路地に長居する人間を襲え。」



本能に近い生まれついた束縛が……押さえ込んだはずの力を超えて、少女に迫る!


「ーーイヴ……ッ!!!」


享楽者ヘドニスターと鍔迫り合っているウォーレンスは、彼女の元へと向かえない。



蠢く影が、笑いながらイヴへと襲いかかった。



けれどーー



記憶アーカイヴ管理者レコーダーは、ルシェへと微笑みを崩さず、言葉を繰り返した。


「大丈夫だよ……。


ーー"結末"は、"記憶"されたから。」




「……ッ!!!」




ーーザンッ……!!!




彼女の復唱と共に、戦場へと斬撃音が響き渡る。




ーードッ……!



切断された頭部が、地面に落ちた。



綺麗に切り落とされた肉片。

その断面には……"熱"が籠っている。



「ーーッ……!!!」



"空"から着地した一人の青年。


彼の到着に驚きながらも、ウォーレンスは口角を上げた。



「ーー"向こう"の死骸デブリは、駆逐した。」


舞い降りた兵士は、短く状況を伝えながら剣を構える。


「残る戦場は……"ここ"だけだ……!」


陽炎を揺らがす赫迅刀サーマル・エッジを握りしめ……


ーー騎士"リオン"が、盤上へと辿り着いた。

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