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【三章/開幕】アーカイヴ・レコーダー ◆-反逆の記録-◇  作者: しゃいんますかっと
第一章 監視者《オブザーバー》編

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11話 『騎士の誓い』


街全体を震わせる低い振動が、建物の壁を軋ませ、人々の悲鳴を掻き立てる。


「何が……起きてるんだ……!?」

揺れる研究施設で、3人は地面に踏ん張る。


その瞬間、街全体に甲高い警報が鳴り響いた。

忌まわしい音色――かつて人々を“異端”と断じるために鳴らされ続けた警鐘。


「嘘だろ……あれは、もう鳴らないはずじゃ……!」

リオンの顔が蒼白になる。


イヴは蒼ざめた表情で口を開いた。

「――“再起動”した……」


彼女の声にKが顔を向ける。

「再起動……? まさか……!」



街を飛び交うドローン群の出現位置。

オクルス中央区、その地下最深部――。

そこから、赤い光が脈動のように立ち上り、まるで巨人が目を覚ますかのような気配が溢れ出していた。


イヴは強張った声で叫んだ。

「――監視者が、復活する!」



街全域に赤い稲妻が走った。

石畳の隙間、建物の亀裂、空に浮かぶカメラのレンズ。

どれもが同じ紋様を描き出し、脈打つ心臓のように点滅する。


ゴォォォォ……。


地下から響く咆哮めいた地鳴りが、街の中心へと収束していく。

中央塔の下層に眠る巨大な隔壁が、幾重にも噛み合った歯車の音を響かせながらゆっくりと開き始めた。


開いた裂け目から赤黒く走る火花。

その中で蠢く影は、“人”の形をしていた。


無数のコードを背に垂らし、両肩には脈動するコアが埋め込まれている。

ひとつ、ふたつ――そして胸部の中央に、両肩と同じく赤く光る心臓が輝いた。


街を覆う空には、数百を超えるドローンが展開した。

まるで星座のように整列し、次の瞬間には雷鳴のような電子音を轟かせながら、人々へと銃口を向ける。


「異常符号、反逆者該当確率上昇──」

機械的な声があちこちのスピーカーから断片的に投げられ、無差別の検索が始まった。

ドローンは一軒一軒、扉の隙間や換気口、細い路地の影までレーザーで炙るように走査する。反応が薄ければ次の家屋へ、断続的な赤光が人の影を捉えると──そこに蓄積された記録や電波ノイズ、微かな生体信号の有無を判定し、識別できない「差異」を見つけるために破壊が許可される。


最初の家屋が崩れ落ちる瞬間、歓喜にも似た冷たい効果音が流れた。

外壁が内側から大きく裂け、支柱が折れ、居間の家具が粉塵とともに噴き出す。

逃げ惑う住民の叫び声が瓦礫の下でかき消され、煙と匂いが一帯を覆う。

監視者は容赦しない。

壊す理由は単純明快だ――隠れ場をなくし、反逆者が「居られる場所」を強制的に収束させるため。


破壊は手当たり次第だが、無計画ではない。

監視者は微細な「違和」を見逃さない。

イレギュラーな反射、過去の記録と少しだけ食い違う足跡、あるいは人間の声色の一瞬の震え――そうしたピクセルのようなノイズが積み重なると、ドローンは集中砲火を始め、壁をえぐり、屋根をならす。

町の景色は瞬時に裂け、慣れ親しんだ路地が迷路の瓦礫へと変わっていく。


煙と砂埃の合間に、監視者は冷たく通告を繰り返す。

「反逆者を検出次第、直ちに排除を実行する」。その声は理不尽な正当性を帯びて響き渡り、民衆の恐怖を暴走に変えていく。

街は自らの秩序を砕く兵器場となり、破壊のリズムが反逆者を追いつめるための拍子木のように鳴り続けた。



街へと駆け戻ったKたちの目に、最初に飛び込んできたのは――焼け焦げた大地だった。

瓦礫と化した家屋の間からは、まだ燻る黒煙が立ち昇り、鼻を突く焦げ臭さが風に乗って広がっている。

かつて市場の賑わいで満ちていた広場は、今や無残に抉られた土と砕け散った石畳が露わになり、赤黒い筋がそこかしこにこびり付いていた。


「……っ!」

リオンは息を呑む。

目の前に広がる光景が現実だと認めたくなくて、拳を強く握る。


煙の向こう、泣き叫ぶ声も呻き声もあるはずなのに、耳には虚ろな静寂しか響かない。

ただ、風に煽られた布切れや木片がカラカラと音を立て、焼け焦げた地面に叩きつけられる。


甦ったのは、祝会の夜。

忌み子とされた少女が処刑されたあの時も、人々の歓声に紛れて、自分だけが孤独に押し潰されていた。

だが今は違う――街そのものが、あの夜と同じ絶望に呑み込まれている。


焼けた路地の向こう、2機のドローンが生存者の群れめがけて銃口を向ける。かつてこの街を守るはずだった機械が、無垢な人々を襲おうとしている――その光景は、リオンの理性を一瞬で溶かした。


「やめろぉぉぉぉ!!!」


声が裂ける。叫びが、悲鳴に混じって空へ突き刺さる。

その声を合図に、地面を叩きつけ、割れた石畳を蹴り上げて駆けだした。

足裏に伝わる焦熱と瓦礫の感触。

喉の奥で疼く怒りが、全身を推す力になる。


最初の一振り。

盾を振り下ろし、ドローンの胴体に激しく叩きつける。

金属が悲鳴を上げ、火花が散ってはじける。

機体は軋み、弾丸が空中で迸ったが、その一瞬が人々にとっての猶予となった。


「逃げろ! ここから離れろ!」


リオンの声はもはや命令だった。

震える手で子供の腕を掴み、足早にかけ出す。

人々の瞳が必死に彼を見る。

リオンは短い間に確かめる——彼らは生きている、まだ息をしている。

命を散らすわけにはいかない。


二機目が逆襲してくる。

小さな砲身がリオンの側をかすめ、熱風が頬を撫でる。

彼は反射的に盾を振り、弾丸の軌道を受け流しつつ、滑り込んで距離を詰める。

盾が金属を削る嫌な音。

擦り傷と焦げた臭いが混ざり合って、戦場の匂いを作る。


その時ーーパンッ、と乾いた破裂音。

リオンの肩をすり抜けた弾丸は睨みつけていたドローンを破壊する。


赤い光が一瞬点滅し、機体は火花を散らして墜落する。


「……っ!」リオンは息を呑み、反射的に振り返る。


瓦礫の上に立つのは見知った男。

腰の銃を軽々と構え直し、煙の上がる銃口を無造作に振った。

隣の少女は、先程の人々を守るように、彼らの元へ小走りで駆け寄っていた。


「まったく……一人で突っ走るなよ」

Kはそう吐き捨て、再び銃口をドローンの群れへと向ける。


浮遊するドローンは認識した。

彼らを、反逆者として。


「発見――反逆因子」


無機質な音声が響いた。

そして同時に、数十、数百の黒い影が一斉に旋回し、その砲口をこちらに向ける。

まるで大地そのものが敵意を持ったかのように、無数の光点が赤く点灯する。



「人気者は辛いな……完全に狙われてやがる」

Kは銃を構え、唇を歪めた。

「なんて数だ…だけど、引けはしないだろ…!」

怖気付くも覚悟を決めたリオン。


二人は同時に散り、攻勢に出る。


反射する弾丸が次々とドローンを貫く。

Kの銃声は途切れることなく響き、火花の弧が宙に散る。

跳弾は壁を伝い、角度を変え、機械の眼を正確に撃ち抜いていく。

だが敵の数は圧倒的だ。撃ち落とした端から新手が湧き出すように迫り、赤い光点が無数に瞬いては砲口を開く。


「……ッ、キリがねぇ!」

彼は舌打ちしながらも、弾倉を叩き込み、立て続けに撃ち込む。

だが撃ち抜いても撃ち抜いても、黒い影が空を覆い尽くすように群れを成した。


リオンは背中を預けるように剣を閃かせる。

鋭い光刃がドローンの機体を切り裂き、金属の残骸が地面に弾け飛ぶ。

しかし彼の剣は一度に数を削るには小さすぎた。

迫り来る群れに対し、斬り伏せてもすぐに間を埋められていく。


「こっちも押しきれない……!」

汗をにじませながら、リオンは前に飛び出し、盾代わりに剣を振るう。

だが光線弾が頬を掠め、火花が散る。

わずかな遅れが命取りになるほど、敵の包囲は速かった。


爆ぜる音と閃光が入り乱れ、視界は次第に煙と火薬に閉ざされていく。

Kの弾丸が壁を伝って跳ね返り、敵の機体を貫くたび、ひとときの突破口が開かれる。

その隙を縫ってリオンが飛び込み、鋼鉄の刃で胴を断つ。


だが――。


ドローンはなお、止まる気配を見せなかった。

まるで反逆因子を葬り去るまで、何度でも蘇るかのように。


爆風と煙の中、彼らの集中力は低下する。

その刹那、鋭い影がKの背後に迫る。

浮遊する刃が今にも振り下ろされようとしていた。


「…………!!!」

しかしその刃は届かなかった。


鉄を砕く轟音と共に、巨大な剣がドローンを一掃した。

火花が散り、残骸が地に落ちる。


煙の中から現れたのは、鎧に身を包んだ巨躯の男。

その瞳は鋼鉄のように冷たく光り、声は街全体を震わせるほどの威圧を放っていた。


「……街を壊すのは楽しいか、反逆者」


騎士団長、ガリウス――。


その巨体は以前見た時より、遥かに大きく思えた。

彼の背中には多くの騎士たちも着いていた。


「団長……」


リオンの胸が凍りつく。


「……」

Kはしばしの沈黙の後、回答する。


「お前の目には俺が、自分で自分を攻撃する馬鹿に見えるのか。

大層な目をしてやがるぜ大団長さんよ。」



ガリウスの瞳が細く鋭くなる。

反逆者の言うことはもっともだった。

この騒ぎの首謀者が彼らであるならば、彼らをドローンが攻撃する理由は無い。しかし……

一歩、重い鎧の足音が響き、剣先がわずかにカナンへと傾いた。


リオンは慌てて一歩踏み出し、声を荒げる。

「団長!違います!街を壊してるのは俺たちじゃない!」


前に出たリオンに対して言う。

「どけ、リオン、この街から追放された貴様なんぞに用はない。」


ガリウスの言葉に、リオンは顔を強張らせた。

呟いた言葉に静かに怒りが宿る。


「こんな状態でも…まだお前は…!」


次の瞬間、彼は静かだった表情を切り離し、声を張り上げる。


「用がないのは、お前の方だ!!!

俺たちは、街を守るために!!!

人を守るために!!!

監視者を倒しに行かなきゃならないんだ!」


その一言が夜の空気を切り裂いた。

周囲の雑音が一瞬止み、群衆の視線が一斉にリオンへ集中する。

リオンの声は怒りと祈りと決意が混ざった叫びだった。

胸の奥から湧き出る感情が剣に宿り、指先が白くなっている。


けれどその叫びはガリウスには響かない。

「お前も騎士であったのなら、分かるだろう

心情だけでは生きては行けない。

掟に従い、反逆者を始末せねばならないのだ。」


「……ッ!!!!!」

リオンは苦い顔をした。


「……なら……」


だが、その苦さはすぐに消え、彼はガリウスをまっすぐ見据えた。


「それなら!!守れよ!!

この街の騎士なら!

この街を守れよ!!!!!!!」


「……俺は知ってる!

騎士が最初に教えられるのは掟じゃない、人を守る誓いだ!

ガリウス団長、あんたが教えてくれたはずだろ!!」


「今暴れているのは何だ!?

今襲っているのは何だ!?

俺たち反逆者じゃないだろ!

現実から目を背けるな!

あんたは街の、オクルスの騎士だろ!!!」


ガリウスの顔が一瞬、硬く歪んだ。

リオンの師として、そして騎士としての重みがその肩に落ちるのが見て取れる。

群衆の喧騒が一瞬だけ薄れ、時間がゆっくり流れるようだった。


「……あの頃の言葉か」

ガリウスは低く漏らした。

声には昔日の響きが混じっている。


「確かに、俺はお前に掟を教えた。

だが――それは、掟を守るためではない。

……民を守るためだ。」


鋼の鎧が軋む音が、夜の空気を切り裂いた。


ガリウスが突然放った一撃は、リオンの後ろに迫っていたドローンを二つに割った。


老兵は、未だ驚きを続けるリオンに、背を向けて告げる。

「震源は中央区の地下深くだった。」


「恐らくそこに奴が居る。」


「これは命令だ、奴を仕留めろ、リオン……」



使命を託された若き騎士は表情を引き締め宣誓する。

「騎士リオン、ご命令、確かに承りました。」


ガリウスは頷くと、鋼の手を掲げて号令をかける。

「盾隊、前方確保! 

火器班は空を抑えろ! 

群衆は後退させる!」


「白兵は進路を開け!」

「彼らを、騎士リオンを何としてでも送り届けよ!!!」


命令は即座に伝播し、瓦礫の間から騎士たちが秩序を取り戻し始めた。

Kは短く、服で銃身を拭い、顔を上げる。

その隣へと駆け寄るイヴは、まだ薄く震える手を胸に当てていた。


空は赤く滲み、遠くでドローンの群れが鳴動する。



ーー燃え残る街路の中、3人は走り出す。

夜の冷気が二人の息を白くする。

背後で騎士たちの戦闘音が続く。

反逆者たちはやがて開いた下水口、廃棄された搬入口へ順番にと足を踏み入れた。

地鳴りが近くなり、再起動を告げるように街の監視灯がちらつく。

その先へと続く地下階段。


終幕へと足を踏み入れる彼らを照らすのは、監視者の心臓へと向かう、暗い回廊だった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

ついに、第一章、最終決戦が始まりました。

反逆者、リオン、イヴは監視者〈オブザーバー〉を打ち破り、オクルスの街を救うことは出来るのか!?

次回更新まで楽しみにお待ちください!

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