00_プロローグ_1/3
二つの人影だけが佇む巨大な待合ホールに、ゆったりと物悲しいメロディがこだまする。
向き合う二人が着ている服は、背中に大きく垂れ下がった四角い襟が特徴的な、白を基調にしたトップスで、襟と袖にはネイビー・ブルーのラインが二本入っている物だった。
下に目を向ければ同じく真っ白いスラックスで、こちらはサイドに二本、同じように線が入っている。
チーフリングで胸元に纏められている、清潔そうな空色の大きなネッカチーフまで一緒の格好だったが、肩章と胸章の細かい部分はともかく、袖の肩口と背中に描かれているシンボルマークは、色も形も一目見ただけで二人の所属が異なることを、素人目からでも判断できるようになっていた。
船乗りが着ていたことから名付けられたと言われるその服は、最早化石時代の産物だったが、今もなお、連航……汎銀河独立国家共和国連邦航空宇宙運輸事業団……の制服として指定されている。
太陽風帆船の時代だったなら、まだ帆船乗りと言い張れたのかもしれない、そんな格好だ。
はぐるまの噛み合うカチリと言う音と、ぜんまいの弾けたびぃんと言う微かな余韻を響かせた、この空間には似つかわしくないほど年代物で、その前に立つ二人より余程巨大な振り子式置時計の、文字盤の上のよろい戸を開閉させながら、作り物の真っ白い鳩が、「ぺぽっぺぽっ」と間抜けな声を上げ、出たり入ったりを繰り返す。
その数、実に十二回。
制服を着用した二人のうち、背の高い方は何かをこらえながらそれを見上げ、もう一方は、既に諦めているのか、その表情からは何も読み取ることができない。
まぬけな鳩が巣に戻り、ぴかぴかに磨きあげられた大きな真鍮の鐘が、がろーん、がろーんと時を告げたあと、時計は再び沈黙する。
広いホールを駆け巡った一時の喧騒は、そのまま改札口を飛び越えて、階段やエスカレータを駆け登り、あるいは降り、ステーション全体に時を告げに行ったのだろう。
あとに残されたホールには、振り子式置時計の心臓のテンプが刻む、かちんかちんと言う音だけが、微かに聞こえるだけとなった。
二人の女は、どちらからともなく互いに顔を見合わせたあと、それぞれに片足を後ろに引き、くるりと身体を翻して正対し、右手をまっすぐ上に引き上げ、指先を眉の位置に持ってくる。
敬礼だ。




