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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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18話 毒と薬


「寝室か」

 俺は廊下を走り、寝室の扉を開ける。
 そこには真っ青な顔に血走った目をして唸り、胸を押さえる中年の男が倒れていた。

「ジャクソン!」

 ニューマンが側に座りすぐに症状を見る。

「呼吸不全、発汗、発熱、痛みもあるのか? ひどい状態だ、レッド、あんたの薬箱を取ってきてくれ」
「分かった」

 俺はすぐに診療所へと駆け戻り、薬箱にさきほど取り出した薬を乱暴に詰め直すと、再びニューマンの元へと向かう。
 戻るとニューマンは、持っていたナイフで患者の服を裂き、胸の鼓動を触診していた。

「心臓もおかしい」

 ニューマンはすぐに気道確保して呼吸を手伝ったり応急処置を施している。
 だが原因が分からないため対応あぐねているようだ。

「これを」

 俺は薬箱から灰色ヒトデ草から作った粉末状の薬を渡す。解毒薬の一種で、血管内の毒を吸着、無毒化しそのまま排出される性質がある。

「分かるのか?」
「症状の緩和だけなら。応急手当のスキルをマスタリーまで取っているんだ」

 応急手当は医者などの固有スキルである治療術のほぼ下位互換にあたるコモンスキルだ。
 効果は累積しないため、兵士や冒険者が少しだけ取ることが基本。人を癒やすことを志す者は見向きもしないスキルだが……この応急手当のマスタリー特典『場当たり的な神医』。このスキルだけは最上級治療術にも匹敵する効果がある。
 それは病気の原因が分からなくても、症状を緩和する方法が分かるというものだ。
 治療はできないが、痛みを和らげたり、出血を止めたりなど、危険な状態を一時的にでも改善し、ちゃんとした魔法や技術による治療の時間まで持たせるスキルというわけだ。

 ニューマンは一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに真剣な表情に戻ると、うなずいて俺から薬を受け取った。

☆☆

 ニューマンが手当をしている間、俺は原因が何か分かるものがないか周囲を探す。

「ん、これは」

 床に落ちていた正方形の紙にすぐ気がつく。
 触れると、表面にわずかだが粉状の何かが残っている。

「薬か」

 薬師や錬金術師の加護があるなら薬を僅かに舐めるだけで特定できたりするのだが、俺にはそんな能力はない。

「ニューマン先生、こんなものが」

 俺は紙を見せる。

「これは……そうか! レッド君、手伝ってくれ、診療所に運ぶ!」
「動かしていいのか? 分かった!」

 担架は無かったため俺が頭を、ニューマンが足を抱えて診療所へと運んだ。
 外の野次馬達は、俺たちの姿を確認すると、率先して道を開ける。

「どいたどいた!」

 下町人の威勢の良い声に先導されながら、俺達は診療所へと戻っていった。

☆☆

 しばらくするとジャクソンは一度大量に嘔吐し、なんとか落ち着いた。まだ苦しそうではあるが正常に呼吸できるようになったようだ。
 その間、ニューマンは難しい顔をして吐瀉物の入ったバケツを診察室へと運んでいった。
 受付の女性は心配そうな顔をしながら、あたふたとニューマンを手伝っている。

「まだ予断は許さないが、危ない状況は脱したね」

 ニューマンはふぅぅと長い息を吐いた。

「一体何が原因なんだ?」
「最近流行っているらしいよ」

 俺が首を傾げると、ニューマンは俺が拾った紙を見せる。

「麻薬だよ。最近許可された薬が実は……ってやつ、当局はすぐに規制したみたいだけど、かなりの量が行き渡っちゃっているみたいだね」

 俺は、麻酔薬の認可を貰いに行ったときの騒動を思い出した。

「つまりこれは薬物中毒か」
「詳しい症状や対策はまだ他の先生も研究中。でも灰色ヒトデが効くとは盲点だった。他の診療所にも共有するけどいいかい?」

 共有するのはもちろんかまわないのだが、さて俺が見つけたというのはどうするか。ここで先生に手柄を譲るなんて言うのも不自然だろう。
 この程度で正体がバレるとは思わないが……中級調合まで使える加護で、症状を見るにのには応急手当しかなかったと言えば理屈は通るか。

「別にかまわない」

 と、俺は短く言った。

☆☆

 まだジャクソンの意識は戻らないが、店のことがあるので俺は戻ることにした。

「レッド君がいてくれて助かったよ」

 帰り際にニューマンは頭を下げてお礼を言った。

「件の麻薬は、まだ中毒段階に至っていないだけで、これからもっと多くの患者が診療所に担ぎ込まれると思う。レッド君の方でも、薬の用意をしておいて欲しい」
「分かった、灰色ヒトデ草は庭でも育ててるから在庫はある。足りなくなったらいつでも言ってくれ」
「頼もしいね」

 麻薬か。一体誰が持ち込んだのやら。
 と言っても、自分でそれを突き止めようとは思わないけれど。

☆☆

「おそーい!」

 店に戻ると、リットは口をとがらせて文句を言ってきた。

「お腹すいたよー」

 そういえばもう昼をとっくに過ぎている。
 ゴンズとタンタはご飯を食べに家に戻ったらしい。

「悪い悪い、ちょっとトラブってな」
「トラブル? さぼってたんじゃないの?」
「ニューマン先生のところにいったらさ、ほら俺たちが新薬の許可をもらいに言った時に聞いた麻薬の話、あれで近所の人が中毒症状を起こしてね。応急処置の手伝いをしていたんだ」
「なるほど、もう中毒患者がいるんだ。そんな危ない薬なのね」
「どうだろう、たまたま体質が合わなかった人かもしれないな。多分今後も増えていくだろう、薬の用意を頼まれたよ」

 そう言いながら俺は洗面所で手を洗いに向かう。もちろん、その後料理するためだ。

「夕方前にはまた市場に行くから、その時は留守番頼む」
「分かった、あとお昼は私オムレツがいい」
「確かトマトソースの作り置きが残ってたな。すぐできると思う」
「やった」

 旅をしていた頃、アイテムボックスに卵をいつも入れていた。
 滋養に良いのもあり、料理のバリエーションも多い。メインにも付け合せにもソースにも使える。
 庶民でも普通に買う食材なのだが毎日買うにはちょっとお高い。だが、俺は常に常備するようにしていた。

 オムレツを半熟で出すか、しっかりと焼いて出すかは好みよる。
 俺は基本的に表面がカリカリになるほど焼くのが好きだ。
 また中に入れる材料……ひき肉、ナッツ、玉ねぎなどは火を通す前に入れる。これも好みの問題で、焼きながら包んでも美味しいだろう。
 自分一人のときはそういう手順で作るが……。

「リットはどうかな」

 一緒に食べる人がいるとなると、これは少し悩むところだ。リットの好みを聞いてくるべきか。
 卵を手にしたまま、僅かな時間悩んだ後、俺はリットのところへ戻らず卵を割った。

 まずは俺が一番美味しいと思うオムレツを食べてもらおう。そう決めた。

☆☆

 カリカリになったオムレツの上には赤いトマトソースが載せられ、そこに粉末のバジルがかかっている。
 付け合せには香草スープと白パン、それとソーセージが2本。

 リットは一口食べると、口元を緩めてそれから一気に食べた。
 昼食の時間が遅れ、空腹だったのもあるのだろうが、パクパクと女性らしからぬ勢いでスプーンを動かし次々に口に入れていく。
 気がつくと、つられて口元が緩んでいた自分に気がついた。俺も料理を食べ始める。

「うん、美味い」

 料理中に味見したときより、ずっと美味しかった。目の前で美味しそうに食べてくれる人がいるからかもしれない。
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