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この世界の秘密を知る者との邂逅(前編)

「助けに来ましたよ」


 どういうことだ。


 悪魔はまだ会ったことがあるから分かるにしても、この天使のようなやつにあった覚えはない。


 だから、警戒していたというのに、向こうはこちらを知っているみたいではないか。


 さらには、助けに来ましただと……?


 人であるようで、人にはないはずの翼を携えた女性。

 彼女は一体何者なんだ。


「 」


 口を開こうとするも、声が出ない。


 本当に何もできないじゃないか。

 四肢を切り飛ばされ、体は固定され、声も出ない。


 どうやら、体の限界が近いらしい。

 もう長くはない、俺は自分の体の状態を鑑みて、否が応でもそれを理解させられた。


「ええ、聞きたいことが色々あるのは分かっています。でも、それは後です。それより先にあなたを治療しないと」


 敵ではない、そう願いたい。

 その言葉に偽りがないことを願いたい。


 けど、俺にはもうその言葉を信じるしか道が残されていなかった。どうせ、死しか待っていないであろうこの命なのだから。


「眠りなさい。私の空間に連れていきますから」


 その言葉に、まるで魔力でも込められているかのように、俺は意識を失った。




 だが、目覚めはすぐであった。

 いや、すぐだと感じているだけで、実際には長かったのかもしれない。


 何もない真っ白な空間。

 視界に映る全てが混じり気のない白色で作られた空間のそこで、俺は横たわっていた。


 そのそばには先ほど声をかけてきた者がいて、俺の体を治癒しようと魔法を使っているのが分かった。


 その者の表情は厳しく、額から汗が滴っており、真剣であることがはっきりと窺える。


 何故、ここまでして俺を助けようとしているのか。

 見ず知らずの他人の為に、何故悪魔という強敵にすら攻撃を仕掛けたのか。


 いや、相手から見たら、俺のことは見ず知らずの他人というわけではないのか。俺が知らないだけで。


 目の前にいる者は俺が起きているのに気付いて、優しい笑みを向けると、

「そうね。色々話すべきことがあるのだけど、まずはごめんなさいと言わせてもらいます」

 そう言った。

 何に対して、ごめんなさいなのか、何に対する謝罪なのか、全く分からなかった。


「……ッ。ごめんなさい?」


 両腕、両足ともに修復されていない。

 それどころか、四本の黒い杭ですら抜かれていない。だが、寝ている間に声が出せるようになるまでは体を治してもらえたらしく、声を出して俺は聞いた。


「ええ、そう。疑問に思ったことがなかった? なぜこの世界に召喚されてから、直接的に何のアプローチもないのかについて」



 それは確かに疑問に思っていたことだ。


 異世界転生だとかであれば、転生を行った者によって説明がおこなわれてもおかしくないはずだった。


 もし、ゲームの世界に閉じ込められたということなら、運営がその旨を伝えてきてくれても、おかしくないはずだった。


 前者は単なる小説とかで読んで、そんな展開が多かったから思っただけで何も確証がないわけだが……。


 まぁ、ともかく、何かアクションがあってもおかしくはないと思っていた。


 そして、そのアクションが正邦レポートであり、この世界が完全に正邦が意図したものでもないもので、何かおかしなことが起こっているという程度に認識していた。


 アクシデントで、何も接触がないのだと勝手に納得していた。


「あの悪魔とかの干渉が激しくてね。君があの悪魔の注意を引き付けてくれたおかげで、私があいつに気付かれないまま、攻撃が出来た。そして、ようやく接触することができた」

「俺をこの世界に呼んだのは、まさか……?」


「そうね、私よ。だから、そこについては話していかないと。本来ならこの世界につれてきて最初に話すべきことだったんだけど」


 どうして、俺がこの世界に連れてこられたのか。

 ここがそもそもどういう世界にあたるのか。


 俺の推測が正しいのか正しくないのか。


「まず、この世界は、君たちの言葉で言う異世界であると同時にゲームなの」

「どういうことだ」


 正直な気持ちだった。

 異世界であり、ゲーム。


 それは重ねて言うべき必要のない言葉だ。ゲームならゲーム、異世界なら異世界と断定されるはずだから。


 別名という意味合いで言葉を使ったような口ぶりでもない。

 それゆえに、俺には言葉の意味が理解できなかった。


 異世界であり、ゲーム……。どういうことなんだ。


「あなたたちのアルタートラウムはあくまでゲームだった。けど、リアルすぎたのがいけなかったのかしらね。元々あったこの世界、君たちの世界の言葉で言うなら、異世界アルタートラウムは、君たちの世界に作られたゲーム世界アルタートラウムと同期するようになってしまったの」

「信じられない……」


 理解できない。

 いや、言いたいことは分かる。


 だが、それを理解して、信じることなど不可能に等しかった。ゲームで作られた世界があまりにもとある異世界と似すぎて、その二つの世界が同期する?


 何を馬鹿なことを言っているんだ。

 そんなこと有り得るわけがない。


 世界を構成する法則さえも全て壊しそうなことを、何平然と言ってるんだよ。


「そうでしょう。でも、確率の問題として考えるなら、これを考えてみなさいよ。何もしていない普通の生活をしていたただ一人の人間が突然異世界に飛ばされる確率なんて、それもまたとてつもなく低い確率なんじゃないかってこと」

「……」


 正論だと思ってしまった。

 納得はしていない。決して、納得はしていない。


 だが、普通に考えたら、こんな魔法のあるような世界に突然送り込まれるなんてことがあり得ないのだ。


 といっても、この女の言葉を完全に信じられるかと言われると、そうでもない。

 突然出てきたような者が言ったことに、はいそうですかと簡単に納得できるほど、俺は人が出来ていない。


 少なくとも、一つの答えとして、俺は耳を傾ける。

 実際問題どうなっているのかは、どうにかして検証していけばいい。


 まぁ、そのどうにかしてというのもあてがないわけだが。


 だから、今回はとりあえず、納得しておこう。そうしなければ、話が全く進まない。それに今俺がアルタートラウムにいるということは確かなのだから、少しばかりは信じてもいいと思う。


「困惑するのも分かるけど、事実はどう足掻こうと変えられないわよ」

「……。納得するしかないか……」


「きちんと割り切るのね」

「割り切るしかないし、お前が言うように、そもそも俺がこの世界に降り立っている時点で、考えられないこともない可能性の一種だ。まず有り得ないから、完全に納得したわけではないさ」


「そうね。ゲームとして成長し続けてきた世界が本当に実在する異世界と全く同じ、寸分たがわぬ成長をするなんて、あり得ない話よ。可能性で言うなら、星の数を分母に置いた確率よりもずっと低い。本当の意味で、あり得るわけがない話なのよ」

「でも、そうなってしまったってことなんだろ?」


「ええ。どんなに低い確率でも可能性はゼロではない。それゆえに起こった現象だから、そう納得するしかないわ」

「いくらなんでも、似すぎたからと言っても、同期するなんてありえないんじゃないかとは思うけどな」


 とりあえず、似たような世界が出来ることまでは納得することにしよう。

 それは可能性の一部として考えようと思えば考えられるから。


 だが、二つの世界が同期するとなると、話は別だ。


 有り得ない。


 どう考えてもおかしい。


「その原理は分からない。けど、同期し始めた瞬間、この世界で異常な力を持つ魔法が使われたのを感じた。残念ながら、私がその場に向かった時には、そこにあったはずの大陸が全て消し飛んでいただけで、誰も残っていなかったのだけれどね。原因はその魔法にあると考えているわ」

「大陸が一つ消えていた!?」


「ええ。しかも、この世界に生きる人間の記憶をいじって、その大陸自体なかったことにされてたわね。どう考えてもおかしい。ただ、これに関しては君たちの世界にいたゲームマスターによる干渉ではないことは確かよ。同期する前の出来事だから」


今回は、一話がいつもから考えると異常に長くなってしまったので、前後編としてお送りします。

後編は一時間後に更新いたします。

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