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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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8話 英雄リットは手伝いたい

 気がつくと、太陽の位置が随分下がっている。
 もうすぐ太陽は赤く染まり、夕闇がゾルタンの町を包むだろう。
 俺達はテーブルを挟んで座り、取り留めのない雑談を続けていた。

「ねぇ、レッド」
「なんだリット」

 リットが俺の目を見つめている。

「私もこの店で働いていいかな」
「え?」

 思わず、間の抜けた声が出た。その言葉は予想していなかったよ。

「レッド&リットの薬草店。名前の語呂もいいと思わない?」
「ちょ、ちょっと待て。お前はゾルタンで2人しかいないBランク冒険者だぞ」
「冒険者は引退する」
「いやいや待て待て!」

 リットは何を言い出しているんだろう。
 お昼から夕方になるまで客の来ない店で働きたいだなんて。

「見ての通り、この店は開店したばかりだし、繁盛もしていない。人を雇う余裕なんて無いよ」
「でもあなたが薬草を採りに行っている間、誰が店番するの? その間、お店閉めるのは勿体無いじゃない」
「うぐ、まぁ、たしかにそうなんだが、そもそも客が」
「客も何も開店したばかりでしょ。これから増えるわよ。ちょっと中見せてもらうわね」
「むむ?」

 訳知り顔でリットは俺の店の中を歩き始めた。

「店頭が1つ、陳列棚が両脇。ふむふむシンプルね」
「陳列しているのは一般的な薬草だけだからな。数の少ないものや保管に気を使うものは貯蔵庫に保管したり、庭に植えていたりだ」
「作業場は十分な広さがあるわね、もう2人くらい薬師を増やせそう」
「技術者は雇うと高いからなぁ、しばらくは無いな」
「あとは台所、洗面所、寝室、さっきまで私達が話していた居間。良いお店じゃない」
「だろう?」

 うんうんと頷きながら、リットはなにやらブツブツと呟き出した。
 耳を澄ませていると計算をしているらしい。

「ゾルタンの経済規模とレッドの技能を考えれば、月の収入は、経費や設備維持費、そして税金引いて銀貨で180ペリルってところね」
「なに!? ……そんなものか?」

 2日かけて採取した薬草を冒険者ギルドに買い取りしてもらうだけでおおよそ100ペリル。
 それが店では月に180ペリルにしかならないと言う。

「まじか、薬草は俺が採取してくるから、原材料はいらないぞ」
「薬草といってもそう大量に消費するものじゃないのよ。薬屋に卸すギルドと違って、客や医者に売るんじゃ、採取した薬草が売り切れるまで時間がかかるわ。多分、月に1回薬草を取りに行けば十分だと思う」
「ぐむぅ」

 そんなに売れないのか。
 だって薬草っていろいろな所で使うし。

「そもそもレッドはすぐに騎士になって、その後も勇者と一緒に冒険して忘れてるのかもしれないけれど、一般人の月の生活費は30ペリルくらいなんだから」
「うん、それは知っているが……」
「普通の薬屋なら月150ペリルも利益がでれば繁盛している方なの。私が言った180ペリルだって、付近の住人に知ってもらって、この店のポテンシャルを十分発揮できた場合の試算よ」

 冒険者ギルドに買い取りしてもらった薬草は、さらに高い値をつけて薬屋や行商人に売られる。
 それを自分で直接売ればもっと利益がでると思ったが、確かによく考えれば、常に売れるのは冒険者ギルドがそれだけの販路を持つからだ。
 個人商店では、薬の備蓄はあってもそれを売り切るまでに時間がかかってしまう。
 店を出せばなんとかなると思っていたが、甘かったのかもしれない。

「でもそうか、生活費は30ペリルあれば足りるのか」

 リットの言うとおり、俺はすぐ騎士になり、順調に出世してバハムート騎士団副団長の肩書を得ていた。
 当時の生活費はおよそ月3000ペリル。上級貴族並の扱いを受けて生活していた。住んでいた場所は宮廷敷地内の屋敷だったし、身の回りの世話をするメイドもいた。
 ルーティと旅をしていた頃は、魔王軍との戦いの戦利品やダンジョンの財宝など数万ペリルの収入に、高価な霊薬、希少な鉱石で作られた武器など次々に取り替え出費もとんでもない状況だった。
 俺は金銭感覚が少し麻痺しているのかもしれない。

「そうか……にしても詳しいな」
「私はこれでも公女様よ、宮廷で色々勉強してたし。それに外に出てたときは私、いろんなお店の用心棒をしてたでしょ? 話の種にお店の店主から経営の話を聞いてたの」

 胸をそらしてえへんといばる。その姿は、出会った頃の勝ち気なリットを思い出せて、俺は思わず笑った。

「あとは、そうね。何か他にはない薬とかあったらいいと思うんだけど……本職の薬師でもないレッドにそうそう調合レシピがあったりは……」
「ん、それなら、多分珍しいのがあるぞ」
「え、あるの?」

 実は調合レシピの開発にスキルは関係ない。レシピは純然たる知識の問題で、スキルが関係するのはその薬を調合する段階のみだ。
 だが、有用なレシピを見つけても、その調合レベルに対応するスキルが無ければそれを実際に完成させることができないのだから、現実的には錬金術師や薬師の加護を持つ者でなければ、新しい調合レシピの開発などしないのが一般的ではある。

 しかし俺は、常に固有スキルがない状態で何ができるかを模索し続けてきた。それに旅の中で、現代、過去、そして古代エルフ時代の文献に至るまで多くの知識に触れる機会があった。
 調合の知識だけなら本職の錬金術師達にだって負ける気はしない。このことを誰かに喋ると面倒なことになるだろうから言わないけれど。

「たしか貯蔵庫においてあったな」

 知識は十分でも、固有スキル無しで作れる薬が限られているのには変わりはない。古代エルフ達も、スキル無しできる調合を研究したりはしていなかった。なので、俺が作るのは結局はオリジナルだ。時代をまたぐ知識を応用して、汎用の初級調合のスキルだけで作れるものを作り出した。
 俺とリットは貯蔵庫に移動した。

「ゾルタンで作れるオリジナルの薬はこの2つだ」

 俺が引き出しから取り出したのは、安っぽいポーション瓶に入った灰色の薬と、小指の先ほどの丸薬だ。

「どういう効果なの?」
「こっちのポーションは、名付けてふえるポーションだ」
「ふ、ふえるポーション?」
「うむ、これは既製品のマジックポーションに対して5倍の割合でよく混ぜ、均等に分配することにより、元のポーションを5本に増やす薬だ」

 マジックポーションとは薬草ではなく、魔法を封じ込めたポーションのことだ。ホワイトベリーはこのマジックポーションの触媒としてよく使われる。
 ホワイトベリー自体には人体に特別な効果はないのだが、ホワイトベリーから抽出した液とその他、蓄えたい魔法に応じてさまざまな材料を使い魔法を封じ込めることができる。マジックポーションを飲めば魔法を発動したのと同じ効果を得られるというわけだ。
 ただし飲まないと効果がないため、ポーションにされる魔法は、治療と補助が一般的である。攻撃魔法をマジックポーションにしたとしても、相手に飲ませないと効果がないからだ。

 しかし、マジックポーションの価格は非常に高価で、レベル1回復魔法であり、どの町でも流通しているキュアポーションでも50ペリルと、一般人や下っ端傭兵や衛兵にとっては命の危険がある場合の非常用の薬として使われる。
 Cランク以上の冒険者ともなれば、戦いが終わる度にこの薬を浴びるように飲みながら強敵に挑むことになるのだが。

「ふえるポーションの材料費は5ペリル程度。市販するとしたら……そ、その、4倍の20ペリルくらいで売ろうと思っているんだ。これで市価750ペリルのエクストラキュアポーションが4本作れると考えたら、売れると、ええっと、思うんだ……けど……」

 リットはふえるポーションを手に持ったまま、難しい顔をしてポーションを睨んでいる。
 あれぇ、これは画期的だと思ったんだけどなぁ。旅をしていた頃も、これでエクストラキュアポーションや、マジックパワーポーションを増やしたりして、アレスもこれには文句を言わず素直に使っていたくらいなんだけどな。

「これは……売れないわよ」
「嘘だろ……何が悪いんだ?」

 俺は肩を落とした。いや、これは自信あったのだが、まさかダメだとは。

「悪いも何も、これを売り出したらポーションの価値が大変動するじゃない! 購入するのはこれまでの5分の1でいいってことなんだから!」
「で、でも作れるのは俺だけだから、大丈夫かなって」
「このポーションが存在することだけで大問題なのよ……これを売り出したら冒険者ギルドも商人ギルドも魔術師ギルドも聖方教会も、そして多分盗賊ギルドだって黙ってはいないわよ」

 俺は笑おうとしたが、リットの顔は冗談ではなさそうだ。

「だってポーションだぞ? 1万ペリルを超えるマジックアテムとかではないんだぞ」
「そんなマジックアイテムはオーダーメイドの一品物でしょ。経済活動に影響を及ぼしているメインは安価で誰でも使えるポーションなの」

 困っている俺の顔をじっと睨んでいたリットが、ふと目元を緩めた。

「ぷくくく……あはははは!!」

 いきなり大きな声で笑い出すと、俺の背中をバンバン叩く。
 俺はわけが分からず唖然とするばかりだ。

「ごめんなさい、でもね、私安心したの」
「安心?」
「私ね、あなたのこと、すごい人だと思ってた、いつも冷静で、いろんなことができて、魔王軍との恐ろしい戦いにも平気な顔して斬り込んでいくんだもの……私がもうだめだって思ったときに、稲妻のように現れて助けてくれるんだもん……ずっと遠い人のように感じていた」
「そんな大層なもんじゃないよ」
「いいえ、レッド、あなたは大層な人よ、このポーションだってちゃんと段階を踏んで世に送り出せば多くの人が救われるし、魔王軍との戦いにだって貢献できる。でもね、あなたにも分からないことや、抜けてるところがあるんだって、私はついさっきまで思いもしなかったのよ」

 リットは何がそんなに面白いのか涙さえ浮かべて笑っていた。
 まさかリットが俺のことを、そこまで美化していたとは思わなかった。リットに出会ったころにはすでに、俺は仲間より戦闘能力で劣るようになっていた。リットを助けた後も、アレスやダナンから先走ったことをひどく怒られたものだ。

「幻滅したか?」
「いいえ、もっと一緒にいたいと思った」

 笑うのを止めたリットはバンダナを指で持ち上げ、口元を隠し目をそらしている。心なしか耳が赤い。
 俺も彼女から視線を外し、「あー、うー」なんと言おうか迷い、後頭部を掻いた。

「あー、うん、そうだな、俺もどうやら1人で商売するのは難しいようだ」

 そうだな、認めよう。俺は彼女からの好意を嫌だとは感じていない。むしろ、自分でも驚くほど嬉しく思っている。
 きっと、それはリットが、俺がギデオンだった頃の仲間だからだと思う。自分の価値を否定され、旅のパーティーを追い出された俺にとって、リットが俺を認めてくれることは……俺が足手まといだと分かっていながらも、必死に追いすがっていたあの旅が無意味なものではなかったと、そう思わせてくれていた。

「時間があるときでかまわないんだが……それに給料だって、大した額は払えないけど……手伝ってくれたら嬉しい」
「うん!」

 リットは今度は首のバンダナで口を隠すことをせず、白い歯を見せて笑った。
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