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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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9話 一緒に楽しく暮らそうよ


 勢いで居間に戻ろうとしてしまったが、まだもう1つの薬を見せていなかった。

「え、ええっとだな、こっちの丸薬は、ゾルタンに来てから作ったんだが」
「エクストラキュアポーションと同じ効果を持つ薬とかやめてよね」
「そりゃ無理だ。これは新種の麻酔だよ」
「麻酔?」
「これまでのものと効果は変わらず、依存性を少なくしたものだ」

 外科治療などに使われる麻酔は依存性が高く、怪我を治しても薬物中毒になる患者は少なくない。それでも、麻酔無しでの治療は冒険者ですら耐え難い苦痛であるし、痛みと出血でショック死する可能性だってある。
 中毒のリスクを考えても、麻酔は絶対に必要な薬だ。

「でも依存性が無いなら無い方がいいだろう? 暗黒大陸を旅した冒険者の日記にあった薬なんだが、その材料がゾルタンに自生していてな。エルフが持ち込んだのかもしれない。まぁとにかく、そういう新しい麻酔なんだ。これは市民には必要ないだろうから、医者や冒険者に売ろうと思っている……んだけど、どうかな?」
「うん、それなら大丈夫そう。いい収入になると思う……ただゾルタン議会の承認を先に貰った方がいいわ」
「議会の?」
「依存性が低いといっても麻酔だもの、麻薬として使えないかって考える人はきっと出てくる。だから、先に議会に効果を認めさせて、あとから販売停止命令が出ないようにしておいた方がいいわ」
「たしかにそうだな」
「新薬の売れ行きは予想できないわ。町の麻酔需要をすべてウチで引き受けられたらかなりの収入になるとは思う。その場合は、供給が間に合わないかもね」
「まぁ必要なのは初級調合だから、人を雇えばすぐに増産できるよ」

 その言葉を聞いてリットがピタリと動きを止めた。

「そうか、レッドがすごすぎて忘れてたけど、これ初級調合で作れる薬だったのよね」

 効果の高い麻酔薬はそのほとんどが中級調合のスキルを必要とする。その意味でもこの薬は俺に合っているものなのだが……。

「薬自体も素晴らしいけど、正規の加護持ちでなくても作れるってのは問題かも……」
「そ、そうかな?」
「でもレッドの加護が特別なものだとは町の人は知らないはず。普通に売り出す分には、レッドは中級調合を使える加護だということにしておけばいいと思う」
「でも薬師の上級スキル、調合分析のスキルがあれば、薬から調合レシピが調べられてしまう」
「レッドって本当、加護に関する知識豊富よね。固有の上級スキルなんて普通知らないわよ」

 相手の加護を知ることは、相手の手の内を知ることでもある。
 この加護は、僅かな例外を除いてモンスター達も同条件だ。
 いくつかその種族専用の加護もあるが、ほとんどは人間と同じで、特にモンスターの世界では、闘士ウォーリアー蛮人バーバリアン盗賊シーフ妖術師ソーサラー祈祷師アデプトの5つの加護が多く、これらの加護ができることを知っていれば、相手の戦い方を予測することが可能になる。
 特に俺の場合はスキルが頼りにならない分、知識でカバーしようとしていた成果だ。ここにいるリットの加護がスピリットスカウトで、精霊魔法を切り札にしていることも早い段階で気がついた。
 戦闘での活躍が難しくなったあと、俺が斬り込んで相手の能力を把握し、仲間へ対策を伝えるという戦い方をしていた時期もあったくらいだ。

 まぁ、それも加護の法則の例外である魔王軍本隊『アスラデーモン』達を相手にすることが増えてくるまでだったが。やつらには動物ですら持っている加護を、唯一持たない存在。神の失敗作とも呼ばれる。
 だが加護を持たない代わりに、アスラデーモン同士で融合して、新しい能力を獲得するという。
 この情報が正しいかは分からないが、アスラデーモンが俺の知らないスキル体系をしていることは間違いのない事実だ。

「まぁゾルタンには上級スキルを使える薬師はいないはず。ゾルタン内で商売する限りは大丈夫だと思う。あなた1人が作れる量なら行商人に渡る量も僅かなものだろうし」
「良かった。じゃあ俺は中級調合がいくつか使える加護持ちということで、客に聞かれたら話すよ」
「お願い。でも、だったらなぜ中級調合で作れる薬を置かないのかってことにもなるから、聞かれた時だけね」
「わざわざ積極的に嘘を言いに言ったりはしないさ」

 嘘はつかないに越したことはない。嘘を言わなければ嘘がバレる心配もないのだから。
 沈黙は金だと、昔の勇者も言っていたそうだ。

「昔の勇者ねぇ」

 リットは感慨深げに言った。ウッドエルフ達が大陸の覇権を握っていた頃にいたとされる過去の勇者の話はおとぎ話に近い。その実在を疑問視する人も多かったが、実在する勇者であるルーティが現れたことによって、勇者の加護が実在ことが証明され、過去の勇者についても再評価される事になった。
 今では考古学者や吟遊詩人達が、勇者の記録や物語を探して古い街の書庫や、廃都の壁画などを調べて回っているそうだ。

「今の俺には関係のない話だけどな」

 そう俺にとっては、もう関係のない話なのだ。

☆☆

 貯蔵庫では随分話し込んでいたようだ。
 気がつけば夕日が沈み、赤い夕焼けが今にも夜に飲まれそうだった。

「そうだ、メシ食べてくか?」
「食べる!」

 そう嬉しそうに返事をされたら料理を作る方も嬉しくなって気合が入るというもの。
 俺は、キッチンに戻ると、さて何を作ろうかと思案する。

「とはいえ、買い物にも行ってないしな。ありあわせのものだと……」

 鶏のもも肉をぶつ切りにして、水とすりおろした生姜しょうがと一緒に煮込む。肉が柔らかくなったら半分に切ったじゃがいもとゆで卵を加えてる。
 じゃがいもが柔らかくなった頃にパスタを加えて、塩と香草ハーブで味を整えて……完成だ。

 南方風スープパスタ。
 旅だと水を捨てるパスタは勿体無いから、スープパスタを作ることが多かった。これもそういった事情から選んだレシピだ。リットに気に入ってもらえるといいが。
 ゾルタンに来てから他人のために料理することはほとんど無かった。
 少しだけ緊張しながら、俺は料理の器を運んでいった。

☆☆

「美味しい!」
「それは良かった」

 首のバンダナを外しテーブルに座ったリットは、俺の料理を美味しそうに食べている。
 やはり美味しそうに食べてもらえるのは嬉しい。

「これからは毎日レッドの料理が食べられるんだね」
「ん? そうだな」

 どうやら毎日食べに来るつもりらしい。
 まぁ仲間に食事を用意するのは、俺の楽しみの1つだったしそれも良いだろう。

「朝は何時くらいに食べるの?」
「ん、そうだな、7時半くらいか」
「それならちゃんと早起きしないとね。冒険者やっていると、何もない日はつい、いつまでも寝床から出ようとしなかったりするし」

 どうやら朝も食べにくるつもりらしい。ということは3食うちで食べるのか。まともな給料出せない分、食事くらいは用意してやるのもいいだろう。
 明日からは楽しい食卓になりそうだ。

「そうだ、私がお金出すからお風呂作ろうよ」
「風呂? そりゃあったら嬉しいが、そこまでしてもらうのは悪い」
「いいよいいよ、私も使うんだから」

 ……風呂をうちで済ますつもりらしい。
 んー?

「ベッドはシングルベッド1つしかなかったよね。明日ベッド買ってこないと」
「う、うん?」
「必要な私物はアイテムボックスに入れてあるから。家具とかは前の家に置きっぱでいいわね」

 大げさだなぁ、これじゃあまるで……。

「ははっ、まるで俺の家に住むみたいじゃないか」
「ははっ、あなたの家に引っ越すんだから当たり前でしょ」
「え?」
「え?」

 ちょっと待て、いつから俺の家に引っ越すって話になった。そりゃお店が併設されているから、建物自体はそこそこでかいが、居住空間自体はそう広いものじゃないぞ。

「だって最初の方で言ったじゃない。冒険者引退してここで働くって」
「ああ、言ってたな……え? なんでそれで引っ越すことに?」
「冒険者引退してここで働くんだから、住み込んだ方がいろいろと都合がいいでしょ?」
「な、なるほど、そ、そうかな?」
「そうよ」
「そうか」

 そうなのか?
 ええっと、話をまとめると……要するにリットは俺の家に住むってことだな。

「……う、うん? いやいや待て待て、それはまずいんじゃないか?」
「なんで?」
「いやだって、一緒に暮らすとなったらいろいろと」
「やだなぁ、前は同じテントで眠った仲じゃない。あの時よりは距離があるわよ」
「そりゃ野営の時はみんな一緒に眠るだろうし」
「だったら同じじゃない、私達“仲間”でしょ?」
「ん? んん? いや確かに仲間だ」
「じゃあ同じ部屋で眠ってもいいじゃない」
「そうか」
「そうよ」

 そうなのか。

「じゃあ、私身体洗ってくるから、洗面所使うわね」
「あ、ああ、着替えはあるのか?」
「アイテムボックスにいつも入れっぱなしよ」
「それはそれでどうなのだろうか」
「ここには気持ちのいい庭があるし、明日時間があれば日干しておくよ」
「ん、じゃあ手伝おうか」
「いいよいいよ……本当にいいの?」
「ああ、朝のうちに干してしまおう」

 ……ところで、同じ部屋で眠るのか?
 いや寝室は1つしかないのは確かなんだが。
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