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00_プロローグ_3/3

 きんこーんこ・こーん、かんかーんこ・こーん、こんこーん・こ、きんかんこーん……


「お母さん、この曲」

「Auld Lang Syne。随分と旧い曲だよ。昔馴染みと楽しく酒を酌み交わした後、別れ際に、再会を約束して歌った詩だとも伝わる」

「『蛍の光』……」

 トメは、ひとしきり泣いた愛娘に、優しい目を向けながら、こくりと頷いて、

「お前は、昔からこの曲が流れると泣いていたな。……ベソっかきは相変わらずだ」

と、そんなことをしみじみと言う。

「だって、この曲が流れると、いつもは賑やかなステーションが、急に寂しくなるんだもん」

 もちろん、舞台裏では常に稼働している中継ステーションだとは言え、待合ホールの頭上に望む、母星が公転周期を一周する間の一時期に、七日をかけて、駅舎のメインテナンスが行われる。

 その間は、旅客も積荷も出入りのない、普段の駅の喧騒が、夢か現か幻か、遠くに響くアラームや、普段であれば聞こえない、自分の足から生まれ出る小さな靴の音だけが、やけに響いて消えて行く、寂しいところになり果てる。

 サブ電力系の薄暗い、光と闇が曖昧な駅舎の中ならどこででも、ふわふわ光って示される避難経路の投影(ホロ)だけが、なお一層、寂寥感をあおる。

 幼い頃のチハは、この曲が流れる頃には誰もいなくなる改札口を眺め、トメの持つ駅長代理権限で、こっそり送迎用デッキに潜りこんでは出航する連絡船を見送り、いつまでもその行く先を眺めながら、時を追うごとに寂しくなって行く駅舎の空気を感じながら泣いていた。

 だから、チハはあまりこの曲が好きではなかった。聞けば、寂しくなってくるから。

「チハ。落ち着いてきた?」

 そんなトメの問いかけに、チハはコクリと小さく頷いた。

 それを見て、鉄面皮を貫いていたトメが、その面貌にふわりと笑みを浮かべながら、

「仕事は終わったから、今日は無礼講。催事ホールを開放したから、料理を運んだりするの、手伝って? ……どうせ、それでも溢れるだろうけど」

 そんなことを言い始める。

「手伝うのは良いけど……どう言うこと?」

 物心がついてから初めて見るかもしれない、母の笑顔に面食らいながら、チハは、ビックリマークとハテナマークが頭の中で仲良くダンスを踊るのを、必死にこらえてしてそう言った。

 そんな娘の困惑に、トメは、笑顔にイタズラ心を混ぜ込んで。


「言ったでしょう? 『蛍の光』は、皆で呑んで、皆で騒いで、皆で楽しんで。それで、再会を約束する時の歌なのよ?」



= プロローグ:星暦標準時一九八九/〇一〇一/〇〇時のお話: 了  =

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