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50話 川流れの追い剥ぎ騎士


 俺が歩いていると、なにやらうめき声が聞こえてきた、

 不審に思って声の方へと行ってみる。


「うぅ……寒い」


 そこには巨漢の男が焚き火にあたりながら震えていた。

 身につけているものはパンツだけで、近くの木に、服らしきものが干されていた。


「溺れかけて、川の中で鎧脱いじゃったし、フルプレート高かったのになぁ」


 男はそんなことを呟きながら涙目で枝を折って焚き火に投げ入れていた。


 よし見なかったことにしよう。

 俺は回れ右すると、その場を立ち去ろうとするが……


「待たれよ! そこの人待たれよ!」


 げ、気づかれた。

 男はドタドタとこちらに近寄ってくる。

 面倒事の気配に逃げ出したくなるが、さすがにまだ何も言われていないのに逃げるのは良くないか。


「あー、何か用か?」


 俺は言外に、正直迷惑なんですけどオーラを含めつつ、愛想笑いを浮かべて答えた。


「うむ、それがしは竜騎士ドレイクライダーオットー。栄光のファフニール騎士団の切り込み隊長」

「ドレイクライダーぁ?」


 『竜騎士ドレイクライダー』とは、騎兵系上位の加護で、名前の通りドレイクと絆を結び、ドレイクに騎乗しての戦いを得意とする加護だ。

 似たような加護で、もっと一般的な『飛竜騎士ワイバーンライダー』と比較すると、同じワイバーンに乗る場合でさえ、基本的には『竜騎士』の方が強い。

 理由は色々あるが、一番の部分は『竜騎士』は“人竜一体”のスキルにより、自分の持っているスキルと同じものを騎乗しているドレイクに与えることができることだろう。

 もちろんドレイクには自分の加護もあるため、二種の加護から与えられる力は、加護レベルが同格の敵を圧倒する。


 だが、『竜騎士』が“強い”加護かというと、そうとも限らない。

 竜騎士には唯一にして致命的な欠点があるのだ。

 それは、竜騎士は生涯に1頭のドレイクとしか絆を結べないこと。

 強力なスキルの数々も、その1頭のドレイクを失えば、二度と機能しないものとなる。そうなれば、加護のもたらす残されたスキルは、下級の加護であるただの『騎兵』のものとなり、ドレイク関係にスキルを割り振った分、同格の騎兵にすら劣るようになる。


 なので……。


「……そうしてそれがしは、醜怪なる巨人グレンデルと相打ちになる形で相棒を失ったのだ」


 と、昔は強かった系の武勇伝によく使われる。

 竜騎士のスキルが無くても、相棒を失ったから使えなくなったと言い張れるからだ。


「あー、なに? ファフニール騎士団?」


 鍛冶屋のモグリムもそんな名前のドレイクがいたとか言ってたな。

 俺は聞いたこと無いんだが流行っているのか?


「そうファフニール騎士団! 辺境ゾルタンで暮らす者には馴染みが薄いかも知れんが、誉れのバハムート騎士団、冷酷なるティアマット騎士団につぐ、第三の騎士団として王都では知らぬ者のいない栄光のファフニール騎士団! それがしはそこで竜騎士として活躍していたのだ」

「知らないなぁ」

「ゾルタンのような田舎に住んでいては、中央の常識に疎くなるのも仕方がない。恥じることはないぞ」


 ぽんぽんと肩を叩かれ慰められた。

 俺はジト目でオットーと名乗るこの男を見る。

 一応、俺、そのバハムート騎士団の副団長やってたんだけどね。


「で、その騎士様が何の用で? 俺、急いでるんだけど」

「そうだ! お前に頼みがあってな」

「頼み?」

「それがしは、ヒルジャイアント・ダンダクを討伐し、やつの城を手に入れ領地持ちの貴族になるためにこのゾルタンにやってきたのだ」


 それは聞いたことがある。

 3年前にあらわれた5体の丘巨人ヒルジャイアントがゾルタン北西に位置する領主の城を襲撃し乗っ取ったと。

 ゾルタンも一度討伐隊を送ったのだが敗走し、その領地の持ち主である貴族がすでに巨人らに殺されてしまっていたのもあって、以来放置されている。

 城持ちになることを夢見る無謀な冒険者が挑み、二度と戻らないことが時折あるくらいで、特に問題も起きていない状況だ。


「ふーん、そうか。頑張れよ、じゃ」

「待て待て待て、話を最後まで聞け」


 立ち去ろうとした俺を慌ててオットーは呼び止めた。


「それで俺は巨人と戦える武芸者を見つけるため、橋を通る人々に戦いを挑み試していたのだ」

「あ、お前あの迷惑な騎士か」

「そうしたら、今日、ついに私と互角の強さを持つ女戦士と出会うことができた。これは運命、それがしはあの女戦士を見つけ、共に邪悪なヒルジャイアントを倒し、城を手に入れる!」


 オットーはそこまで言うとちょっと恥ずかしそうに照れだした。


「そしてその女戦士にプロポーズして一緒にお城で暮らすんだ」

「あ、そう、頑張れよ」

「待て待て待て、もうちょっとだから、次で本題だから」


 立ち去ろうとした俺を、また慌ててオットーが呼び止める。

 いい加減にして欲しい。


「で一体俺に何をしてほしいんだよ」

「いや、大したことではないのだが」


 なにやらモジモジしだした。

 2メートルを超える巨漢にそんな仕草をされても、気持ち悪いだけだ。


「それがし、川に投げ込まれた時に武器も鎧も荷物も有り金もすべて流されてしまって……お金を貸してほしいのだ。城手に入れたら返すから」

「やだ」


 もちろん即答だ。


「それがしが頭を下げてもか?」

「うん」

「ならば仕方がない! 力づくでも有り金を置いていって貰おう!」


 そう言ってオットーが両手を広げて襲い掛かってきた。パンツ一枚の姿で。


「痛い目にあいたくなければ素直にぶへらぁあああああ!?」


 気がついたら俺は渾身の右ストレートをオットーの顔面に叩き込んでいた。

 はっ、いけない、つい反射的に殴ってしまった。目立たないよう喧嘩は買わないようにしているんだが、正直なんか本能的にイラッとしたし。


 オットーは後ろに吹き飛び、大きな水しぶきを立て、再び川へ落ちてしまった。

 オットーの身体はプカーっと水に浮かぶと、そのまま下流へと流れていった。

 あいつ追い剥ぎだしまぁいいか、先を急ごう。

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[一言]こんな馬鹿と一緒にされたら河童が可哀想だ。
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