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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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22話 リット、正午の決闘


 レッドと離れ、外に出たリットは店の周囲を見渡した。
 あたりには誰もいないが、離れたところから悲鳴と怒声が聞こえる。おそらくは建物を挟んで2つ先の通りか。店に飛び込んできた男が流したと思われる血も、路地へと続いている。
 リットは血の跡を追うように走った。男の怪我の具合からして、そう長い距離を走ったわけではないだろう。

 路地に入ったところで、

「うわあああ!!!」

 リットの正面から悲鳴をあげて走る男があらわれた。
 リットは一瞬体勢を低くすると、

「とっ!」

 ひらりと宙を舞った。
 男の頭上を飛び越し、間髪入れずに走り続ける。

 曲芸めいた軽業を目の当たりにしたのにもかかわらず、男はそのまま走り去った。

(喧嘩なんかじゃなさそうね)

 あれは命の危機にさらされて恐慌状態にある眼だ。魔王軍に襲われ逃げ惑う人々が、あの眼をしていたことを、リットははっきりと憶えている。
 この先にいるのが、アスラデーモンのシサンダンであるはずがない、と理解はしているものの、リットは手にした剣の柄をきつく握りしめていた。

 通りへ飛び出すと、そこにいたのはやはりアスラデーモンなんかではなかった。
 だが、予想していなかった人物ではある。

 地面には6人もの男女が血を流して倒れている。傷口を押さえながらまだうめき声をあげている者、頭を割られもう即死していると分かる者、どちらもいる。倒れている者のうち1人は槍を持った衛兵だ。鉄の兜はひしゃげ、血の海に沈む顔はピクリとも動かない。

 原因と思われる3人の男は、それぞれ血濡れた戦斧バトルアクスをだらりと下げ、「ひひっ」と神経症的な笑みで口を歪めていた。
 その中央にいる男を睨み、リットは声を落として言った。

「……あなた、アルベールのところの盗賊ね」

 リットも内心驚いている。アルベールのおまけとはいえ、この男はゾルタン最強のパーティーの1人なのだ。

「リット、リット、リットォォォォ……」

 正気ではない。リットはそう直感した。他の2人の男も、英雄リットを目の前にしているにもかかわらず怯んだ様子はない。
 それどころか3人とも威嚇するようにガチガチと歯を鳴らしている。

「なんなの、あなた達」

 アルベールの仲間について、リットは親しいわけではない。だがBランク冒険者として、たまに話すことはあった。
 この男の名は確かピック・キャンベル。酷薄なところはあったが、まっとうな精神を持つ冒険者だったはずだ。
 だが目の前にいるBランク冒険者は、理知的な様子とは程遠い。その様子はまるで理性なきモンスターだ。

 キャンベルが斧を振り上げ地面を蹴った。リットはすぐにはその場から動かず、ショーテルを脇に構え、じっと待つ。

(速い、それに鋭さもある。これが盗賊の加護持ちの戦い方?)

 突進してきたキャンベルがリットの間合いに入り斧を振り下ろそうとする。リットは1歩、前に進んだ。
 キャンベルの斧は空を切り、2人は交差した。

 キャンベルの腕がだらりと下がり、ガランと音を立てて戦斧を取り落とす。
 斬られたことを身体が思い出したかのようにみるみるうちに服が赤く染まり、そして彼は倒れた。

 2人の男はぎょっとした、慌てて斧を構える。
 その時、タッと地面を蹴る音がした。
 瞬きする程度の間だった。男はそう感じた。
 まだ距離があったはずにも関わらず、男の目の前にはリットの剣が迫っていた。
 激しく金属がぶつかる音。

「むっ?」

 だが、ショーテルの刃は男の戦斧の柄で受け止められていた。
 リットは少し驚いた様子だったが、流れるような動作でショーテルを切り返した。
 湾曲した刀身は戦斧を超え、切っ先が脇腹に食い込み内臓まで達する。
 刃が引き抜かれると、血を流しながら男は膝をついた。

「ひっ!!」

 最後の1人は意外にも恐怖の表情を浮かべ、逃げ出した。
 さっきまでの狂気が嘘のようだ。

 リットが追おうとしたが、

「あがっ!?」

 路地裏から飛び出してきた矢が男の側頭部を貫き、建物の壁に縫い付けた。
 確かめるまでもない、即死だ。

「アルベール」

 リットは獰猛な眼を向ける。
 路地裏にいたのはクロスボウを構えたアルベールと、医者のニューマンだった。

「すまない、私の仲間が迷惑をかけたようだ」

 アルベールは神妙な顔をして言った。

「アルベール、これはどういうこと?」
「俺にも分からないな。このような凶行に及ぶ男とは思わなかった」

 アルベールの言葉はどこか他人事だ。
 今しがた仲間が死んだというのに。

「それよりも、倒れている者の手当をした方がいいのではないか?」
「お、おおそうだとも」

 ニューマンは慌てて鞄を抱えて倒れている人達の元へと近寄る。

「君のフィアンセにも来てもらいたいものだね。薬代の請求は俺に回してくれても構わない」

 つい先日、アルベールはリットに殺されかかったというのに、それを気にした様子はない。いつもの気障ったらしい口調のままだ。
 それが何か気に入らない。リットの中で加護が『敵を殺せ』と叫び始める。

「お、俺はあの医者の手伝いをしなければ、失礼する」

 リットから膨れ上がりつつある殺気を感じたのか、アルベールはリットの視線から逃れるように、あわててニューマンの元へと移動した。

「…………」

 ガチャン! と金属の音がした。アルベールはギョッとしてリットの方を振り返る。
 リットは右手を真っ直ぐ前に突き出したまま、手を開き剣を落としていた。アルベールは怪訝そうな顔を浮かべている。

 これは加護の衝動に襲われた時、自分を取り戻すためにリットがやる儀式のようなものだ。武器を持った手を突き出しそれを開いて武器を落とす。
 そしてリットは左手で武器を拾うと、ゆっくりと鞘に収め、

「ふぅ」

 ようやく息を吐き出した。

☆☆

 倒れていた6人のうち2人は即死。生きていた4人のうち1人は手当が間に合わず死亡。3人は重症を負ったものの一命を取り留めることができた。
 俺の店に逃げてきた人も合わせて被害者は7人だ。うち、3人がハーフエルフ。その中でハーフエルフのキーノが命を落とした。残りは人間だ。

 運良くニューマンが俺の店に向かっていた時に遭遇したこともあり、斧で何度も斬りつけられたのにもか関わらず半数が命を取り留めたのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。

 勇敢にも立ち向かい、殺されてしまった衛兵のアーサーはゾルタン議会から表彰を受けた。彼には妻と2人の子供がおり、彼女たちには遺族年金が支払われるという。
 まだ若い妻は気丈にも、勇敢に戦い市民が逃げる時間を稼いだ夫を誇りに思うと言っていたが、横にいた娘が泣けない母親の代わりに、大声を上げて泣いていた。

 Bランク冒険者の乱心。
 冒険者ギルドにとっては頭の痛い不祥事となったが、リットが半ば引退した今、アルベールのパーティーは特別扱いされている。
 アルベールは沈痛な表情で仲間の不始末を謝罪したが、新しい仲間を加えて今後も冒険者活動を続けていくだろう。

「とくに何かが変わったわけでもないか」

 俺は読んでいた木版摺りの新聞を脇においた。
 あの惨劇から一週間。外はそろそろ涼しい風が吹くようになったが、それ以外は何も変わらない。

「検死は誰がやったの?」

 俺の膝に頭を載せたリットが聞いてきた。いわゆる膝枕の体勢だ。
 最近はそこがお気に入りらしく、スキをみては身体を滑り込ませてくる。
 正直に言えば、俺が膝枕して欲しいのだけれど。

「さぁな、新聞には書いてなかったが、やはり薬で正気を失っていたと思うか?」
「私はそう思うな……それに、思ったより強かった。薬で強化されていたとしか思えない」
「ほぉ」
「前にアルベールの仲間のキャンベルの動きを見たことがあるの。お世辞にも強いと言えない様子だったわ。でも、あの時は迂闊に斬り込めない威圧感があった。他の男にしたって私の剣を一度でも受けられる人間がゾルタンに無名でいるわけない」
「残りの2人はキャンベルが昔パーティーを組んでいたCランク冒険者だそうだ。キャンベルがアルベールのパーティーに移籍した後も、仲良くしていたそうだが……たしかに経歴を聞く限り、リットの剣を受けられるとは思えないな」
「でしょ」

 実際に戦ったリットが言うのだから間違いないだろう。
 強化のポーションを使っていたのか?

「血液検査すれば薬の反応は分かるんでしょ?」
「スキルと試験薬があればな……俺は、盗賊の加護を持っているキャンベルがなんで斧なんて使っていたかの方が気になるな」
「斧を使う盗賊の加護持ちは聞いたことないわね」
「そりゃそうさ。盗賊の加護は軽い武器を好む。斧のような武器は固有スキルの大半が対象外なのさ」

 だから斧を使ったのがどうにも解せない。そりゃ他に武器が無ければ斧を使うこともあるだろうが……。

「追い詰められて他に武器が無かった状況とは思えないが」
「それに、そんな間に合わせの武器で私と渡り合ったって……信じられないなぁ」
「確かに」

 謎は深まるばかりだ。

「どうするの、ちゃんと調べる?」

 俺を下から見上げるようにリットが言った。

「……どうするかなぁ」

 店の直ぐ側で起きた殺人事件。
 不可解な点が多く、何か裏があるとは思うが。

「リットはどうしたい?」
「私はこのまま眠りたい」

 そう言って、俺の膝の上で目を閉じる。

「……ふうむ」

 俺はリットの髪を撫でながら、さてどうするかと考えていた。
 あ、この感じ、騎士見習い時代に住んでいた寮の猫を思い出すな。
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