死闘の果てに
後光が差した。
死ぬ瞬間というのは、そんなものすら感じてしまうようになるのだろうか。
その瞬間を楽しむように、俺の絶望する顔を嬉しそうに眺める悪魔は、その黒い杭をゆっくりと動かしていた。
だからこそ、見れた後光。
そこには人影が見えた。
けれど、それは人ではない。
金色に染まった翼を携え、頭の上には光り輝く白い輪を浮かばせている。
顔の造形や体の特徴は人間の女性とそっくりなそれは、遠目でもわかるように、にっこり笑った。
少なくとも、あんなの見たことがない。
だから、あれが何なのか分からない。
けれど、ただの人間ではないことは、その体の造形や雰囲気などといった様々なことからはっきりと分かった。
これから死にゆく者の見送りか。
なら、甘んじて受けるべきだろう。
死に瀕すると、それまで必死になってきたことですら、その意識から外れる。
俺の意識は、すでに死を受け入れてしまっていた。
たとえ、それが人として正しい死に方ではなくとも。
たとえ、俺の意思に背くようなものであっても。
その空に浮かぶもう一人の翼を携えし者は、右手をゆっくりと上げると、一瞬で一つの槍を作った。
だが、それは普通の槍ではない。
物質的な要素を感じさせないそれは、光かそれとも蜃気楼か何かの幻なのか。
存在がおぼろげで、今にも消えてしまいそうで。
けれど、どこか力強く、温かさを感じた。
そして、俺は見た。
その槍が放たれ、俺の目の前にいる悪魔を貫かんとしていることに。
それに悪魔は気づかない。
俺を殺すことに対してぞくぞくとしているその表情から見るに、俺にだけ意識を向けているようだ。
だから、その槍は当然のように悪魔を貫き、俺も巻き込んで貫くものだと思った。
そう、なぜか、そのように感じた。
俺が全力を出しても全く歯が立たなかった悪魔がこの槍を受けるのだと。
事実、槍は目にも止まらぬ速さで、まるで光そのものかのような速度で、悪魔を貫いた。
だが、俺の予想とは少し違った。
悪魔は貫いたが、俺は貫かれなかった。
悪魔はもがき苦しんでいるが、俺には何も変化がなかった。
光り輝く槍は、俺の目の前で霧散し、跡形も残さず消えた。
「アルテミスか。くそ、厄介な奴が来やがった」
悪魔は後光に照らされる翼を携えし者の正体を知っているようで、舌打ちしながら言葉を口にする。
俺の攻撃では一度も苦しまなかった悪魔が、翼をもった、まるで天使のような存在によって放たれた光の槍で苦しみ、もがいている。
「仕方ねぇ。この傷じゃ相手取れるやつじゃねぇし、退かせてもらう」
そして、悪魔は消えた。
まるでそこに何もないのが自然なように、あとかたもなく。
ただ、俺を殺しかけた、その事実を残して。
一見救ってもらえたように見える状況。
これを見たところで、あの天使のような存在が仲間であるとは限らない。そう思えるほどに、俺の思考はおかしくなっていた。
近づいてきている。
逃げなければ。
そう思いながら、俺は体を動かそうとするも、動けなかった。
そう、黒い杭が俺の四肢をすべて地面につなぎとめていたのだ。磔にされた状態で、しかも、本来動かせるはずの手や足が全てなくなっている。
笑うしかない。
悪魔という脅威は去ったものの、それを追い払うだけの力を持った、敵か味方かわからないような存在が近づいてきている。
もう味方であることを祈るしかないというわけだ。
「ようやく会えましたね」
その天使は口にした。
「一条蒼真」
一度も会ったこともないはずの俺の名前を。




