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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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67話 アスラと賢者

 アレスは身につけている装備を外すと、よろめきながらベッドに身を投げだした。

「ふん」

 本当ならば今すぐにでもルーティを追いかけたいところなのだが、連日連夜魔法を行使してきたため、酷く消耗していた。

(私の夢を阻む邪悪な企みがなんなのか、それは分からないが、私が勝利することだけは確実だ)

 その証拠にこの広い世界から勇者を見つけ出すという奇跡を実現できた。
 アレスは口元を歪めて笑った。

 ドンドンと扉を叩く音がした。

「誰だ」

 アレスは億劫そうに身体を持ち上げる。

「誰だと聞いています。私は休みたいのですよ」
「俺だ」

 アレスはその声に聞き覚えがあった。
 だがその声の主は、ここにはいないはずだ。
 アレスは油断なく立ち上がり、いつでも魔法を使えるよう、右手をフリーにしてゆっくりと部屋の扉へ近づく。

「部屋を間違えてるんじゃないですか?」

 あえて、アレスはとぼけた。

「いや、ここにいる賢者アレスに会いに来たんだよ。俺はダナンだ」

 アレスはゆっくりと扉を開けた。
 目の前には分厚い筋肉に身を包んだ大男が立っている。

「久しぶりだな」

 男は『両手』に果物の砂糖漬けの入った袋を抱え、ニヤニヤと笑っていた。

☆☆

「ほら、この砂糖漬けのオレンジはいけるぞ」
「…………」

 部屋に入ると、ダナンはアレスに袋の中身を差し出した。

「見たところ、大分疲れているようだぞ。そういうときは果物の砂糖漬けがいい」

 アレスは左手で印を作る。毒を検知する魔法が発動し、袋の中身がすべて無毒なことが確認できた。

「用心深いこって」

 ダナンは苦笑しているが、気にした様子はない。
 アレスは、砂糖のついたオレンジを一つ取り出し口の中に放り込んだ。

「ふん」

 確かに疲れた身体に甘いものは合うと、アレスは実感した。
 しかしダナンに対する反感から、アレスは不機嫌な顔のままだ。
 アレスの様子を見て、ダナンは苦笑した。

「お気に召したようで」
「ダナン、なぜお前がここにいるのです」
「俺か? そりゃギデオンを探しにだよ。ここにギデオンがいるって情報を掴んでな。それよか俺としては、なんでアレスがこんな辺境にいるのかの方が疑問だがね、それも1人で。勇者様は別の宿か?」
「ギデオンがここに?」
「ああ、薬屋をやっているようだ」

 まさかギデオンが仕組んだのか? アレスの脳裏にそんな考えが一瞬浮かんだ。
 馬鹿馬鹿しいと即座に否定する。ギデオンのような無能な加護にそのような陰謀を企む力はない。
 だが感情的には、またギデオンが自分の邪魔をしているのではないかと、ふつふつ憎悪が沸き立つような気がしていた。
 その様子を見て、ダナンは目を細める。

「で、勇者様はどこに?」
「……ここにはいません」
「どういう意味だ」
「あなたに説明する必要などありません」
「しかしなぁ、ギデオンもここにいるんだぞ。勇者様に報告しないわけにはいかんだろう」

 アレスの口が神経質そうにヒクヒクと痙攣した。
 ダナンは顎に手を当て、「ふむ」と唸る。

「なぁ、何があったのか話してくれよ。別に俺はお前と敵対したいわけじゃない。内容次第によっては、ギデオンの件は勇者様に報告しなくてもいい」
「……どういう風の吹き回しですか?」
「俺達の目的は魔王を倒すことだ。勇者様とギデオンを引き合わすことじゃない。それにギデオンはここに定住するつもりだ。もう魔王討伐なんて考えていない。ほら、ロガーヴィアのリーズリットのことを憶えているか? あのお姫様とこの町で一緒に暮らしているよ」
「はっ、やはりギデオンはそういうやつなんですよ。私が戦い続けているのに、自分はのうのうと平和な暮らしに逃げ出し、王族との結婚を狙うとは! 汚いやつだ!」

 アレスはそう、ヒステリックに叫ぶ。
 ダナンは思わず呆れた。追い出したのは自分なのに、無茶苦茶なことを言うやつだ。
 まぁ、だからこそ、こいつに接触することにしたのだが。そう、ダナンの姿をしたアスラは顔の裏側で笑った。

「で、まぁ、勇者様がギデオンを連れ戻そうとするためにここに留まるのは時間の無駄になりそうだってことだよ。俺としても無駄な時間をかけたくないからな。ここで勇者様がギデオンを説得するってことになって動けなくなるなんてことは望まないわけだ」
「なるほど……あなたにしては物分りがいいですね」
「俺はその場の感情が口に出るタイプなんだ。こうして落ち着いて考えた言葉と、頭にきている時の言葉は別物になるんだよ」
「ふん、あなたらしい」

 小馬鹿にしたようにアレスは笑う。
 やはりダナンは自分より劣る。感情のコントロールもできない男だと、アレスは密かな優越感を憶えた。

「まっ、そういうことだ。で、勇者様はなんでここに? まさか勇者様もギデオンの居場所を知ったわけじゃないだろうな」
「…………」
「どうした?」

 アレスは言おうか言うまいか悩んでいる様子だった。

(これは、こいつがなにか失敗したのか? 自分の恥を伝えるのを嫌がっている様子だな)

 だからといって隠しても仕方がないだろうに、愚かなやつだと呆れながら、ダナンは聞き方を変えることにした。

「まぁとにかく早く手を打つことだ。ギデオン、ここではレッドという偽名を名乗っているようだが、このゾルタンではそれなりに名が知られている」
「ふん、このようなレベルの低い場所ならあいつでも英雄気取りでいられるわけですか」

 実際のところ、レッドが有名なのは、英雄リットと一緒に暮らしているからなのだが、そのことをダナンはいちいち訂正したりはしなかった。

「何にせよ、勇者様がレッドとギデオンが同一人物だと気がつく可能性は十分にあるだろ。このゾルタンに用があるのならさっさと済ませてしまうべきだ。俺の方が先にゾルタンに来ていた分、多少はこの地の事情も知っている、手助けもできるぞ」

 ダナン……の姿に化けているシサンダンは、そう提案する。
 彼の目的はウッドエルフ達が滅亡する前に封印した、『ある物』を発見し、持ち帰ることにある。
 こうして危険を犯してアレスに接触したのも、彼らの目的が何なのかを把握し、それが『ある物』に関係がないなら、手を貸してでもゾルタンから離れてもらうつもりだった。

 シサンダンが危惧しているのは2つ。
 1つは、悪魔の加護を勇者が戦力強化として利用する可能性。特に、デーモンの心臓が必要無いと人間が気がついた場合。だが、これは加護を否定するという性質上、聖方教会が反発するのは目に見えているし、それに弱められたとしても加護が残っている以上、古エルフの時代のようなことにはならないだろう。
 もう1つは、シサンダンが探している『ある物』を勇者が手に入れることだ。飛空艇を奪われたこととは比べ物にならない失態になるだろう。

 シサンダンは中堅の将軍ではあるが、敵地での潜伏や工作に特に優れていると評価されている。
 今回の重要な任務を任されたのもそのためだ。

「……そうか!」

 アレスはそんなシサンダンの考えなど気にする様子もなく、声を上げた。

「ルーティは、あのデーモンの話からギデオンとレッドが同一人物だと気がついたのです。それで飛空艇でここへ!」

(ふむ、こいつの予想が当たっているかはともかく、勇者は仲間を置いてゾルタンに来たのか。私の任務とは関係無さそうだな)

「ダナン! ギデオンの店はどこですか!?」
「そりゃ知っているが、どうするつもりだ?」
「ルーティは今はゾルタンではなく、離れた場所にある山にいるのです。今のうちにギデオンに会い、ルーティの前から消えてもらうよう命令します」
「命令?」
「あいつはもうパーティーを抜けたただの一般人です。私の命令に従うべきでしょう!?」
「はて、素直に従うとも思えんが」
「力づくでも従わせますよ! さあどこです、ヤツの店というのは!」

(勇者に置いて行かれたせいで、こいつはここまで焦燥しているのか。たしかロガーヴィアで聞いた話によれば、こいつはお家再興が目的だったな。勇者のパーティーを外れるわけにはいかんのだろう……何かに使えるかもしれんな)

 シサンダンは口元を歪めた。もしレッドがこの場にいれば、この表情を見ただけで、ダナンのするはずのない表情だと気がついていただろう。

「まぁ良いだろう。案内しよう」

 そしてアレスが普段通りであれば、ギデオンと親しいダナンが、今の話の流れで素直に店に案内するわけがないと気がついていただろう。しかし、

「く、くくっ、ギデオンめ、どこまでも私の邪魔をして……」

 アレスは痙攣したような笑みを浮かべ、握りしめた手には青白い血管が浮き出ていた。
 アレスの脳裏にはすでに自分の邪魔をするギデオンに対する憎悪しかなかった。
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