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見えるモノ

「リーナ、陣を引いて」

「りょーかい!」

「じゃあ、前に出るよ、僕は」

「任せるわ」


 三人が三人息の合った言葉とその言葉に移しながら行動を始める。

 その動きに迷いはない。

 まるで決められた動きを決められたようにやるかのごとく、はっきりとした動きで彼らは動いている。


「え、えっと……」


 それに私は思わず困惑してしまう。

 身動きが取れなくなってしまう。


 私は何をしたらいいんだろう。私は何が出来るんだろう。

 そもそも、私が三人にできることなんてあるのだろうか。私が得意なのは回復魔法だけ。いや、それだけなら、それだけなりにできるんじゃ……。


 思考が頭の中を走り抜ける。


「エイダ、貴方は私の後ろ。みんなの体力管理。回復をお願い」


 駆け抜けた思考と同じ指示。ただ、その指示を受ける前から体は動いていた。その動きは自然と体を動かしていた。


 無意識中に理解してしまっていた。


「我は見通す。周囲の者の体力を我が視界に映せ」


 魔力を言葉にこめて、魔法を発動させる。

 そして、見る。


 私の視界に映る、いくつものバー。

 これが尽きることがなければ、人は死なない。このバーは世界が太古の昔、神が人間に与えた、魂を現したものだと言う。


 その云われ通り、私の視界には体力のバーが見えている。

 回復魔法という人の生き死にを左右する魔法を極めていたから、当然のようにその魔法の効果は確かだと知っている。


 蒼真との旅でも見えていた。

 見えていたからこそ、彼の強さを知っていた。

 普通の人の体力が、多くて千だとするなら、蒼真の体力は十万。まさしく文字通り桁が違った。

 普通に考えるなら、百人分の力。

 ただ、体力だけが高いなどまずありえないことを踏まえると、実質の強さは一国の軍隊だとかと比較してもまともにやりあえそうなほどでもある。


 ちなみに、私は体力がちょうど千。

 アイリスが八千、リーナは四千、グレイは五千とこちらはこちらで普通ではない。類稀なる力を持っている。


 アルバート様は見えなかった。

 何故かは分からない。


 けど、見ようとしても見えなかった。

 もしかしたら、私の知らない、もしくはアルバート様自身のオリジナル魔法なのかもしれない。



 他の人の体力をよく知る私だからこそ、蒼真が絶望を口にする悪魔に戦慄した。感覚でも理解してしまった。ゆえに、私は後悔している。


 分かっていたのに。

 そう、分かっていたのに、彼から離れた。


 その後悔は私を蝕み、どん底へと叩き落とした。

 そこから拾い上げてくれた人たちがいなければ、今こうして前に進めてすらいないだろう。


 彼にもう一度会うために行動できていなかっただろう。


 ゆえに、私は役目を全うする。

 体力は全員満タン。


「了解です。任せてください」


 大丈夫。

 きっと、このみんながいれば、大丈夫。私たちならこんな襲撃者なんて乗り切れる。こんなという表現にどうしてもなってしまう。


 悪魔なんていう化け物を見てしまったら。

 それ以外の生物なんてまだ何とかなる可能性があると思えてしまう。

 たとえ、魔力探知でどれだけ気味の悪いものを見たとしても。


 今まで気づかれぬように尾行を続けていた者たちはあっさりと姿を現した。

 黒頭巾の顔がはっきりと見えないその風貌は暗殺者という言葉が似合いそうな服装。


 陰に潜みやすくするためか、全身真っ黒で、動きやすくするためかぴっちりと体に貼りついているような服である。

 そんな彼らの腰には、様々な呪詛が刻まれたお札や刀などといったものがぶらさげられており、明らかに怪しい集団である。


 グレイは一気に前に出て、その集団のほうへ一気に駆け込む。


「待たれよ」


 重圧感。


 言葉というものが重さを持っている。

 上から踏みつぶされようとしているかのような緊張感を与えるその言葉は静かに私たちへと染み込んでいく。


「あら、何のつもりかしら?」


 だが、それでも臆することなく、アイリスは言葉を口にする。

 彼女の声にはその言葉の重みを払拭するような力が込められていた。そう、力が。


 私は、はっとして気づいた。


 魔法だ。単純な呪文ではないそれは魔力を潜ませた呪詛だ。相手を徐々に飲み込んで行こうとするその荒波に飲まれたら最後。

 帰ってこれなくなる。


 それをはっきりと自覚すると同時に、そのことにいち早く気づき、振り払ったアイリスの力に驚きを隠せない。


「やはり、一筋縄ではいかないか」

「私は“何のつもりか”と聞いているの。その意味が分からなくて?」


 先ほどよりも強い言葉を投げかける。

 そこには、隠すことのない殺意が含まれていた。何のつもりかと問うているのに、それでもなお魔力を込めた言葉を投げつけるのをやめない無礼者たちへの怒り。


 目の前に立っていれば、足が竦んで動けなくなりそうなその声音に私もひやりとする。


 だが、不思議と恐怖心はない。


 彼女の優しい姿を知っているからだろうか。


 目の前に立っていないからだろうか。

 それは分からないけれど、彼女の思いは見える。


「失礼した」


 そう言って、詫びた言葉には今度こそ魔力は含まれていなかった。

 そう一瞬思った私の心を裏切るように、


「殺すわよ?」


 そう言って、アイリスは魔法を展開した。

 相手に聞こえぬように、私たちにすら聞こえないほどの小声で早口に呟かれたそれはアイリスの周囲の空間を歪ませる。


 本気だ。

 一瞬で殺せるような状態に入った。


 私は少しばかり自分の未熟さを恥じるべきなのだろう。おそらくはあの言葉にも何かしらの魔法が組み込まれていた。

 それを一瞬で聞き分けたからこそ、アイリスは次はないと告げたのだ。


「フフッ。交渉と入ろうか」


 だが、確実に迫る死の匂いにおびえた様子を全く見せることもなく、目の前に現れた者はにやりと笑うのだった。


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