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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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4話 山と炎


 今回は山に長居する気はない。
 俺は水袋に水だけ詰め、銅の剣を腰に差し、町の外へ出る。
 郊外へ走り、それからあたりを見渡す。

「さて、誰も見ていないな」

 最後に本気で走ったのはいつだろうか。

「快速マスタリー:雷光の如き脚、持久力マスタリー:疲労完全耐性」

 コモンスキルでもスキルレベルを11まで上げると貰えるマスタリー能力はそれなりに強い。コモンスキルをそこまで鍛える人は珍しいため知られてはいないが。
 雷光の如き脚は、移動速度が10倍になり、疾走中、相手は俺の姿がぼんやりとした影にしか見えなくなる。
 疲労完全耐性は、疲労することがなくなる。徹夜しようがどんな重労働に従事しようが、そして一日中全力疾走しようがだ。疲労以外の影響は受けるので、何日も寝ないで済むというわけではなく睡眠自体は必要なのだが、有用なのは間違いない。

 力を込めて一歩を踏み出す。続けて一歩、また一歩。
 身体はどんどん加速し、景色は緑の線となって置いて行かれた。
 最高速度に達したあとは、1キロメートルを15秒で駆け抜ける。時速に換算すればおよそ240km/h。魔法の援護があればもっと速く走れるが、自力ではこれが限界だ。
 この速度は100歳を超えるアダルトドラゴンの飛翔速度に匹敵する。

 俺は夕日の最後の光が夜に飲まれていく中、山へ向かって走り続けた。

☆☆

 山へ到着するのにかかった時間は約30分。
 ボロくても道のある街道でなら全力疾走もできるが、木々の生い茂る山の中ではそうはいかない。
 ここからは通常の速度で進まなくては。

 地図を取り出し、ルートを考える。
 余計な時間は使いたくないが、アルベール達が通る可能性のあるルートは避けたい。
 となるとこの木々の生い茂るルートがいいか。山の中でも太陽の当たる面であり、強い日差しを好まないアウルベアの性質上、このルートは特別な理由でもない限り避けるはず。
 つまりは必然的にアルベール達もこのルートは後回しにする。

「よし」

 ルートを決めたらあとは進むだけだ。

☆☆

 その臭いに気がついたとき、俺は久しぶりに焦りを感じ、奥歯を噛み締めながら走り出した。

「畜生!」

 ブラッドニードルの群生地は炎に包まれていた。
 スキルで強化された聴覚には、遠くで戦うアルベールのパーティの怒声が聞こえる。

「あいつら火魔法を使いやがったな!」

 アウルベアと戦うときに、アルベール達は炎の魔法を使ったのだ。
 炎の魔法は威力が高く、たしかにアウルベアのような打たれ強い大型魔獣と戦うときは定石だろう。
 だがブラッドニードルが寄生する、この針葉樹の木々は薪にも適した木々だ。燃えやすい。
 さらに風の強い春のこの時期は、山の中で火の魔法を使うことは危険なのだ。

 もし、ここにいるのが俺でなければ、ルーティでもアレスでも、あのパーティーの誰かなら、固有スキルなり魔法なりで、この火を消し止め、火災を未然に防ぐ事ができただろう。
 だが俺には何もできない。延焼してしまった火を消す方法を、俺は何一つ持たない。

「くそっ! くそぉぉぉ!!」

 この場で俺にできることは、ブラッドニードルを1つでも多く採取することしかなかった。
 ゴブリン熱の時期は終わるが、これから白眼病や赤舌病といった致命的な病気や、震え熱病のような空気感染する病気の時期になる。夏のゾルタンにブラッドニードルは欠かせない薬草だ。
 それが燃えていく。
 需要に対して、ブラッドニードルが群生できる場所は少ない。この山ではこのエリアだけだ。

 俺は炎と煙の中を走り、ブラッドニードルを採取していく。
 煙が喉を焼き、熱が肺を焦がす。
 疲労耐性も煙には効果がなく酸欠と火傷が俺の身体をさいなんだ。
 だがまだ動ける。俺の加護はレベルだけは高いんだ。
 固有スキルはなくとも、打たれ強さだけはレベル相応なものがある。だから耐えられる。

 それでも、限界はある。
 周囲は炎に包まれ、呼吸すらままならなくなり窒息を始める。
 酸欠で頭が重くなり、五感が鈍くなる。

 がさりと音がした。
 目の前に傷だらけのアウルベアが立っている。
 アルベールのやつ、取り逃がしたのか。

 手負いで狂乱したアウルベアは、闘争本能のまま両手の爪を振り上げた。
 俺は銅の剣の柄に手をかける。
 熱せられた柄が、じゅうと音を立てて俺の手のひらを焼いた。

 アウルベアが咆哮をあげた。
 両腕が俺を引き裂こうと振り下ろされる。
 俺は銅の剣を引き抜きながらアウルベアの横腹から肩口へと斬り上げた。

☆☆

「アルベールさん、こっちです!」

 盗賊の加護を持つ仲間の追跡によって、すぐにアルベール達は炎の中に倒れるアウルベアの元にたどり着いた
 彼らは魔法によって熱耐性と環境耐性を付与されている。煙も熱も彼らを傷つけはしない。

「どうやらあいつ、ここで力尽きたみたいですよ。やりましたね!」

 それでも盗賊はアウルベアには近寄ろうとしない。万が一、生きていれば引き裂かれる。
 アルベールだからアウルベアの攻撃にも気絶する程度で耐えられたが、彼では即死することも考えられた。
 まだ傷が残っているが、回復魔法で8割方回復したアルベールがアウルベアに近づき、その前足を切り取った。
 これが討伐の証明となる。

「やりましたね!」
「……この傷」
「どうしました?」
「いや、なんでもない。魔法の効果が切れる前に離れるぞ」
「そうですね、耐性魔法があっても熱いし、息苦しい」

 盗賊の愚痴に対して、僧侶の加護を持つ女性が眉をひそめた。

「仕方ないでしょう、人間が耐えられないほどの環境なのよ。その程度の苦痛で済むだけありがたく思ってください」
「分かってるよ、死ぬよりはずっと楽だ」

 耐性付与魔法の効果は10分程度。この炎の中で魔法が切れれば、アルベール達でもすぐに倒れる。
 アルベール達は駆け足でその場を離れていった。
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