進みゆく目的
結局、俺自身には分からなかった。
何を俺が求めていて、何を目指しているのか。
宮本正邦、彼が結局今の目的にも関与している。
そう、この世界を突き進んでみせようという一つの目的に。
けど、それは今の目的であって、アルバートの言う質問とは意味が違う。
そして、それを考えていくうちに、俺はアルバートに対して探りを入れ忘れてしまっていた。
そうして、時はあっという間に流れてゆき、今は宿の部屋の中。
老婆やエイダと食事時に何か会話していたとは思うが、その内容がおぼろげになるほど、俺はあの質問の答えを探していた。
「…う…、…うま、蒼真!」
「えっ、あっ、なんだ、エイダ」
エイダの最大限に張り上げられた声に、俺ははっとする。
「なんだエイダじゃないですよ。何度呼んでも、全く答えないで」
「すまんすまん。俺、そんなにやばかった?」
俺はそう言って、笑って見せる。
ぎこちないとは分かっていても、心配をかけすぎないためにも、おどけてみせた方がいいとは思うから。
エイダ、彼女の瞳をしっかり見つつも。
「そりゃあもう。アルバート様の屋敷を出てからは、ずっと何かを考え込んでるようで、どこか上の空でしたもの」
「ごめんな。ちょっと考え事を…」
俺がそう言いかけている最中、
「蒼真が何を目指しているか…ですか?」
エイダは一言そう言い放った。
その言葉は俺の悩みそのものを言い当てるモノで。
その言葉は彼女が発するからこそ俺の心に響くモノで。
「……。ああ、そうだな」
だからこそ、俺は素直に認めた。
素直に認めることで、悩みを打ち明けることにした。仲間である彼女に。
「そんなもの決まっている人の方が珍しいですよ」
「えっ…?」
エイダから発された言葉は衝撃的だった。
「だって、君は何で生きているの?と似たようなものじゃないですか、その質問」
「いや、そうだとしても」
そんなに簡単に言い切ってしまっていいのだろうか。
そう思うからこそ何かを言おうとするも、何も言えずに、言いよどんでしまう。
「そんなことが簡単に決められるんだったら、人生はそんなに長くないと思いますよ。それこそ、十年とかで十分です」
「そんなことないだろ。目的があれば、その目的に向かって何年でも」
そう目標、意味、それらを見出してしまえば、どこまでだって行ける。
そこに強い意志が伴えば、きっと。
「そう、見つけてしまえば、意外と簡単なんです。うちのお父さんは、私とお母さんを守ること、それが生きている意味だなんて、所構わず言っていましたけどね」
エイダはちょっと照れくさかったのか、顔をそらす。
だが、そう語っていた時の彼女はどこか誇らしげな表情をしていた。
彼女は尊敬しているのだろう。そんなふうなことをはっきりと宣言できてしまう、そんな父親を。
「でも、そんな人生の目的を見つけるまでは、村のためにだとか大義名分はあったから、それに従って、村を守る役目を担って、ただただ生きていたなんてことも言ってましたよ。昔の自分でも想像もつかないようなところで、突然それは決まったんだって」
そう言いきった後に、彼女は一笑いしてから、
「おかしな話ですよね。生まれてから、ずっと一緒だった自分のことについて分からないなんて。でも、それを探していくのが若者の特権であり、それを見守るのが親の義務だなんて言ってましたよ。現に、だからこそ、私を旅に送り出してくれたわけで」
そんなことを言う。
自分よりも長く生きている者の言葉。
自分よりも長くこの疑問の答えを探した者の言葉。
それはどこか、流れ込むかのようにすっと入り込み、心の中で落ち着いた。
「私も、生きる目的、そんな大層な物なんてわかりません。けど、いつか見つけられたらいいななんて思いながら、日々を楽しませてもらっています。蒼真とね」
そう言って、一回一区切りとして間をおいて、
「だから、その答えというのは、これから先の旅を通して、見つけていったらいいと思いますよ。それは、たとえ、蒼真がこの世界の住人ではない人間だとしても一緒のことだと思います」
彼女はそう言葉にする。
そして、見つめてくる。
小動物のように感じた可愛らしい目。だが、そこに弱者のような気配はない。
そこにあったのは、俺と言う異世界人のことを信じていることを証明する真剣な眼差し。
ここだけは譲らないといったきっぱりとした強い意志。
「すまない。ありがとうな。焦らず、探してみるよ。俺の生きる意味、それを」
だから、俺はこう言葉にするのだ。
きっと、すぐには見つからない、そんな答えを探すために。




