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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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3話 ハーフエルフは下町育ち

 3日後には27人の冒険者で構成される討伐隊が集まり、住民達からの応援を受けながら山へ向かっていった。
 その間、俺は川で魚を釣って売った。
 8ペリルの収入だった。
 1日1ペリルあれば、2食宿付きで生活を維持できることを考えれば3日で8ペリルはなかなかの儲けだ……が、薬屋開業に必要な資金は1,730ペリル。
 少しづつ溜まりつつあるが、薬草採取のための保存食の準備や装備の維持費などを引いたら、現在1日あたりの収入は30ペリル程度だ。
 このままでは半年くらいは薬草採取を続け無くてはならない。

「まっ、それもいいか」

 別に急ぐ理由があるわけでもないのだ。
 命の危険もないし、ゆっくりやっていけばいい。
 俺は寝台に横たわると、貸本屋から借りてきた本を読みながら、だらだらと過ごしていた。

 長屋タウンハウスの薄い玄関扉を叩く音が聞こえたのは、昼過ぎのことだった。

「はいはーい」

 俺は本にしおりを挟んで置くと、銅の剣を腰のベルトに差してから玄関を開けた。剣を準備してしまうのは前の旅の名残だ。
 あの頃は寝込みを襲われることが何度も有り、すぐに武装できる状態にしておくのが基本だった。お陰で今も眠るときは近くに武器がないと眠れないし、来客があったときは腰に武器を携えておかないと落ち着かない。
 スローライフのためには、この癖は治さなくてはならないとは思うのだけど……。

「どなたですか?」

 俺が扉を開けると、そこには冒険者ギルドの職員メグリアと、その少し後ろに派手な装飾の施された鎧を着た男とその仲間達がいた。

「レッドさん、お休みの所申し訳ありません」
「メグリアさん、どうしたの? それにアルベールまで」

 俺の言葉にアルベール……鎧を着た男はぴくりと眉を動かす。

「さんをつけろよDランク」

 アルベールはこの町に2人しかいないBランク冒険者の1人。Aランク以上はいないのと、もう一人のBランクである冒険者リットはソロ専門の冒険者であるため、アルベールのパーティーが冒険者ギルドのエースとして見られている。

「……アルベールさんね。で、何か用?」

 アルベールが俺に近づいてきて、にこやかに笑うと俺の肩を叩いた。

「君のことは話には聞いている。薬草採取専門で山のことは誰よりも詳しいんだろう?」
「まぁそれなりには」
「これから俺のパーティーはアウルベアの討伐に向かう、本来俺たちが出るような相手ではないのだろうが、討伐隊が失敗したのなら仕方がない」

 あらら、討伐隊は敗走したのか。
 あの人数なら勝てない相手ではないはずだが、山で分散してしまったところを各個撃破されたか。
 俺が初めて知ったという顔をしたことに気がついたのか、アルベールは見下すような笑いを浮かべた。

「まさか知らなかったのか。そりゃ君のような者からすればアウルベア討伐なんて雲の上の話かもしれない。だが、君にとって山は生活基盤のはずだろう? 少しは気にした方がいいと思うがね。そんな意識だから万年Dランクなのだと、俺は思うが」

 なにこの人、いきなり説教はじめたよ。
 俺はテキトーに相槌をうちながら、はよ本題を話せとギルド職員に目配せする。

「アルベールさん、そろそろ」
「そうだったな、時間は有限だ」

 アルベールの仲間達もうなずいた。
 このパーティーはアルベールのワンマンパーティーだ。アルベールだけが突出してレベルが高く、他はBランクの水準ではない。
パーティーの冒険者達はアルベールの許しなければ発言することすら稀だ。

「さっきも言った通り、俺たちはアウルベアの討伐に向かう。だが俺達は薬草採取の仕事なんてほとんどやったことがない。山については詳しくないんだ」
「なるほど、案内がほしいのか」
「もちろん、我々だけでも討伐は容易い。だが、アウルベアごときのために何日も時間はかけたくないんだ。君の案内で手早く済むならそれでいい」
「俺はDランクだぜ? 討伐に失敗した冒険者の中から良さそうなのに声をかけたほうがいいんじゃないか?」

 アルベールは蔑んだような表情を見せる。

「はっ、君にとってはチャンスだろ。君はただ案内をするだけで実績が積める。Cランクへの昇格だって可能性がある。一体何を怖気づいているんだ」

 なるほど、他の奴らには断られたのか。
 俺はアルベールの不満げな様子を見て察した。おそらく、アルベール達がアウルベアを倒せるか、倒せるとしても案内した冒険者に危険が及ばないかどうかを疑問視されているのだろう。
 アウルベア程度でここまで侮られるBランク冒険者というのも珍しいのだが……アルベールは中央で通用せずゾルタンに流れてきた冒険者だ。
 Bランク冒険者が欲しかったゾルタンのギルドが、無理やりアルベールにBランク認定をだしているというのは、ゾルタンでは公然の秘密というやつだった。

「悪いが俺も断るよ」
「なぜだ!? Cランクになれば受けられる依頼の幅も広がるぞ! 周りから尊敬だってされるようになる! お前だって周りから馬鹿にされたままなんて嫌だろ!?」
「俺はCランクに興味はない。それに俺の夢は薬屋を開いて平々凡々に暮らすことでね」
「くっ、もういい!!」

 アルベールは大声で怒鳴ると、俺を睨みつけ地面にツバを吐いてから、肩を怒らせ立ち去った。
 仲間達も慌ててその後を追っていく。
 残されたメグリアは、困ったようにうなだれた。

「私どもとしてもレッドさんが依頼を受けてくれると安心だったのですが。Cランク昇格をお約束してもいいですよ」
「悪いね、本当に昇格に興味が無いんだ」
「ならば仕方がありませんね、では私もこれで」
「うん、それじゃあ」

 ペコリと頭を下げ、メグリアもアルベールの後を追って去っていく。
 その後姿を見送ってから、俺は家の中へと引っ込んだ。

☆☆

 ガンガンと音を立て、再び玄関の薄い扉が叩かれたのは夕暮れ時の事だった。

「レッドさん! 俺だ! ゴンズだ!」
「あー、大工のゴンズさんね、すぐにでるからそんな強く叩かないでくれ、扉が壊れる」

 声の調子から、なにやら酷く慌てていることが伝わってきた。
 俺は帯剣だけしてすぐに扉を開ける。

「どうした?」

 外にいたのは尖った耳をしたハーフエルフの大工であるゴンズだ。
 母親であるエルフの特徴を色濃く残すシャープで美形な顔立ちにも関わらず、父親の豪快な性格と人間式の大工の技術を受け継いでいる。このアンバランスさがある意味ハーフエルフらしい男だ。

「休んでる所すまねぇ、うちの妹んとこの坊主が熱出しちまって。医者が言うには白眼病はくがんびょうらしいんだ」
「タンタが白眼病!? 今のフェーズはいくつだ!?」
「ふ、フェーズ? ええっと、今はただ熱が出て倒れただけだ」
「フェーズ2か、分かったすぐに行く」

 薬屋開業を目指すために、怪我や病気、毒に関する知識はそれなりに勉強している。
 白眼病は、その名の通り、黒目の部分が白く濁る病気だ。
 鳥が感染経路で、卵に病原菌が付着し、その汚染された卵を食べることで発症する。
 熱で除去できるのだが、熱にもある程度耐性を持ち、生焼けだと危険だ。
 この病気が恐れられている理由に、症状が現れたあと数日で完全に失明してしまうことにある。最初に高熱が出るので、それから36時間程度以内に治療薬を投与することが必要だ。

 もちろん、高レベルの加護を持つ僧侶や治療師の魔法があればそれでも回復できるが……。
 辺境のゾルタンの町にそれができるのはたった1人、先代市長のミストーム師だけだが、彼女は老齢のため市長を引退し、今はどこかでひっそりと余生を送っているそうで、誰も場所を知らない。
 なお現在の市長のトーネドは魔法を使える加護持ちではないようだ。

 ゴンズの家の隣に、彼の妹夫婦が暮らしている。タンタはそこの息子だ。
 大きくはないが日当たりも良く、赤い屋根には風見鶏が、緑の庭には小さなノームの置物が、家の雰囲気を豊かなものにしている。
 妹のために愛情を込めてゴンズが作ったことが伝わってくる良い家だと、俺は感じた。

「ナオ!」
「ゴンズ兄ちゃん!」

 妹のナオも、肌が白く美しい顔立ちをしたハーフエルフだ。
 だがゴンズと同じように、割烹着を着て子供を育てる下町生まれ下町育ちの母親である。
 ナオの夫であるミドは人間だ。引退した元冒険者で、今はゴンズと一緒に大工をしている。
 ゴンズほど器用ではないようで、ゴンズからよく叱られているが計算が速く、大雑把なところがあるゴンズの足りない部分をよくフォローしており、ゴンズも本人がいないところでは、頭がいいやつだとよく褒めていた。
 今は2人とも息子が白眼病を発症したことで、日頃の明るさはなく憔悴しきっている。

「兄ちゃん、どうしよう、薬ないって……」
「大丈夫だ、レッドに頼むから。こいつは薬草を取らせたらゾルタン1の冒険者なんだ」

 普通の冒険者なら怒り出す所だが、俺にとっては素直な褒め言葉だ。
 だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。

「タンタの容態は?」
「奥で先生に見てもらってるの、でも薬がないとこれ以上手の施しようがないって」
「分かった、入らせてもらうぞ」

 奥の寝室では、高熱で苦しそうに喘いでいる男の子……タンタの姿があった。
 側では医者のニューマンが難しい顔でタンタの容態を観察している。

「先生」
「おお、君が冒険者レッド君か。よく来てくれた」
「白眼病と聞いたが」
「ああ、間違いない」

 俺は一言断ってから、タンタの目、リンパの様子、口腔の様子を見る。

虹彩こうさいに白い濁り、無数の口内炎、首、脇のリンパの腫れ、白眼病の初期症状だ」
「冒険者とは思えない知識だな」

 ニューマンは薄くなった頭に浮かんだ汗をタオルで吹きながら言う。

「発熱してからどれくらい時間が?」
「昼頃から倦怠感を感じていたらしい。倒れたのは3時ごろだ」
「明日の夕方までには薬を投与しないとまずそうだな」
「それが問題でな。薬がないんだ」

 白眼病の治療薬はコクの葉とブラッドニードルと呼ばれるトゲ状の茸が原料のはずだ。コクの葉は冬を除けば一年中採取できるが、ブラッドニードルは春から夏の中旬にかけての間しか採取できない。
 今は春なので、そろそろ採取の時期になる。

「先月からゴブリン熱や白眼病が流行っていてな。町の3つの病院ではどこも治療薬が足りてないんだ」
「コクの葉はあるだろうけどブラッドニードルか、もうそろそろ生えているとは思うけど……」

 薬草の在庫を管理しているのは冒険者ギルドだ。
 本来ならば不足しているブラッドニードを優先して集めるように依頼をかけるべきなのだろうが……。

「あそこのギルドは認可に時間かかるからなぁ」

 在庫の不足が指摘され、担当者が上司に報告し、上司が在庫を確かめ、担当者が書類を書き始め、上司が書類を受け取って幹部に承認をもらい、それらの書類が揃ってから担当者が依頼を出すための書類を書き、その書類を上司が確認し……。

「ゾルタンの冒険者ギルドはお役所仕事だ」

 ニューマンは渋面でそう言った。
 とにかく今、薬の原料の在庫がないというのが状況だ。
 タンタの症状からしても、明日の日が落ちる前には薬を投与しなくてはならない。調合の時間を考えれば、明日の昼にはブラッドニードルをニューマンの元に届けなくてはならないだろう。

「頼むレッド! 山が今やばいのは分かっている。だけど頼れるのはあんたしかいないんだ! 薬草を取ってきてくれないか、もちろん、報酬は言い値で支払う! 何年かかってでも絶対に払うから!」

 そこまで言うと、ゴンズは土下座の姿勢となり勢い良く額を床につけた。

「この通りだ! こいつには大工の才能がある! こんなところで夢を失うなんて絶対に認められねぇ!」

 ゴンズには子供がいない。ゴンズの妻は、俺がこの町に来る前に病気で亡くなり、以来ゴンズは後妻を迎えることなく独り身を貫いている。
 そのため、妹の息子であるタンタを可愛がっており、事あるごとに俺の後を継ぐのはこいつだと、10歳にも満たない少年に言い続けているくらいだ。タンタもゴンズによく懐き、ゴンズの仕事場を遊び場に育ち、将来はゴンズのようになると公言していた。

 だが……。

「危険なのもそうだが、山は現在立入禁止だ。冒険者であってもアウルベアが討伐されるまで入山はできない。これを破れば、最悪冒険者ギルドから除名もありえるんだ」
「そ、それはそうだが、他に薬を手に入られるアテはないんだ」

 ゴンズと共にナオとミドの夫婦もゴンズの隣で額を地面に押し付け、頼み込んでいる。

 悩むな……、今、山にはアルベール達がアウルベアを探して探索しているはずだ。
 見つかってなければ野営をしているだろうが、もしアウルベアが見つかっていれば夜通し追いかけ回すことも考えられる。
 広い山とはいえ、アルベール達は生存術の達人である冒険者達だ。僅かな痕跡からでも山にいる俺の気配を感じ取られる可能性はある。
 冒険者ギルドに掛け合うか?
 無理だろう。俺にそこまでの信用はない。

「レッド兄ちゃん、来てたの?」

 目を覚ましたタンタが弱々しく声を出した。
 高熱でエルフの血の証である尖った耳の先まで赤くなったタンタは、俺を見て笑った。

「ごめんね、ちょっと風邪引いちゃった。でも治ったらまた相談にのってやるからさ」

 相談と聞いてゴンズ達が俺を見た。それは……大したことではないのだが。

「ああそうだな。俺の薬屋はタンタが建ててくれる約束だもんな、良くなったらまた頼む」

 遊んでいたタンタと話した他愛もない会話。
 薬屋を建てるとしたら、どんな間取りにするか、どこに建てるのがいいか、そういった話を、俺はタンタとよく話していた。
 そこでタンタは「レッド兄ちゃんのお店は、俺が大工になったら作ってやるから」と約束してくれたわけだ。

 まぁそうだな。
 最初からどうするかは決まっているんだ。
 だって約束してるんだから仕方がない。俺の輝かしいスローライフには、ささやかでも素敵なお店が必要なのだから。

「今、山に行くことは冒険者ギルドから禁じられている……」
「だ、だめか?」
「だから今回の仕事は冒険者レッドではなく、友人としてこなす。だから内密にな?」
「レッド!」
「すぐに戻る、それまでタンタを頼むぞ先生」
「できる限りのことはする。だが調合には1時間はかかる」
「1時間でできるなら十分ありがたい。俺なら3時間かかる」

 高速調合が使えるのは医療職系か錬金術師系、または薬師の加護か。
 俺にはできない。
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