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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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51話 おでんとカラシとちくわ


 ゾルタンの秋は短い。
 以前より薬草を取りに来る頻度が落ちているとはいえ、山で秋を感じる暇もなく、葉は落ち、どこか寂しさを感じる冬の山へと姿を変えていた。

「雪が積もることはないとはいえ、冬だと採れる薬草の数も限られてしまうな」

 冬は冬で、コロリ風邪の治療薬となるポリプ茸や、傷口から感染する汚穢熱に効く雪蔓ゆきつる、あとは灰色ヒトデ草もまだまだ採れる。
 だが止血薬や消毒薬に使われるヒヨス草や解毒剤の材料であるコクの葉など、需要が高い薬の原料が採れなくなるのは痛い。
 まだギリギリ採れる今のうちに、できるかぎりこの2つの薬草を回収しなくてはならないだろう。

「温室作って、ある程度は冬でも確保できるようにしておきたいな」

 帰ったらゴンズに相談しよう。
 とりあえず今は薬草採取に集中だ。
 キマイラ達も見ているくらいなら手伝ってくれればいいのに。

 遠く離れて俺の様子を伺っていたキマイラにちらりと視線を向けると、キマイラは慌てて逃げていった。

☆☆

 私はティセ。昔は暗殺者だったが、今は頭を抱えて悩むただの人。
 原因はもちろん勇者様だ。

「私はただの旅人、怪しいものじゃない」

 勇者様はそうゾルタンの門番に説明している。
 それは悪くない、悪くないのだけど。

 勇者様は500キロくらいありそうなグレータージャイアントフロッグを担いでいた。

 なんで?
 私が門番に嘘の事情を説明しつつ賄賂を渡したりしていた時間は10分ちょいのはずだ。
 どう考えても15分は経っていない。
 話はこちらでつけたのだから、勇者様はただ大人しく待ってくれさえすれば良かっただけなのに。

「あ、あの、ルールさん」

 このルールというのは、街での勇者様の偽名だ。
 ちなみに私は、ティファ。
 行方不明の父親を探しているという設定だ。
 勇者様の探している錬金術師がどんな男かはよく知らないが、人探ししているという設定なら家族ということにしておけばいいだろう。情報が似ていただけで人違いだったということにすれば、後腐れもない。

 それはともかく、今は目の前の状況だ。

「その背中のカエルはどうしたんですか?」
「すぐ近くの土の中で冬眠していたので、春になったら危ないだろうと思って退治したの」
「う、うーん、まぁ分かりました。でもなんで背負っているんですか?」
「?」
「いや、そこで首を傾げないでください」
「町の近くで動物や魔獣系のモンスターを倒したら、町の買い取り屋まで運ぶものよ」

 いやまぁそうなんだけど!

 私の肩を門番が叩いた。
 ギギギと音がなりそうなほどぎこちなく私が振り返ると、そこには驚き目を輝かせる門番がいた。

「あんたの連れ、すげえな。肉屋と台車呼んできてやるからちょっと待ってな」

 勇者様は周りからの賞賛と好奇の目など気にならない様子で、超然としている。
 とりあえず、

「ルールさん、門番が肉屋と台車を持ってきてくれるそうなので、カエルは下ろしていいですよ」
「そう」

 ドンと音を立ててカエルが地面に降ろされる。
 ああ、きっとこれで、私達のことは街中の噂になるだろう。
 隠密行動もあったもんじゃない……。

☆☆

 この時期になると、山の夜は寒い。
 俺は、寝袋にくるまりながらぶるっと震えた。

 焚き火がパキパキと音を立てて燃えている。
 俺は温めたお湯を入れた湯たんぽを抱きかかえる。

「寒いなぁ」

 山は世界の果ての壁が近いため、大山脈から吹き下ろす風は、よく冷えている。
 風の強い日は、亜熱帯のゾルタン地方とは思えないほど冷え、山から風で運ばれてきた雪が降るほどだ。
 あくまで風で運ばれてくるだけなのに積もりことはないが、寒いもんは寒い。

「ベッドが恋しい」

 以前はそこまで家を恋しがることはなかったはずだ。
 ここに山小屋を立てる計画だって考えていた。
 山で2~3泊すれば薬草採取の効率もあがると。

 だけど今は無い。
 できるかぎり家には帰りたい。

「なるほど、これが帰る場所ができるってことなのか」

 リットの待つあの家を思い浮かべて、俺は眠りについた。

☆☆

 翌日も山で薬草を集め、暗くなってから山を降りた。
 誰も見ていないうちに、全速力でゾルタンに帰ろう。

 夜道を俺は全力で疾走してゾルタンに戻る。

「おーい」

 俺が叫ぶと門を閉じようとした門番が振り返った。

「なんだレッドじゃねえか、薬草採取の帰りか?」
「そうだ、入れてくれよ」
「面倒くせい、そこの塀乗り越えろよ」
「嫌だよ、俺が面倒くさい」

 軽口を叩きながらも、門番は門を閉じるのを少し待ってくれた。
 ゾルタンの城壁は高さ2メートルしか無い石垣だ。
 乗り越えようと思えば簡単に乗り越えられる。
 門限に遅れた冒険者なんかは、こっそり塀を登って帰ってくるのだが、知らないふりをするのが暗黙の了解だ。
 他の都市なら大問題だろうが、ゾルタンでは笑って済まされている。

「危ない危ない」
「レッド、お前本当、ギリギリに来るのが得意だよな」
「俺は真面目だからな」
「真面目なら余裕持って帰ってこいよ! ところで俺ももうあがるんだが、このあと一杯どうだ?」
「あー、悪い。俺は家に帰るよ」
「かー、つれないね、俺より嫁さん取るってか」

「当たり前だろ」
「真顔で言うなよ……わかった、せめて本当に1杯だけどうだ」
「あー、まぁずっと飲んでなかったしな、分かった屋台でコップ1杯だけな」

 まぁ友達付き合いも大切だ。
 遅くなるつもりはないけど。

 俺達は城門から港区と下町の境にいつもいる「おでん」の屋台に入った。

「らっしゃい」

 そこにいたのはむさい親父……ではなく、銀色ブロンドを束ねたポニーテールに、すらりとしたスタイルのハイエルフだ。
 親父さんもいい年で、そろそろ店を畳もうかとこぼした所、このオパララが、「この店が潰れるなんて嫌だ、それなら私が後を継ぐ!」 と言い出したのだ。
 いかつい顔をして美人にめっぽう弱い親父さんは、30秒くらい断ったがオパララの熱意に負け、それから2人で屋台を引くようになり、今ではオパララが1人で立っていることも多くなった。

 ハイエルフという種族は、現在アヴァロン大陸で唯一、人間以外の種族でありながら正式な王冠を戴いてキラミン王国という国を持っている。
 サー・ビアードマウンテンに住むドワーフは、伯爵位の領主が収める自治領に過ぎない。
 国のトップという意味の王でなく、正しい意味での王国を名乗れているのは、アヴァロン大陸に人間とハイエルフしかいない。

 そのため、ハイエルフ、高貴なエルフと自称しているのだ。
 人間は特に疑問を抱かずハイエルフと呼んでいる。
 しかし人間との混血とはいえ、かつてアヴァロン大陸の正統な覇者であったウッドエルフの末裔であるハーフエルフや、文明を失ってはいるが古代エルフの直系とされるワイルドエルフからは、アーヴァンエルフ(都市エルフ)と呼ばれている。
 ウッドエルフの時代には、その髪の色からグレイエルフと呼ばれていたらしい。

 なお俺は普通にハイエルフと呼んでいる。
 俺は人間だし、アーヴァンエルフって言うと大抵機嫌悪くなるし。
 基本的にハイエルフは表裏が無い。いつも本音で会話してくる。
 機嫌が悪くなると容赦なく自分は今の言葉で傷ついたと主張してくるので、ある意味では付き合いにくく、ある意味では付き合いやすい。

 もちろん個人差はある。
 表裏のあるハイエルフだっていくらでもいるだろう。
 彼女たちは、建前を使えないのではなく好んで使わないだけなのだ、使おうと思えば人間以上に狡猾に使える。
 キラミンの王族は信用できないと、騎士団の団長がよくこぼしていた。

「大根と牛すじ、たまご、はんぺん。あとビールを」

 門番は四角い鍋の中に浮かぶ具を指差しながら注文する。

「じゃあ俺は大根とウィンナー、あーちくわも。それとビールをコップで」
「あいよ!」

 鈴のなるようなハイエルフの声で、威勢よくオパララは応えた。
 慣れた手つきで具を木の器に入れていく。

「そういえば……」

 俺に器を手渡すときに、地面に置かれた俺の薬草袋を見て思い出したようにオパララがたずねた。

「レッド、カラシはもう売ってないのかい?」

 屋台を開く前まではレッドさんだったのに、呼び方まで親父さんの真似をするとは全くハイエルフは凝り性だ。

「あー、以前と違ってあんまり山にいかなくなったからな。香辛料は自分の分くらいしか集めていないんだ」
「残念だ。町での仕入れは安定しなくてね」

 カラシは1キロで5ペリルくらいが交易所の相場だ。
 交易所から市場を経由するとさらに高くなる。
 おでんに合うが、もちろん有料サービス。
 なので俺も門番も我慢している。

 だが、そこに1人の少女があらわれた。

「らっしゃい」
「大根、牛すじ、玉子、ちくわ4つ、それにカラシ」
「あいよ!」

 器を受け取ると、少女は小皿に乗ったカラシを惜しみなく投入した。
 あの食べ方は、カラシが薄くなったら追加でカラシを頼む王様おでんの流儀だ!
 すごい!

 ちくわ4つというのもすごい。
 それだけちくわが好きなのだろう。

 にしても初めて見る顔だ。
 背は小さいが、身体は良く鍛えられている。
 服は旅で擦り切れているが、質は良いものだ。
 腰にショートソードが1本。服の中、脇のあたりに投げナイフが3本。
 ショートソードは強化の魔法と他に何か特別な効果。そして、それらを隠す隠匿の魔法。
 服の裏地にミスリル銀のチェインシャツを縫い込んでいるな。

 装備は実用性重視。それに目立たないようにわざと通常品のように見せかけている。
 この子は凄腕だ。ならば旅慣れている冒険者……にしては気配が薄い。
 気配を気取られないようにしなくてはいけない仕事だろう。
 盗賊、スパイ……それか暗殺者あたりか。

 その時、少女がくるりと俺の方に顔を向けた。

「何か?」
「ああ、悪い。初めて見る顔だから気になってね。それにカラシを頼めるほど余裕があるようだし」
「カラシはおでんに必須です」
「俺もそう言えるくらい稼ぎたいもんだ」

 俺は横目でちらりと見ただけだったのだが、この子は俺が注意を向けたことに気がついたのか。
 こりゃかなり強いな。
 一体何者だ?
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