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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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閑話 なんでもない雨の日

今回はレッドとリットの閑話になります。

 ルーティがゾルタンに来る少し前。
 俺はカウンターで店番をしていた。
 外は雨が降っていた。ザーッという雨音を聞きながらカウンターで頬杖をついて、流れていく時間を感じる。
 穏やかな午後だ。少し肌寒くある。

「レッド」

 後ろから私を呼ぶ声がした、よく知っている声だ。
 振り返ると、もちろんそこにはリットがいた。
 両手には白い湯気を立てるコーヒーを手にしている。

「お客さんこないね」

 リットは俺の隣に座った。何も言わずコーヒーのコップを差し出す。

「ありがと」

 俺はお礼を言って受け取った。
 コーヒーは薄め。ミルク砂糖無し。
 リットの故郷であるロガーヴィア公国は、冬が厳しい。
 そのため温かい飲み物で暖を取ることが多く、大量に飲めるようにコーヒーや紅茶を薄めに作る習慣がある。
 俺がコップを口に近づけると、琥珀色の水面が揺れ、いい香りがした。

「今日は少し寒いね」

 リットが言った。
 ロガーヴィアほどではないにしろ、暑かったゾルタンの長い夏が終わり、一気に肌寒くなっていくのは、その温度差から余計に寒く感じるのかもしれない。
 俺はうなずくと、リットが淹れてくれたコーヒーを飲んだ。
 温かい。

「おかわりあるからね」
「ありがと、美味しいよ」

 カウンターに2人並んでコーヒーを飲む。
 雨の日は客も少ない。冷たい冬の雨ならなおさらだ。

「お客さんこないね」
「雨だからなー」

 売上自体はリットが来てから順調に伸びている。
 もともと楽しく暮らしていけるだけ稼げればいいと思っていたので、今の収入を維持できれば十分だ。

 雨音を聞きながら、2人でぼーっと午後の気だるい時間が流れていくのを感じるのは好きだ。
 なんというか、この空間に2人だけというのが、とても心地よい。
 なにより、リットも同じことを感じているのがなんとなく分かるのだ。それが嬉しい。

「ん」

 カウンターに置かれた俺の手にリットが指を絡めてきた。
 ぎゅっと握り返してやると、リットはにへら、と嬉しそうに笑い、顔を赤くして首に巻いたバンダナで口元と照れた表情を隠す。

「なんかさ」

 口元を隠したまま、リットが言った。俺の手は握られたままだ。

「今幸せだなって」
「俺もだよ」

 リットの顔が赤くなっているのは見間違いではないだろう。
 多分、俺の顔も赤くなっている。

「ロガーヴィアで初めてレッドに会った時、こうして一緒に暮らすようになるとは思わなかった」
「そりゃあな」
「あの頃は、充実してたと自分に言い聞かせてたけど、何かしっくりこないような、そんな気がいつもしてた」

 リットはお姫様であるにも関わらず、何度も城を抜け出し、両手に剣を持ち、ロガーヴィアでは有名な英雄冒険者となっていた。
 英雄リットという二つ名はその頃につけられたものだ。冒険者ギルドの書類に書かれていたのが、そのままゾルタンでも使われていた。

「私の加護はスピリットスカウト。精霊の声を聞き、その力で仲間や同胞を守るのが役割。お城の中で守られているのは嫌だった」
「ああ、知っているよ」

 俺は加護には詳しい自信がある。
 リットがロガーヴィアのお姫様であると聞いたときから、外で冒険者をやりはじめた原因が加護にあるのではないかと真っ先に推測していた。

 ぱっとリットは俺に飛びついた。
 俺は慌ててコップから手を離し、リットを受け止める。

「加護は今も私に大人しくするな、仲間を守るために戦えってささやくの」
「そうか」

 俺の胸に顔を埋めながら、リットは言葉を続けた。

「でもロガーヴィアであなたに会って、そして今日まで色んな話をして分かった……加護の言うとおりにしているだけじゃ、幸せじゃないって。あの頃私が、満足感を感じていなかったのは、そしてこのゾルタンでもう一度あなたに会うまで、加護の言うとおりにゾルタンで戦っていたのに心に何も得られていなかったのは、私が幸せじゃなかったからなんだって」

 リットの腕に力がこもる。
 耳まで赤くなっているのを隠すように、ぎゅっと自分の顔を俺の胸に押し当てる。

「レッド。私ね、この小さなお店を守るために頑張るって思うことにした。加護の衝動はそれで大分収まるから。それでも少しは心がうずいたりする。でも、これまでよりずっと満足感がある、満ち足りている。いくら加護の衝動に従っていたって、それは私とイコールじゃない。私が幸せだと思うものは加護とは関係なかったの」
「リット……」
「幸せなの! 今私とても幸せ! あなたとこうして言葉をかわしていることが、触れ合えていることが、同じ時間を過ごせていることが、夢みたいに幸せなの! 加護のうずきなんて関係ないくらい、毎日が幸せなの! ああもう、好き、大好き、レッドのことが好きで好きで、仕方がないくらい好きなの!」

 そこまで言うと、リットはぱっと顔を上げた。
 言いたい放題言ってすっきりした顔をしている。

「あーすっとした。なんというか、あなたと今日、こうして一緒にいたら幸福感が溢れそうで、どうにかなっちゃいそうだったの」
「なんだそりゃ」
「にひ、レッド顔赤くなってるよ」

 そりゃなるに決まっているだろう。
 まったく、少しは反撃せねばな。

「まてリット」

 俺はカウンターに置かれたコーヒーの方に向き直ろうとしたリットを呼び止めた。

「なに?」

 振り向いたリットの綺麗な青い瞳をまっすぐ見つめながら俺は答える。

「俺も今のリットの言葉で幸福感が溢れそうだから言うぞ。リット、大好きだ、愛してる、これからもずっと一緒に暮らそうな」
「……ふへ」

 俺の顔も照れてニヤけているだろうが、リットは口元を隠すことすら忘れて赤くなった。
 それから勢い良く俺に抱きつく。

「もう、レッドのせいでまた溢れそうになったんだけど。責任に取ってもうしばらくこうさせて」
「ああいいぞ、でもこうしていると俺の方が溢れそうになるな。また言っちゃうかも」
「そうしたらずっとこのままじゃない」
「だな」
「……それもいいかもね」

 雨の音はまだ続く。
 客はまだしばらくは来ないだろう。
本編ではルーティ編が一段落するまでレッドとリットがのんびりする話が書けないので、閑話で書いてしまいました。
次回は本編に戻ります!
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