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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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57話 うげうげさんは両腕を振り回す


 私はティセ・ガーランド。
 アサシンの加護を持つ勇者様の仲間だ。

 今は夜。
 私は倉庫に監禁している錬金術師コドウィンに食事を渡して戻ってきたところだ。
 本来であれば夜のうちにゾルタンを脱出する予定だったのだけど、勇者様の探していた兄がこの町で見つかり予定が変わった。

 勇者様の考えとしては、この町に滞在する方向でいきたいらしい。
 しかしコドウィンに薬を作らせることも必要だった。

(コドウィンはこの町では顔が知られすぎている……)

 錬金術師の工房を用意しつつ、ゾルタンにいる勇者様が通える距離であり、コドウィンが逃げ出すことが出来ないよう監視できなくてはならない。

(難しい)

 それが私の感想だ。
 これがもう少し人がいれば方法もいくつか思いつくが、ここには私と勇者様しかいない。
 ゾルタンは初めて訪れた土地であり、信用できる人もいない。暗殺者ギルドの支部すらない。
 強いて言えば、勇者様の兄であるギデオンさんは信用できそうな気がするけれど……。

「勇者様、やはり難しいです」
「そう」

 勇者様は静かに頷いた。

「薬の数が揃うまではどこか別の町に行ったほうがいいのでは? それからゾルタンに戻ってくるというのも」
「分かってる」
「ひっ!?」

 勇者様から感じた不機嫌さのオーラに思わず私はたじろいだ。
 椅子に座ってじっと考え込んでいるだけなのに、恐ろしい迫力だ。
 ギデオンさんに会ってから少し雰囲気が和らいだかと思ったが、そんなことはなかった。

「明日、調べてみたいところがある。それまで、1週間程度見つからなければいいから、隠れ家を見つけて欲しい」
「そ、それくらいならなんとかなると思いますが……調べてみたいところですか?」
「あの飛空艇を停めてある側の山に古代エルフの遺跡があるらしい。設備が生きていれば隠れ家として使えると思う」

 そんな情報をいつのまに。

「ウッドエルフもその山の近くで暮らしていたらしいから、役に立つ植物とかが群生しているとも聞いた」
「古代エルフの遺跡とウッドエルフの遺跡が同時に存在しているのですか」

 珍しい。古代エルフの遺跡とウッドエルフが暮らしていた地域が一致するというのは初めて聞いた。

 とはいえ、今の我々が知らないだけかもしれない。
 というのもウッドエルフは自然は循環するものという思想をもっていたらしい。

 ウッドエルフは建造物は自然と一体であり、ウッドエルフがいなくなったあとは木々の成長と共にウッドエルフの遺跡は跡形もなく消えてしまったと、歴史について教えてくれた暗殺者ギルドの教官は言っていた。
 他の古代エルフの遺跡の上にあったウッドエルフの遺跡が、ただ姿を消しただけ、それに我々が気がつけない……そういうことなのかもしれない。

「古代エルフの遺跡が生きていれば、たしかに隠れ家としては使えそうですね……でも、なぜ」

 なぜ、そこまでしてこのゾルタンにいなければならないのだろうか。
 だが勇者様の真剣な表情を見たら、次の言葉を告げることはできなかった。
 怖い……。

 ぽんぽんと私の肩をとても小さな足が叩いた。
 うげうげさんが首を傾げている。

 どうしたんだろう? うげうげさんが何かを言っている。
 深く考えるな? いや難しく考えるな、かな? それにちゃんと見ろ?

 うげうげさんにしては珍しく饒舌に私とコミュニケーションを取ろうとしてくれていた。
 いまも2本の前足をちょこちょことと動かしながら、私に意思を伝えようとしている。

「どうしたの?」

 私は少し不安になった。
 うげうげさんは、何かを伝えようとしてくれているのにそれが私にはよく分からない。

 なんとか理解しようと、私からも質問を返すのだが、うげうげさんは同じようなイメージを繰り返している。
 どういうことなんだ? こんなことは久しぶりだ。

 ……だから私の注意はうげうげさんにあって、勇者様になかった。

「ティセ」
「え?」

 気がつくと、私の目の前に勇者様がいた。
 しかし、勇者様の視線は、驚き、硬直している私に向けられてはいなかった。
 視線の先にあるのは私の肩。
 きょとんと首を傾げたうげうげさんだ。

 勇者様は私の肩に向けて手を伸ばす。

 思考が止まった。恐怖と混乱が背中を貫いた。
 何か私は勇者様を怒らせるようなことをしてしまったのかもしれない。

 だけど!

 気がつくと、私は後方に飛び退き、剣を抜いて構えていた。
 ガチガチと私の歯が音を立てる。
 絶対に勝てない相手に剣を抜いてしまったという恐怖で、頭の中がチリチリと焼けるように熱い。

 勇者様は、手を伸ばした姿勢で無表情のまま、動きを止めていた。
 私のことをじっとまっすぐ見つめている。
 それは短い間だったと思うけれど……私にはとても長い時間に感じられた。

「……違う」

 私を見つめたまま勇者様が言った。

「私はその子があなたのペットだと知っていた。気付かず叩こうとしたわけじゃない」

 何を言っているのだろう?
 私は荒く息を吐き出しながら、話を聞いている。だが内容が理解できない。

「ティセの側でよく手足を動かしているのを見ていた。ティセが捕まえた虫を与えているところも見た……」

 勇者様はそのようなことをずっと喋っていた。
 私は剣を構えたまま、カタカタと震えている。

 ぴょんと小さな影が跳んだ。

「うげうげさん!?」

 うげうげさんは、床に飛び降りると、両腕をあげ、小さな体を精一杯を大きくしながら私の前に立ちはだかった。

「な、なにを……え? “ちゃんと見て”?」

 見てって一体……。
 うげうげさんは必死に小さな身体を動かし、“ちゃんと見て”と繰り返している。

 そして私は……ようやく“ちゃんと見た“。

「違うの、決して私はそんなつもりじゃなかった」

 目の前にいるのは誰だ?
 勇者様だ。人類最強の加護を持ち、世界を救う運命を背負い、正しいことのために生き、そして仲間の誰もが恐れる人。
 だが、私が見ているのは……仲の良い友達を怒らせてしまって、でもなんで怒っているのか分からなくて、途方に暮れている少女だった。

 ズレている。
 私が恐怖で剣を抜いて、戦う姿勢すら見せているのに、勇者様にとってはよく分からないけど何か怒らせてしまった程度のことなのだ。
 勇者様はあまりに強すぎて、私達とは遠くなりすぎて……普通の人の殺意や敵意がどの程度のものなのか共感できなくなってしまっているのだ。
 それは幼い子供が本気で怒っているのに、大人たちはそれを見て微笑ましいと笑っているのに似ているのかもしれない。

 このズレが、勇者様をずっと1人にしてきたのだと、私はようやく、勇者様を”ちゃんと見て”理解することができた。

 そうだ、私は過去の記憶もちゃんと見ることができた。

 飛空艇で相談をしているとき、勇者様が私を見ながら時折表情を変えていたのは、うげうげさんを見て私が笑うように、勇者様もうげうげさんを見て笑っていたのだ。
 あの夜、何かを探していたのは、自分もうげうげさんのような小さなペットを探していたのだ。ただそれだけのことだった。

 やがて、勇者様は何を言って良いのかわからなくなったようで……

「ごめん、なんで怒らせたのか分からない。だけど許して欲しい……ごめんなさい」

 ただ謝っていた。

 カランと音を立てて、私は剣を落としてしまった。
 こんなことになぜ気が付かなかったと自問自答する。
 そして自責の念にもかられる。
 私がしゃがむと、うげうげさんは私の手の甲に跳び乗った。

(あやまろう?)

 うげうげさんが私にそう伝える。
 うん、そうだ。

 私は勇者様……ルーティさんへと歩きだす。
 ルーティさんはびくりと……ほんの少しだけ肩を震わせた。

 私は言葉を告げるため、息を吸った。

「私の方こそ、すみませんでした。勘違いしていたのは私です。本当にごめんなさい」
「そう……怒ってはいない?」
「はい何も怒ってなんていません。ルーティさんは怒ってないですか?」

 ルーティさんと呼ばれたことに少し驚いたようだったが、口元がわずかに緩んだような気がした。きっと嫌ではなかったのだと信じたい。

「怒ってない」
「良かった。でも、その……ペットに触る時は、触ると一言声かけてほしいです」
「分かった」

 私はうげうげさんが乗った手の甲をルーティさんに差し出す。
 ルーティさんも左手を近づけた。

 ぴょん。

 うげうげさんは軽々と私の手からルーティさんの手に飛び移る。
 そして右腕をあげてルーティさんに挨拶した。

「……名前」
「うげうげさんです」
「うげうげ?」
「うげうげさん、までが名前です」

 ルーティさんはきょとんとして、それからうげうげさんを見つめた。

「うげうげさん、私はルーティ。よろしくね」

 ルーティさんは目を細めて優しい微笑みを浮かべていた。


 私はティセ・ガーランド。
 アサシンの加護を持つ、今は勇者ルーティさんの友達だ。
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