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真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 作者:ざっぽん
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17話 薬を届けに行こう


 イチャイチャする時と仕事の時間は分ける。メリハリが大切だ。
 でないと、リットと俺の噂を聞きつけて飛び込んできたゴンズとタンタの前で、お互いの手を握り合ってもじもじしているという状況を見られたりするのだ。

 ……死にたい。

「いやぁ、悪いことした。すまねぇ!」

 と言いながら、まったくすまなさそうな表情をせずに、ニヤニヤと笑っているゴンズ。

「レッド兄ちゃんそういうことなら最初から言ってよ! 新婚さんの家ならもうちょっとレイアウト考えたのに!」

 と、一端の建築士気取りで文句を言うタンタ。
 そして、リットはバンダナで口元どころか顔を隠す勢いだ。今のはさすがに彼女にとっても恥ずかしいらしい。

「にしても冴えない薬草取りが英雄リットとねぇ」
「冴えない言うな。ちゃんと将来設計を考えて薬草取りしてたんだ」
「分かってるよ」

 ゴンズは端正なエルフ由来の顔に浮かんでいた下町人らしいニヤニヤとした下世話な笑みを少しの間だけ正し、

「さすが英雄リットだ。レッドを選ぶとはお目が高い、こいつは下町一の優良物件さ」

 と、真面目な調子で言った。タンタも腕を組んでうんうんとうなずいている。
 今度は俺が赤面する番だった。

☆☆

 どうやらゴンズは今日、仕事がないらしい。
 なんでこんな平日のど真ん中に仕事がないのかと言うと、夏場の現場は3日に1日休みを取るというとんでもない業務形態だからだ。仕事を頼む側も、夏はだらけるものと考えているらしく、このペースで納得しているらしい。

 というわけで、ゴンズとタンタは、俺の店に入り浸り、俺がたまに来る客の応対を眺めたり、あーだのこーだのダメ出ししたり、リットに俺がこのゾルタンでどういう生活をしていたか、わざわざ報告したりしている。
 本人が仕事している直ぐ側で止めて欲しい。

「ボクが病気になったときね、レッド兄ちゃんがアウルベアのいる山に1人で薬草を取りに行ってくれたんだ」
「うんうん、それでどうなったの!」

 騎士団にいた頃にあった宴会での武勇伝披露も結構恥ずかしかったのだが、これもやっぱり恥ずかしい。

「そ、そういえばゴンズ」
「どうした?」
「なんだってあの時、俺のところに来たんだ? そりゃ俺とお前は顔見知りだったけど、俺のことは薬草取りばかりのDランク冒険者としか知らないはずだろ」
「ああ、あの時はニューマン先生がお前の名前を出したんだよ。俺もお前の人柄は知ってたから、信用できることも分かってたしそれで頼み込みに言ったんだ。いやぁ、あの時は本当に助かったよ」
「ニューマン先生が?」

 タンタを診ていたニューマン先生。あれがきっかけで腕を認められて薬の卸売など力になってくれたと思っていたのだが、それ以前から知られていたのか。

「なんか、レッドが来てから薬の供給が安定するようになったって言ってたぞ。不思議に思って冒険者ギルドに何があったのかを聞いてレッドの名前を知ったんだってさ」
「見ている人は見ているものなんだね」

 ゴンズとリットはうんうんと頷き合っている。
 ほー、そういうことだったのか。

「っと、ニューマン先生といえば、そろそろ薬を届けに行くか」
「私が行こうか?」
「んー、まだリットのこと先生に紹介してないしな、そのうち一緒に行こう。今日はなんかお客が多いし、店の方を頼むよ」
「分かった」

 薬についてはリットに十分教えてある。もともと冒険者として応急手当に関する知識と技術は持っているのもあり、すんなりと理解してくれた。1人で店を任せても大丈夫だろう。
 俺は昨日のうちに準備しておいた薬箱を背負うと、ニューマンの診療所へと向かった。

☆☆

 ニューマンの診療所は下町の一角にある。
 綺麗なとは言い難い、元は白地の壁だったのだろうが汚れて灰色となった建物が見える。小じんまりとしたもので、ニューマンがここを買う以前から診療所だったらしい。
 診察室が1つ、受付が1つ、控室が1つ、倉庫が1つと普通の病院に比べても小さい。ニューマンが使う事務所すらないため、倉庫と診療室に書類などは分けて置いてある状況だ。
 その分なのか料金は安めで、この界隈の住人に親しまれている診療所である。

「おぉ、レッド君、よく来てくれた」

 ニューマンは薄くなった頭にタオルを巻いて風邪を引いた子供の診察をしているところのようだ。

「控室で待っていてくれ。こちらが終わったら行くから」
「はいはい」

 受付には10代後半くらいの女性が、あまり真面目そうでない様子で、だが明るく応対している。俺は控室のイスに座り、周りを見渡した。
 座っているのはうつらうつらしている老婆が1人。おそらくは今診察を受けている子供の祖母なのだろう。
 待っている間の暇つぶし用なのか、ワイバーンズレースという木製のボードゲームが置いてある。
 5コモーン程度の安い玩具とはいえ盗まれたりしないのだろうかちょっと不安になるが、使い古された様子を見る限り、長い間ここで人々を楽しませて来たようだ。

 控室には窓がついている。
 ガラスは高価なため、窓は中空になっていて、夜になると木戸を閉める。
 窓には銅製の風鈴が1つぶら下がっていて、風が吹く度にチリンと音を立てた。風鈴は魔王軍との戦いで伝わった暗黒大陸由来の風習だが、そこら辺は気にせずに使っている人がほとんどだ。

 しばらくすると、頬を赤くした……多分熱があるのだろう……子供とニューマンが控室に戻ってきた。

「薬を出しておきますから。もし薬がなくなったときは、こちらにいるレッド君がやっている薬屋に行ってください。この処方箋を見せれば適切な薬をだしてくれます」

 そう言って俺の店の場所を教える。

「おんや、レッドちゃん、ついにお店開いたんだねぇ、良かったねぇ」
「どうも、お婆ちゃんも何か薬が欲しかったらいつでもおいで」
「そうだねぇ、腰痛の薬でもあるなら貰いに行こうかねぇ」

 この老婆とは長屋時代に挨拶をした程度なのだが、名前を憶えていてもらったらしい。俺の方では名前はさっぱり出てこないのだが……商売人としてまずいか?

 老婆と子供は受付で銅貨を数枚置いて、出て行く前にニューマンにお礼を言ってから帰っていった。
 俺はちらりと受付を見る。カウンターに置かれた銅貨は8枚。

「8コモーンとは随分安いな」
「代わりにソーセージを二袋もらったもので」

 物々交換ということか。
 さっきの老婆の家は肉屋だったのかもしれない。

「またせたね、それじゃあ薬を確認させてもらおうか」
「あいよ」

 俺は傍らにおいていた薬箱を持って移動しようとしたが、

「ここでいい。ここが一番広いんだ」

 そう言ってニューマンは苦笑しながら俺を押しとどめた。
 まぁニューマンがそういうのならと、俺は床に置いた薬箱を開け、注文表を渡す。
 ニューマンが注文表を読み上げ、それを俺が薬箱から取り出して見せ、ちゃんとあることを確認するという感じだ。

「ちゃんと注文通りだな、ところでブラッドニードルはやはり手に入らないかい?」
「今年は難しいな」
「だめか。分かった」
「もうあと一ヶ月くらいで夏も終わるけど、まだブラッドニードルの薬を使う病気が流行っているのか?」
「例年通りだ。だが無いとやはり困るよ。行商人は数を用意していないし無いとわかると足元見られるしね」

 そうした話を少しの間続けていると、外で、叫び声がして誰かが倒れ皿など食器が割れる音が聞こえた。

「なんだ?」

 俺とニューマンは何事かと外に出てみた。
 通りでは同じように民家や商店から人がガヤガヤとざわつきながら出ている。

「声はあっちの家の中だな」
「そのようだね」

 俺の言葉にニューマンも頷く。俺は腰の剣の柄に手を置くと、音のした家へと向かった。
 ニューマンは俺の後ろに続きながら、ふと思い出したように言う。

「そうだ、あの家に住んでいるのはジャクソンという中年の男が1人だ」
「知っているのか?」
「酒の飲み過ぎで何度か診たことがあるよ。去年女房に逃げられてから、酒浸りでね」

 それは怖い。俺も注意しないと。

「酔っ払って転んだか?」
「それくらいだといいけれど」

 俺は玄関をノックした。

「おい、ジャクソンさん。大丈夫か?」

 言ってから耳をすます。反応はない……が。

「うめき声がする、悪いが中にはいるぞ!」

 玄関を開けようとするとガチャリと音が鳴った。鍵がかかっている。
 俺は剣を抜くと、躊躇なく扉の鍵のある部分を貫き、破壊した。

「おぉ、今のがDランク冒険者の技かい?」
「動かない相手なら楽なもんだよ」

 俺はごまかしながら、扉を開け、中に踏み込んだ。
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