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二人の旅

「さて、始めるか」

「はい、始めましょう」


 次の日の朝、これまた十時。俺はアルバートの工房にいた。いや、俺はというより、俺たちはというべきか。


 俺の周りにいるのは、エイダ、アイリス、グレイ、リーナの四人。

 それぞれがそれぞれの作業に必要な物を持って、イスに腰掛けている。


「とりあえず、これ」


 そう言って、俺は机の上に複数の紙を置いていく。


 といっても、当然、適当に置いているわけではない。

 一人一人に対して、別の紙を置いているのだから。


 エイダの前には、これからの予定の詳細をまとめた紙。


 グレイの前には、生産を行う上で理解しなければならない事柄をまとめたレポート。


 リーナの前には、客に対してセールスをするうえで技術者が気を付けなければならないことをまとめた紙。


 アイリスの前には俺の書いた大元となる設計図。



 昨日の夜までアルバートの言葉に思考を割いていたため、これは今日の早朝に書き上げた物である。


 午前三時に起床し、それからずっとこれらのレポートを書き続けた。


 高専在学時は、普通にレポートを夜中から始めて、徹夜したことがあるから、まだ寝ている分、マシではある。


 マシではあるものの、それは眠くないという意味ではない。


「多分誤字脱字はないと思うが、もしあったとしても今日作った物だから許してくれよ」


 そう笑いながら、口にする俺。

 笑ってなければやってられない。


 正直に言うと、現在進行形で眠気との戦闘中である。


「綺麗に纏めてくれて、ありがとう。これで作業も、だいぶ捗ると思うわ」


 それはアイリスの言葉。


「すごいです。なるほどと思うようなことばかりで、しかも知らないことばかり書かれていて、興味深いです」


 それはグレイの言葉。


 彼に渡したレポートには、現実世界における効率の良い生産に関することや原価計算などといったことまで書いている。


 といっても、それは、ほんの一部にすぎないので、これから先も新たなレポートを作らなければならない。


 だが、苦労して作った物がすごいと褒められるのは、単純な話、嬉しい。


 嬉しいからこそ、続きを作る活力になる。


 これで批判ばかり受けていたら、メンタル的につらい。


 批判と言っても、ここはこうだからこうだと思うんですけど、どうですかといった感じの自分の意見をはっきりと述べた上での物なら、それだけ俺の書いた物に対して興味を持っていることなのだから、歓迎するが。


「確かに、面白い。あなた、商人としての才能もあるんじゃないの?」


 それはリーナの言葉。

 今いる世界になくて、俺の現実世界では当然のように使われている技術の数々。

技術者であれば、心得ているであろう事柄。

 

 それは、俺にとっても、俺の元いた世界にとっても、当たり前のこと。


 だが、それは、世界が違えば、当たり前ではなくなる。

 それは、技術というモノが当たり前ではない世界では当たり前ではなくなる。

 それは、技術というモノの代わりに、魔法が発達したファンタジーのような世界では当然のことではない。


 そんな常識が通用しない世界。

 そんな常識が、特殊で新たな見方だと、素晴らしいと、認められる世界。


 それを俺はこの場で改めて自覚する。

 それは、この世界が俺が元いた現実世界とは隔離された、また別の世界だと認識を新たにさせるうえでは十分すぎるほどで。


 だからこそ、俺は苦笑しながらも、こう言葉にする。


「さぁ、始めよう。これが俺たちの旅の一歩だ」


 エイダのことを見ながら。


「ええ、蒼真。私たちの旅はこれが一歩となるのですね、本当の意味で」


 それに対して、エイダはこう答える。


 エイダという俺が異世界人だと知る唯一の存在の仲間。


 彼女と歩き進みゆく道というのはこれから始まる。

 秘密を共有し、互いのことを本当の意味で知り合った二人の旅は。



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