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#31 「君の一番したい事」

枕元で騒がしく鳴り響くアラームで、隼人は目覚めた。

まだ眠っていたいが、残念ながら外せない用事がある。だからこそ、名残惜しいけれど暖かい毛布とはおさらばした。

月日は進み、十一月に入った。

ますます冬の足音が近づいて来たのを、肌と白くなる吐息で感じ取る。

今日は夏希の復活LIVE当日。

夏希が隼人と結衣分をくれたので、実質タダで見に行ける。貧乏学生には有難い話だ。

支度を済ませて、九時過ぎには妹の由希に見送られて家を出た。


寄り道をする事も無く、九時半には待ち合わせの駅前の広場に着いた。

既に結衣は待ち合わせ場所に居て、その隣には悠未も居る。

今日は夏希の復活LIVEだけではない、悠未が全てに決着をつける日でもある。

だからこそ、それを為すまでに結衣の心情を聞いておかないといけない。

結衣が前に進みたいのか、どうかを。


「おはよう上坂」

「おはよう隼人」

「おう、おはよう」


隼人が来た事に気付き、本へと向けていた視線を上げ、結衣が隼人を見て挨拶をする。

悠未もそれに倣う様に声を掛けた。


「じゃ、行くか」

「そうだね」


二人(と悠未)は駅へと向かい、朝陽市へと向かう電車に乗る。

何とか座る事が出来て、駅へと着くまでの間に隼人は結衣へと尋ねる事にした。


「もし、自分の気持ちに整理がつけられるとしたら、結衣はそれを望むか?」

「どうしたのいきなり」

「いや、気になって」

「まぁ、私はそれを望むね。別れを告げられるなら、私はそれをしたい」

「幼馴染にもか」

「うん、悠未ちゃんにお別れを言えるなら、私は言いたい。ごめんも、またねも」

「成る程な」


隼人は目線を悠未に移す。目線の先では、真向かいに座る悠未が結衣をただじっと見ていた。

結衣の気持ちも分かった。本人がそれを望むのならば、隼人はそれを為すための手伝いをするだけ。

考えとやる事が纏まった所で、電車は朝陽駅に止まる。


駅から会場までは少し離れていた。

てっきり前に隼人が初めて行ったライブ会場でするのかと思いきや、今日は海側の特設ステージで復帰LIVEをやるらしい。

だからこそ、会場が近づくにつれてその復帰LIVEを見ようと押しかけるファンが増えてくる。

各メンバーの推しT何かを着ている人たちがそれを教えてくれた。

開場時間になり、誘導されるままステージ前へと三人は入って行く。

この前行ったライブよりも人は多い、夏希の復活を一目見ようと集まったファンでライブは始まる前なのに賑わっていた。


「なんか、僕の方が緊張して来た」

「その調子でステージに上がって来たら」

「そんなことしたら夏希にも迷惑かかるだろ」


そんな他愛も無い会話を結衣と繰り広げている内に、ステージ開幕の時間になる。

 ユニット曲のイントロと共に壇上に上がる5☆STARSのメンバー達。各場所からからは『凛ちゃんー!』『優花ちゃーん!』という風にメンバーの名前を叫ぶファンの声が響く。

 しかし、そこに夏希の姿はなかった。


「アイツは?」

「分からない……」


「皆さん、今日は私たち5☆STARSのライブに来て下さり、ありがとうございます!」

「ライブを始める前に、リーダーの夏希から挨拶があります」


 メンバーのその一言の後、山下夏希が遅れて壇上に上がった。

 数週間ぶりに表舞台に姿を現した夏希の姿を見て、ファンのボルテージは最高潮になる。騒がしくなる会場を他のメンバーが必死に諌め、静かになってからようやく夏希は口を開いた。


「皆さん…… ご迷惑おかけしてすみませんでした! 正直言うと、あんな事があってから今日こうやって再びアイドルとして皆の前に姿を現すか ずっと悩んでいました!」

「夏希……」


 夏希の言葉に、会場がザワつき始める。

 メンバーも同じ様に驚いた表情を浮かべていた。きっと、辞めるか悩んだ事は隼人と結衣しか知らないのだろう。


「だけど、私の信頼出来る友人達の支えもあり、こうして再び皆の前にアイドルとして現れるのを決意しました! そんな私を受け入れてくれますか?」


『当然じゃん!』『ずっと待ってたよー!』『なつきちがまたアイドルやってくれて嬉しいー!』


「私たちもずっと夏希の事待ってたんだから!」

「また一緒にアイドルしようねー!」

「勝手に辞めようなんて、私たちが許すわけないじゃん!」

「そうだよ!夏希が辞める時は私も辞めてやるんだから!」


 方々から上がるファンの声、そしてメンバー仲間の言葉を聞き、感極まったのか夏希は涙ぐむ。


「ちょっ!夏希!」

「泣いたらメイク落ちちゃうよー!」

「ごめん……でも、嬉しかったから……! やっぱり私、アイドルが好き……!」


目尻に浮かぶ涙を拭いながら、夏希はもう一度前を見た。

目の前に広がる、5☆STARSのファン達。

アイドルを始めて、苦しい時もあった。

思い通りに行かなくて悲しくなったり、売れて行く他のアイドルを見ながら悔しいと思う時もあった。

あんな事があって、一度は閉ざそうとした道。けれど、集まっているファンを見て、一度でもそんな選択をしようと思った自分を叱りたくなる。


自分はこんなに愛されているんだ。

自分はこんなに応援してくれる人がいるんだ。

自分を支えてくれた友達がいるんだ。


夏希の視線の先に、隼人と結衣が映る。きっと、自分には見えないだけで悠未もそこにいて、アイドルになった自分を見ていてくれる。

だからこそ、そんな友達の為に、応援してくれるファンの為にアイドル山下夏希は再び立ち上がる。


「じゃあ夏希、早速行こうか!」

「私たちの原点の曲!」

「私たちはアイドルなんだから笑顔届かなきゃ!」

「夏希、煽りお願い!」

「うん!じゃあ、聞いてください! アイドル宣言!」


◇◆◇◆


ライブが終わり、夏希がやってくるまで時間を潰す。

隼人は結衣、そして悠未と共に朝陽市の街を目的もないまま歩き続ける。

今この瞬間でも結衣に悠未が見えるなら…。隼人はそう思いながら、ずっと会いたがっていた親友が隣にいる事を知らないまま歩き続ける結衣を時折見る。

だからこそ、そんな隼人の視線を結衣は感じ取り、声を掛ける。


「なんか今日の上坂、変だね」

「そうか?」

「うん、なんかずっと忙しない。言いたい事があるなら言えば?」

「まぁ、後でな」


何処かすっとぼけながら歩いていると、結衣のポケットのスマホが鳴る。

相手は夏希から。予定が終わり、こちらへと合流出来る旨の連絡。

隼人と結衣は夏希との待ち合わせを近くの公園にして向かう。

この先に待つのは、別れ。

だからこそ、メインは自分でも無いとは分かっていながらも、隼人は何処か緊張した様子で歩く。

日もすっかり落ちた。やはりこの時期は日没も早い。

等間隔で置かれた街灯の先にある公園の中心に、夏希はいた。


「お疲れ様、夏希」

「ライブ良かったぞ」

「ありがとう、隼人!結衣!またステージに建てたのも、二人のお陰!」


一時は活動休止まで追い込まれた夏希も、すっかり元気を取り戻した。

そんな夏希と結衣の真向かいに、悠未が居る。

隼人が視線を送ると、悠未は何も言わずにただ頷いた。

だからこそ、隼人は遂に本題へと入る。


「なぁ、結衣 夏希。今一番会いたいと思う人間を考えながら、僕はと触れてくれ」

「…なに?上坂?」


突然の隼人の言葉に、結衣は不可解な視線を送る。

一方で、夏希は全てを察した様な、そんな顔をした。


「いいから、頼む」

「…分かった」


結衣の手が隼人の肌に触れる。それに続いて、夏希も隼人に触れた。


「目を閉じて、強く念じてから目を開けてくれ」


隼人に諭されるまま、二人は目を閉じて、そして目を開く。


「…嘘」

「…ぁ」


隼人の言う通りにした後、目を開いた結衣と夏希の前に立つ一人の少女。

園崎悠未。

かつて、結衣が救えなかった少女。

かつて、夏希がごめんを言えなかった少女。


「久しぶり、だね夏希ちゃん。結衣ちゃん。」


悠未の言葉を聞いて、結衣と夏希の二人はまるで壊れた蛇口の様に大量の涙を流し出す。

そして震える声で、結衣は隼人へと問う


「上坂、どうして?」

「僕が"幽霊が見える"ことに気付いた切欠が悠未だった。 で、なんか仲良くなった。そして頼まれた、『ちゃんと別れを告げたい』って」


 十年前、この世を去ったはずの友人が目の前にいるという事実に、いつも冷静な結衣の感情が揺らぐ。

 止めどなく流れる涙、そして震える声と共に、結衣は悠未へと謝罪を口にした。


「……ごめんね悠未ちゃんっ! 私、悠未ちゃんに残された時間が分かってたのに……何も出来なかった……」

『結衣ちゃんは悪くないよ 寧ろ私のせいで苦しめたよね? 後悔させたよね?』

「そんな事ない……! 私は……!」

『……私があげたリボンの髪留め まだ付けてくれてるんだ』


 泣き続ける結衣に対して、悠未が手を伸ばし、髪留めへと優しく触れる。

感覚はない。けれど、そこに優しい温もりはあった。

だからこそ、それが結衣の涙腺をさらに刺激する。


「手放すつもりは無いよ…… 私はこれをずっと悠未ちゃんだと思って付けてきたから。」

『嬉しいな ありがとう結衣ちゃん』


「……私のアイドル姿、悠未は見てくれた?」

『うん!夏希ちゃんすっごくかっこよかった!』

「……悠未、ごめんね。 私が引っ越す前 喧嘩別れみたいになっちゃって。 引っ越してからも送ってくれた手紙 今も大事に持ってる! ずっと言いたかった!ごめんなさいって!」

『私もごめんね、手紙じゃなくて ちゃんと面と向かって私も謝りたかった』


 結衣と夏希。それぞれが胸に秘め、ずっと言いたかった想いを、涙ながらに悠未へとぶつける。

伝えたい思いはいくらでもあるのに、嗚咽で言葉が上手く出ない。


「夏希も結衣も、言いたい事あるなら今の内がいいぞ。伝えたい事は、伝えたい内に言っとかないと後悔する」

「……分かってるよ、けど!」

「……多すぎて伝えきれない」


 散々泣き続ける二人は、いつの間にか隼人の服を、涙を拭うティッシュ代わりにするように寄りかかる。

 二人の涙が触れた部分が熱い。けど今それを言うのは不粋な気がして隼人はぐっと堪えた。


「悠未ちゃん、私と友達になってくれてありがとう」

『ううん、私の方こそありがとう!』

「ずっと私達の事見守っててくれる?」

『うん、空の上から夏希ちゃんと結衣ちゃんの事 ずっと見守ってるねっ!』


 直後、目の前に立っている悠未の身体に異変が生じる。

 身体の一部が光の粒となり始めたのだ、隼人はこの先に何が起こるかを知っている。


『もう時間みたい…… 隼人っ!』

「えっ僕?」

『最期に二人に会わせてくれて…… 私の願いを聞いてくれて ありがとうっ!』

「……今更だけど良かったのか?」

『うん、いつかこんな日が来ると思ってた。 だからもう怖くないよ。 』

「そっか、なら天国で僕の姉によろしく頼む」

『分かったっ!会えたらちゃんと伝えとくね!』


 既に悠未の身体の下半分は消えた。

完全消滅するまで時間の猶予はない。


「私は……悠未ちゃんの事 絶対に忘れないから……!」

「私達は悠未の分も頑張って生きるから!」


『ありがとう、二人とも本当に大好きだよ 隼人も、二人を宜しくね』

「ああ、またな」


 最後に静かに頷き、悠未は満面の笑みと共に、完全に光の粒となって天へと登っていく。

 これで、人生で二回目だ。誰かをこうして見送るのは。

 流石の隼人も、笑顔のまま消えていった悠未を見て少し、言葉に出来ない悲しさに襲われる。

 きっとこれで良かった、悠未もあの時の春奈と同じ様に、思い残した事が無くなって満足そうな顔をしていたのだ。


「……うぅ うわあああああ……!」

「ゆうみ……ちゃぁん……」


 そして隣の二人も、完全に力が抜けてその場で泣き喚く。

 我慢なんてしない とばかりに、止めどなく瞳から溢れる涙は二人の頬を伝い、重力に従う様に地面へと落ちていく。

 その気持ちは、隼人には痛いほど分かった。姉と別れた時に味わった感情。

 だからこそ、『泣き止め』なんて言葉は掛けない。泣きたいときは、涙が枯れるまで泣けばいい。

 結局の所、悲しいという感情なんて堪えようと思って堪えられるものでは無いと、隼人は身体をもって散々痛感したのだから。


「元気でな、悠未」


 闇夜の中を綺麗に煌めいている星々へと向けて、隼人はそう呟いた。

 もうここには居ない、六人目の友人に思いを馳せながら。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


家が逆方向の夏希とは駅前で別れ、結衣と共に駅のホームで電車を待つ。

 時刻はまもなく十九時になる。思ったより二人が落ち着くまで時間が掛かった。

 それよりも、もう掴む必要のない自分の腕を結衣がずっと触れているのが隼人は気になって仕方ない。


「落ち着いたか?」

「……」


 口にはせず、結衣は首を横に振る。


「なら、落ち着くまでは一緒に居てやるよ」

「落ち着くまでじゃ嫌だ……」

「え」


 珍しく甘えてくる結衣に、隼人は思わず素っ頓狂な声が出る。その反応は、隼人の想定外。


「じゃあ今日はずっと居てやる」

「足りない……」

「じゃあ……」

「今から私が言うこと、上坂は笑わないで聞いてくれる?」


 隼人の言葉を遮り、いつになく真剣な表情で結衣は僕にそう告げる。


「勿論」

「ずっと言うか悩んでた、けどさっきの上坂の言葉でやっと決心がついた」

「僕なんか言ったか」

「……"伝えたい気持ちは、伝えたい内に言わないと後悔する"んしょ?」

「……まあな」


 結衣がこれから言おうとしている事が、隼人には何となく読めた。

 だからこそ、身体中に緊張が走る。今までに経験が無いことだから。

 だけれどそれは隼人だけで無くきっと結衣も同じ。

だから、笑って流さずに真正面からそれを受け止める事にした。


 結衣な隼人の腕から離れる。そして改めて隼人の方へと向き直る。

 隼人もそれに倣って、身体と顔を結衣の方へと向けて、お互い見つめ合う形になる。何だか恥ずかしい。

 よく見ると、結衣の口は震えていた。まだ散々泣いた後の余韻が続いているのか、もしくは緊張しているのか。

 心を落ち着かせる為に目を閉じ、大きな深呼吸を一つしてから、再び先程の様な真剣な眼差しで隼人の目を見て、口を開いた。


「ねぇ、上坂 今こんなこと言うのは変に思われるかもしれないけど、今じゃないと言えない気がするから 言うね」

「ああ」


 互いの心臓がドクンと高鳴る。

 周りに鼓動が聞こえていないか心配になった。

 体全体が震えそうになる緊張感の中、そして結衣はこう口にした。





「私は……」






「……私はっ 上坂の事が好きっ!」



冷たい風の吹く駅のホームに、結衣の言葉が溶けて行く。


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