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この世界に生きる人々

 一週間が過ぎた。

 あれからアルバート様は一回も私の部屋を訪ねてくることはなかった。

 伝えたいことだけ伝えて、それっきりだ。仕事が忙しいのか、それとも、過度な干渉はしないと決めているのか。


 そんなことは分からない。分からないけど、ちょっとひどいんじゃない?


 少しぐらい、慰めてくれたって……、ううん。こんなこと考えるのは間違ってる。これは私の問題だよね。


 私がどう進むかなんて、他人に諭されて決めるようなものでもないし、まして、あっさり決めていいものでもない。


 心に空いた穴は決して埋まらない。


 蒼真が今ここにいないというのは事実で、しかも、どこにいるのか、生きているのかさえ分からないのも事実。


 それがどれだけ不安なことで、さびしいことで、悲しいことか。

 好きな人がいなくなるって、こんな感覚なんだね。


 どうすればいいか、分からないよ。


 そんな思いの中、私は街へ出た。

 部屋の中でうずくまって、沈み込んでいるようでは何も変わらない、そう思ったのだ。


 そんなふうに思えるだけ、少しは時が心をいやしてくれているのかもしれない。



 街は賑やかだった。


 時間は昼下がり。

 日の光に照らされたレンガ造りの家々やその近くに開かれた様々な種類の露店。水晶を加工して作られたネックレスなどと言ったアクセサリーなどを売っているお店や自慢の焼きたてパンを売る店。


 それらの店主と同様の、いやそれ以上に活気に満ちた客たち。

 そう、華やかだった。


 王族とかそういう天上の人々みたいな優雅な生活があるわけではなくとも、この場はとても輝いていた。


 そんな中、私は一人暗く沈んでいる。

 私一人、浮き出ている、そんな感覚すらする。


「お嬢ちゃん、どうだい。この果物食って行かないかい? おいしいよ」

「いえ、私は……」


「そんな暗い顔してなさんな。これはわしからのプレゼント!」

 そう言って、果物屋さんの店主は赤い果実を私に無理やり手渡した。

「あ、ありがとうございます」


「いいって。でも、今度来るときはもっと明るい顔してきなよ? せっかく可愛いんだから」

「こら、何言ってんの、あんたって人はもう……」


 横から出てきた店主の妻らしき人は、店主の頭は一回殴って、こちらに笑いかける。

「ごめんね~。何があったか分からないし、慰めてあげることも出来ないけど、頑張ろ? ね?」


 おせっかいだとは思わなかった。

 嬉しかった。誰とも知れぬ、ただ一人の少女の私にこんなふうに声をかけてくれたこと、そのことがとても。


「ありがとう……ございます……」

「次来るときは何か買ってくれよ!」


「はい!」


 そして、私は人で賑わった通りを歩いていく。

 そうすることで、塞ぎ込んだ私の心、それが少し楽になる気がした。



「おい、このガキ。何盗んでんだ!」

「俺にはこれが必要なんだ!」


 十歳になるかならないかの一人の少年が四十センチはあろうかという大きな魚を二匹抱えて、走っている。


 四十代後半ぐらいの男がその顔を皺にゆがめながら、そんな少年を走って追う。

 だが、人通りが多いで、店主は思うように動けず、少年はその小さな身を活かして、するりするりと人の間を抜けていく。


「カイラのおっちゃん、あの少年か!?」

「ああ、そうだ」


 そして、店主に変わり、とある青年が少年を追いかけ始める。

 それらの光景に、少年を止めなきゃとも思うけど、少年にも何か訳があるんじゃないかなって思ってしまう自分もいて、周りの人々と同じように私も傍観する。


 そして、私にも少年が見えなくなってしまってから少し経った後、青年も同じように少年を見失ったらしく、店主はとぼとぼと力ない足取りで店に戻って行った。


 一騒動が幕を閉じれば、その場に一気に活気がよみがえる。

 まるで、何事もなかったかのように。


 けれど、そこには確かに、おじさんの品物を盗まれた無念と少年の必要なものを盗めたという安心感はあったはず。


 そんなものは周りに大した影響を与えない。

 あるとしても、知り合いか誰かのおばちゃんが、品物を盗まれた店主に慰めの言葉をかけるぐらい。


「この魚、どうだい? 今朝川で獲ってきたばかりの新鮮なものよ、美味しいぜ~」


 おじさんはずっと凹んでいても、仕方がないと分かっているから、また商売を始める。そうして、再度日常が戻る。


「ほらほら、お客さん。今のうちに買っとかないと、これからしばらく食べられないよ」


「ねぇ、このお店良さそうじゃない?」


「お、今日めっちゃ安いじゃん、どうしたのよ?」


「これ以上の値下げは勘弁してくれよ、ここまで安くしてるじゃんよ」


 がやがやと騒がしくも、それはどこか心地いい。

 人が思い思いに生きている、そう実感できるから。


 そういえば、蒼真言ってたな。


 この世界はゲームというものなんだって。

 仮想の物で、作られたモノなんだって。


 ゲームがどういうものかとかなんてよくわからない。


 けど、一つ分かることならあるよ。


 それっておかしいなってこと。

 この世界の人って、みんな決められた通りに動いているわけじゃない。


 こんなふうに、みんな悩んだり苦しんだり、楽しかったりしながら、必死に生きてる。それは決して作られたモノなんかじゃない。


 そう、私だって。

 こんなに悲しくって、どうすればいいのか分からなくなって。でも、一人で考えなきゃいけなくって。


 こんなもがき苦しんでいるのが、決められた一つのルートなんていうのはあり得ない。


 どう考えたって、これが作り物なんて思えない。

 誰でもない私が考えて、選んでいるんだ。


 でも、それなら。


 蒼真はこの世界の人間じゃない。


 そうだとするなら、この世界で死んだとしても、真の意味では死んだことにはならないんじゃないの?


 彼は自分がどういう扱いなのか、よくわかってないみたいだったけど。


 まだ、希望はもしかしたら……。


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