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【三章/開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第二章 享楽者《ヘドニスター》編

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76話 『落骸雨《ネクロデミス》』


この盤上に、もはや倫理など存在しない。


反逆と享楽。


彼らの先にあるのは

ーーただ"殺す"か、"殺される"かの……"結末"だけだった。


憎悪、恐怖、後悔。


理不尽や不条理。


それら全てに抗ってきた反逆者。


ーーカナン。


"最後の終焉"を開始した享楽者《ヘドニスター》を前に

ーー彼は未だ、反逆の意思を燃やし続けていた。


「ーー上等だ……お前の全てに抗ってやるよ。」


託された全てを受け継ぎ、反逆者は宣告する。


「覚悟しろ、享楽者《ヘドニスター》……


この戦場が……

ーーお前の行き着く"遊戯《ゲーム》"の最終盤《オーバー》だ。」


楽園《エデン》の"未来"。


そしてーー逆奪者《スティーラー》たちが積み上げてきた、全ての"過去"を背負い……


ーーカナンは反逆する。


人の命を弄ぶ、"終焉の原罪"。

享楽者《ヘドニスター》が開催した


ーー"最終遊戯《エンド・ゲーム》"へ……。



*****



カナンとセラ。

二人の反逆因子に降りそそぐ暗黒の雨。


それらは、享楽者《ヘドニスター》によって、肉体細胞を変貌させられた、"死骸の爆弾"。


"死言操作"による命令は、口から発せられる

ただの音波ではない。


死体《デブリ》へ届いた瞬間ーー

その声は肉体の"細胞構造そのもの"を書き換える、"呪的プロトコル"に変換される。


つまりーー


「爆ぜろ」

という言葉は


「細胞を圧縮させ、肉体を破散せよ。」


というーー"現象命令"として実行されるのだ。


死言操作の対象となったデブリは、三段階のプロセスを経て、起爆の運命を辿る。


①原子レベルの肉体圧縮。


享楽者《ヘドニスター》の命令伝達の直後

デブリの肉体細胞が、生前の構造を否定するように、無理やり一点へと収束させられる。


②神経電流の強制移動による、電子の活性化。


圧縮の歪みが、残留した神経信号を暴走させ、電子を高速移動させる。

これにより、死骸内部に赤黒いプラズマが発生し、肉体が熱を帯びる。


③圧縮された肉体の膨張による破裂。


プラズマによって膨張された内部構造が限界に達し、封じられていたエネルギーが一気に解放されることで



ーー肉体が破裂する。



これが、享楽者《ヘドニスター》によって生み出された倫理無き"人間爆弾"


ーー"落骸雨《ネクロデミス》"の正体である。




ーードォォォン!!!



カナンたちの行く手を遮るように、凄まじい爆圧が舞い上がる。


一体の死骸の爆発でさえ、地形を書き換えるほどの威力を帯びていた。


「クソっ……!! 」


それなのに、彼らの目の前には、数百を超える数の落骸雨《ネクロデミス》が降りそそいでくる。


ーーゴォォォォン……ッ!!!


次から次へと落下する死骸《デブリ》たち。


出現から命令、そして起爆という流れを沿うため、破裂までの猶予は長い。


そのため、カナンとセラは、爆風を肌に受けつつも、その攻撃に飲み込まれることはなかった。


ーーだが


「距離が詰めれない……ッ!!」


無理にでも踏み込めば、爆発に巻き込まれる。


カナンたちは、一方的な爆撃を前に、後退を余儀なくされていた。


「クソッ……じれったい……!」


討つはずの敵からどんどん離されていく。

焦燥を募らせ、反逆者は苛立ちを零した。


そんな彼の隣で、死骸《デブリ》ごと、空間を削ぎ落とすセラ。


彼女は刃を振るいながら、カナンへと

諭すように呼びかけた。


「カナン! 焦らないで……!


落ち着いて対処すればーー致命傷を喰らうことはない。」


セラは冷静に、最低限の動作でデブリを切り捨てる。


「この攻撃に、私たちを殺す力は無い……!」


彼女は土煙の向こうを見据え、断言した。



だからこそーー


カナンの胸の奥で渦巻いていた疑念は……


ーー”確信”へと形を変えた。


「ーーセラ……ッ!!!!!」


反逆者の喉から、抑え込めない叫びがほとばしる。


驚きカナンへ振り返るセラ。


彼の表情は、もはや"焦り"などと表現出来るほどーー生易しいものではなかった。


カナンは、気づいてしまったのだ。


気づきたくなかった真実に。


「あいつの狙いは……


ーー俺たちじゃない……!!」


彼の眼が、爆煙の向こうにいる“少女”へと焦点を合わせた。


享楽者《ヘドニスター》が狙う本当の標的ーー


それは、盤上で最も異端であり

最も反逆者に、"力"を与えし存在。


ーー“記憶《アーカイヴ》の管理者《レコーダー》”。


彼女の視線も、矛先も、盤上が崩された

"あの時"から、何も変わっていなかった。


排除すべき反逆因子《イレギュラー》は、カナンでもセラでもない。


盤上の支配者が、今この場で、“最優先で刈り取る”と決めていたのは……


ーーただ一人。


"イヴ"だった。



***



***


ーー終焉が、息を落とした。


「……もう、いいかな。」


享楽者《ヘドニスター》は、ひと欠片の情もなく呟いた。


足元に転がるデブリを跨ぎ、

まるで舞台の幕が上がる瞬間を待つ俳優のように、喉の奥で笑いを転がす。


「反逆者……」


ほんのわずかに、口端が吊り上がる。


「そろそろ彼が、"気づく"頃合いだろうし。」


ゆっくりとーー

彼女は首を巡らせる。


その眼差しが向かう先は、

追いすがる二人の反逆因子ではない。


支配者の視点は


盤上に点在する、最も異端なイレギュラー。


記憶《アーカイヴ》の管理者《レコーダー》に向けられていた。


終焉の焦点が収束する。


瞳を持たない彼女が見つめる世界のように

そこにーー"遊戯の余白"は存在しない。


怯える暇《いとま》も。

死を悟らせる隙も。


反逆者《カナン》たちが、追いつく時間さえ


享楽者《ヘドニスター》はーー許さない。


「ーーさようなら……イヴ。」


命を貫く鋭利な触腕が……


ーー幼き少女を目掛け、一直線に走った。






ーーーガッ……!!!








ーー鈍い……音がした。




命を掴むような、冷たく、耳障りな衝撃音。



軋んだ悲鳴を押し潰すような、不協和音。



それは、誰が聞こうとも……鼓膜を削るような

ーー"不快な音"だった。





だがーー




今は違う……




ーーギリィィ……ッ!!!!!


火花を散らしながら、イヴの目の前で鳴り響く金属音。




彼女が聞いたその音は……




ーー"希望の音色"だった。






「ーーこれ以上……ッ!!!


"お前"に、命を奪わせはしないッ……!!!」






低い決意の雄叫びを上げ……


ーー新たな異端者《イレギュラー》が盤面へ

返り咲く。



クイーンの王子 『ウォーレンス』



光を紡いだ、"彼の右手"が……



ーー少女《ヘドニスター》の蔦槍を掴んでいた。

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