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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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53話 レッドとリットは平和な1日を過ごす

 朝。
 冬になるとベッドから出るのがつらくなる。
 だがそれでも時間は待ってはくれないので、俺は気合を入れると毛布を跳ね除け立ち上がる。

「おはよう」

 珍しくリットが先に起きていた。
 寒空の中、庭の薬草の世話をしていたらしい。

 指が白くなっていたので、俺はその手を俺の手で包んだ。
 すっかり冷たくなっている。

「あったかい」

 リットは俺の隣に座ると笑みを浮かべた。

☆☆

 リットは良く働いてくれる。
 調合スキルこそ持たないが、魅力カリスマのスキルで他人から好印象をもたれやすく、精霊魔法で庭の薬草の成長を促進したり害虫を追い払ったりと大活躍だ。
 お姫様として礼儀作法の訓練を受けていたこともあり、また城を抜け出して町で色々な人たちと交流していたこともある。リットは客に合わせて最適な接客態度を取ることができた。
 薬についての知識も一流の冒険者であるリットにとっては、並の薬屋よりもよく知っているほどだ。薬の利用者として、あまり知られていない副作用や各種耐性スキルを持つ加護持ちが服用するとどうなるかなど説明もできる。
 英雄リットの経験からくるアドバイスということで、それを信用して北区で暮らす冒険者達も、わざわざうちの店で薬を買いに来るようになった程だ。

 “期待のルーキー”アルに剣を教えたというのも、リットの評判をますます高めている。
 アルが冒険者ギルドに登録にいった際、一人になったところを、ビッグホークの依頼を良く受けていた柄の悪い先輩冒険者が絡んだようだが、小さい体を活かして狭い路地へと誘い込み、刃のない練習用のショーテル一本で叩きのめしたそうだ。

 『ウェポンマスター』と『闘士』という加護の格に差があったとはいえ、加護レベルの高い相手を倒したことで、アルの将来性に期待がかかる一方、そのアルに剣を教えた英雄リットは、やはりすごいという噂になっているらしい。

 他に客のいない時間を見計らって、薬を買うついでに、アドバイスを求める冒険者や衛兵も多いようだ。
 話を聞いただけでできるアドバイスなどたかが知れていると思いきや、これも評判がいい。

 もともと、暮らしていけるくらいの収入があればいいと思っていたから、そこまでガツガツと稼ぐつもりはないのだが、やはり売上が伸びるというのは嬉しい。

 リットが持ってきた絵画も評判がいいようだ。
 中央区の貴族から、結構な値段で売ってくれと話が来たこともあった。もちろん断ったが。
 そこから評判になったのか、中央区の住人っぽい、服を何枚も重ね着した客が、薬を買っていくこともある。

 麻酔の新薬も評判が上がっているようだ。
 “悪魔の加護”の悪評で、麻酔薬の依存性に対する意識が高まっているようで、それが俺の薬の追い風になっている。
 昨日、用意していた在庫がすべて売り切ったとの報告をリットから受け、あたらしく薬を調合する予定だ。

 売上は店を開いた頃の5倍くらいまで上がっているだろう。
 昨日、山で集めた薬草もわりとすぐになくなってしまうかもしれない。
 どこか農家と契約して、薬草庭園を作るという提案を昨日リットから受けた。

 薬草を栽培するのは結構知識がいるのだが、もともと山に自生している草だけあって手入れが簡単で、慣れさえすれば簡単に育てることができる。
 ただ、単位面積当たりの収穫量で野菜にはどうしても劣るため、ある程度買い取り料に色をつけなくてはいけないかもしれないと、リットは言っていた。

「それでも冒険者ギルドから買うよりは安いか」

 俺が冒険者ギルドに薬草を持っていかなくなってから、薬草の量が不足しているようだ。
 そのため、薬草の値段が上がっている。
 もっとも、冒険者がギルドに買い取ってもらうときの値段はそのままらしいが。

 そこら辺をもっと器用にやれば、より多くの利益が得られると思うのだけど、ゾルタンの冒険者ギルドはあまりそういう商売センスがないらしい。

「いらっしゃいませ」

 店頭からリットの声がした。
 俺は小さく微笑むと、店頭のことはリットに任せ、目の前の調合作業に集中することにした。

☆☆

 今日の昼食は、ピザだ。
 リットが店番をしてくれるから、少し早めに料理に取り掛かる。
 朝のうちに準備していた生地を平らにし、トマトソースをしっかりと塗る。

「シーフード系ピザを試してみたかったんだ」

 ゾルタンは河口付近に位置し、海産物の流通も盛んだ。
 まずチーズを敷き、その上に殻を取ったあさり、ソーセージ、輪切りにしたトマトを配置する。
 そしてその上からまたチーズをかける。

 オーブンでピザを焼いている間に、農家から貰ったジャガイモを擦り、とろみのあるポテトスープにする。ベースとなるブイヨンスープはひき肉と野菜を使って定期的に作っているものだ。
 残っているソーセージに塩で味付けし、フライパンで焼く。こんがりと焼けたソーセージは、熱で肉がまるまると膨張した。味見に一つ噛み切ると、パキりと小気味良い音がした。

 最後にトマトとレタスでサラダを作る。
 カットするだけなのでこれは簡単。

 オーブンを開け、中のピザを取り出すと、しっかり溶け、きつね色になったチーズとあさりの香りが台所に広がった。
 焼けたピザに、刻んだパセリを少し降り、トウガラシベースの調味料を小皿に添える。

 料理が出来上がったタイミングでリットがやってきた。

「美味しそう! じゃあ居間に持ってくね」
「ああ頼むよ」

 リットは手際よく料理の皿を並べていく。
 もはや慣れたものだ。

「「いただきます」」

 8等分にカットされたピザの一つをリットは手に取り、パクリと食べた。
 頬を押さえながら美味しそうに笑うリットを見て、俺は今日も小さくガッツポーズを取るのであった。

☆☆

「そういえば」

 食後、2人でハーブティーを飲んでいた時、リットが言った。

「今朝、脱獄があったんだって」
「脱獄?」
「うん、店に薬を買いに来た衛兵の人が話してたよ」
「ふーん、珍しいな。もう捕まったのか?」
「それが結構大事で、何か音の小さい特殊な爆薬みたいなので監獄の壁を破壊したんだって」
「なに?」

 そりゃ大事だ。

「ふーむ、ビッグホーク関係か? 盗賊ギルドも厄介払いができて喜んでいるのかと思ったら、意外にビッグホーク派閥は大きかったのか。ビッグホークはいなくなったが、後を継ぐものは健在か。大脱走となるとしばらくは町の治安が悪くなりそうだな」
「それが、そうならなかったみたいなの」
「どういうことだ?」
「爆破したのは監獄の内壁で、朝食の時間を見計らって破壊したみたい。それでかなりの囚人が逃げようとしたみたいなんだけど、外壁はそのままで、結局囚人は誰も逃げられなかったって」
「そりゃ不思議な話だな」
「外壁をよじ登ろうとする囚人や、看守を人質に取った囚人とか色々いたみたいだけど、結局鎮圧されたんだって。だから脱走者は1人だけ」

 なるほど、陽動か。
 最初からその1人を脱獄させることが目的だったんだろうな。

「しかし分からないな、そこまでする意味のあるやつが監獄にいたっけな?」
「脱獄したのは病院棟でレッドに斬られた傷の療養をしていたヤツよ。ほら、アルをさらった錬金術師」
「あーあいつか……」

 粘着爆弾を武器にしている小男。
 見かけによらず高レベルの錬金術師で、間接的にだが生贄爆弾を使ってリットを追い詰めたこともあった相手だ。
 野放しとなると危険かもしれない。
 まぁ怪我をしてから随分と時間が経ってしまっているので、キュアでは表面の傷を塞ぐしかできない。しばらくはあまり動けないとは思う。

「早く捕まるといいな」
「そうねぇ」

 俺達はそう言い合うと、休憩を終えリットは店頭に、俺は作業部屋へと移動しようと立ち上がる。
 同じ建物の中、ほんの数メートルの距離だと言うのに、別れを惜しんだリットは俺に抱きつき、頬に軽いキスをした。
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