追跡者の影
「久しぶりね~、こんなふうに外に出るの」
「だね。本当に久しぶりだ。ここ五年間はずっとあの街に籠って、アルバート様に教えを受けていたからね」
私たちは歩いていた。
アルデバラン周辺の様々な草木が生える平原を越え、森に入ったところ。
青々とした葉を見せつける樹を見て、私は良い状態で育っているなと思った。不健康な樹は見れば分かる。
それは森で過ごした経験によるもの。
他にも、森が鳴らす警鐘や水源の位置の推測などと言ったことなど様々なことに役立ったりする。
まだここは村の森と環境が近いから、分かりやすいな。
そんなことを思いながらも、私は同行する仲間の三人と会話を続けていく。
「そうなんです? 街の中ばっかりで生活してたんですね」
「でも、退屈はしなかったな~」
「なんで?」
「だって、この街広いじゃん? 正直奥地にある店も含めだしたら色々ありすぎて、まわりきれる気がしないよ」
「本当にそうね。気づいているわね、みんな」
「そうですね。私たちって人気者です」
「そうそう、優しく迎えてくれる人ばかりだし」
「あんなに優しくされたら、なんだか心が温まりますし、本当に退屈はしないですね」
普通に会話しているように事情を知らぬ人からしたら、見えてしまうその会話。
だが、私はその会話の真意には気づいていた。
本当にそうね。気づいているわね、みんな。私たちが尾行されてるってこと。
そうですね、つけられていますね。僕たちって人気者みたいです。
そうそう、優しい人ばかりだし。けど、悪い人もいるわね。
あんなに優しくされたら心が温まりますし、その分悪意には敏感になります。本当に色々人がいて退屈しないですね。
先ほどの会話を翻訳してみると、このような感じだ。
もしかしたら、多少誤差はあるかもしれないが、誰しも妙な含みを感じさせる言葉だった。
それは、あくまで尾行に気付いていないというアピールだ。
普通に会話していると錯覚させるためだ。
奇襲を仕掛けたと思いあがっているところを、一気に討ち取ろうという意思の表れだ。
彼女たちは鈍くない。
私よりもずっと周りに気をまわしている。
自然なように振る舞っているその視線、人と話しながらも周囲の音を聞き分けているその聴覚、体に宿る感覚や魔力による探索それら全てを用いながら進んでいることに気付いた時、私は唖然とした。
私はそこまで器用じゃない。
少なくとも、魔力による探索だけで手一杯だ。
慣れなのかもしれないけど、そこまで熟達できるのにどれだけの苦労をしたのか想像に難くない。
彼女たちは達人だ。
旅をするのに慣れている。旅をするという行為に対して、きちんとした心構えとその術を兼ね備えている。
「ごめんなさい、少し休憩しませんか?」
「どうしたの?」
「ちょっと歩き疲れちゃって」
嘘だ。
まだ街を出てから二時間しか過ぎていない。蒼真との旅路では五時間ずっと歩き続けることもあったし、村での暮らしでも森の中でしばらく歩き続けたことだってある。
それなりには歩くことには慣れている。
「そうね、少し休憩しましょうか」
そう言って、アイリスは休憩を受け入れる。
彼女も私の意図は分かっている。そう、疲れているというのが嘘だということも理解してくれている。
ちょっとした目配せをこっちに送ってくれるあたり、彼女は親切だ。
「そこにちょうどいい感じに腰かけられそうな岩場あるから座っといたら?」
リーナがこちらに優しく声をかけてくれる。
その笑みは演技とは思えないほどに自然で、正直なところ、リーナは本当に私が疲れていると思ったんじゃ……と考えたりした。
私はリーナに促されるままに岩場に腰かけ、すっと目を閉じた。
魔力を広げる。
半径一キロ程度の広い円を描きながら広がりゆくそれは、その地の情報を私に返してくる。
追跡者の数は十二。
それぞれの得物は短剣に大剣に杖などといった具合に多種多様。
さらに一人だけ格別の魔力を持った人間がいる。その傍には、人とは違うどこか禍々しい気配を漂わせる何かが一匹。
何なの、こいつは。
人ではない……と思う。
こんなのが人とは思えない。
吐き気がするほどに気持ち悪い気配。悪魔のような気持ちの悪い魔力とはまた違う、なんというか畏れを抱かせるようなどこか近寄りがたい存在。
そう、まさに化け物と呼ぶのにふさわしい。
「エイダ、大丈夫? 本当に顔色悪いよ」
「ええ、大丈夫。気持ちの悪いものを見てしまって」
その言葉の瞬間、私の顔を覗き込んでいたリーナの顔色が変わった。そして、私にだけ聞こえるように囁いた。
「あれはやばいね。本当に気持ちの悪い感じがする」
そして、何事もなかったかのように顔をエイダから遠ざけて、
「水を少し取ってくるね」
そう言って、リーナはすぐそばにある川に水を汲みに行った。
それを尻目に近づいてくるアイリス。彼女の表情はいつもと変わらぬどこか余裕が感じられる優しい表情で、それは私を安堵させる。
そばに人がいてくれるってだけでこんなにも安心できるんだ。
一緒に旅が出来て良かったと勝手ながら、私はふと思う。
「大丈夫よ、私たちがついてる」
フフッと唇に手を当てて笑うその姿はどこかお淑やかで、女の私も少しだけドキッとしてしまったのは秘密である。




