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異世界初のパーティー

「エイダ。これを」


 俺はエイダに一振りの短剣を手渡す。鍔に埋め込まれた魔石が見せる輝きはこんな混沌とした状況でも変わることはない。


 そこに宿る魔法は常に発動している。

 気配を消し、刀身を常に研磨し、修復するそんな魔法。


 ここで重要となるのは気配を消すという点。


 魔法が上手く使えなくとも、発動する効果を常時得られる。


 魔法に関しては全くの初心者であろうと、魔法と似たような効果を得ることが出来る、それが魔石の利点。

 欠点は、魔法が使えているように感じてしまうということ。


 魔法を発動するために必要な魔力、形式、条件。


 それらを知らないまま使えてしまう魔法のような効果。それがもたらすのは、この世界における魔法技能の低下である。


 実際に自分が魔法を苦労して行使して、得られる普通の効果と魔石によって容易に得られる高い効果。


 その両方を経験してしまうと、何故苦労しているのに魔法が力を発揮しないのか、何故自分で魔法を編み出す必要があるのかという疑問にはまる。


 疑問は、魔法と言う物に努力する意味を見失わせる。


 まぁ、この魔石というのは絶対数がそもそも多くはない。


 ゆえに、これは大きな問題にはなっていない。


 だが、これは本来使うべきではない物のようにも、俺は感じていた。NPCたちの扱いなどが全く分かっていない今の段階では。


 俺のようなプレイヤーは魔物を倒し、経験値を得て、成長することによって、魔法等を習得しているわけだから、例外としても。


 だが、今は緊急時。使わざるを得ないだろう。

 そう、その高い隠密性が発揮されれば、どんなにエイダが回復に徹しようがヘイトが彼女に向くことはない。

 ゲームでは普通攻撃を受けたことによってその魔物のターゲットがその攻撃者に向くが、たまに知能が高い魔物が前衛を支える後衛から潰そうと考えることがあるのだ。


 それだけは避けなければならない。

 それが起きてしまっては、おそらく勝てなくなる。


「それで、気配を消すことが出来る。だから、それを持った状態で、サポートに専念してくれ」

「分かりました。でも、それだとあなたが……」


 俺に攻撃が集中する。

 俺一人で、攻撃を受けることになる。


 俺一人が前線で、ドラゴンと相対することとなる。


「分かってる。そのためのサポートだ。それとあなたって堅苦しい呼び方はやめて、一条とでも蒼真とでも呼んでくれ」


 そう、分かっていた。


 それゆえのパーティー。


 俺はこのアルタートラウムで初めてのパーティーが組めていて、良かったと思う。


 あとは、彼女の魔法の腕。


 NPCはプレイヤーとは異なり、自力で魔法という物を学習し、その上で習得していくことを俺は知っている。


 だが、魔物を倒して、成長して魔法を使えるようになるのか、ならないのか、それを知らない。


 とは言え、この世界の人間としてプレイヤーも扱われている以上、それに則り、NPCも魔物を倒すことで成長することが出来るようにも考えられる。


「……任せて、蒼真」


 俺は信じることにした。

 たとえ、どれだけの魔法の技量であろうと、回復役がいるのといないのとでは大きな違いだ。


 一人では、おそらくこのドラゴンは倒せない。


 回復なしで倒せるように、ノーダメージで戦うことが出来るかというと、先のハイゴブリンとの戦いでもあったように、魔物は思わぬ行動をするので、不可能と言える。


 そう、回復役はいなければならない。


「龍狩りと行きますか」


 これは穏便に済ませられることではない。

 そう分かっているからこその言葉。


 その言葉に恐怖はないと言えば、嘘になる。


 だが、やらなければならない、そんな使命感、任されたことを果たそうとする思いがあるからこそ、俺は進む。 


 移動しながら、身体強化の魔法はかけておいた。ゆえに、旅人の服と言う薄っぺらい防具であろうと、問題はないはずだ。


 今、ここにあるのは、文字通り、鋼のような硬度を持つ肉体。

 その硬度を持ちながらも、柔軟に動かすことが出来る肉体。

 俊敏に稼動する肉体。


 ハイゴブリンの時の二の舞は踏まない。

 そして、策がないのかと言うとそうでもない。


 正式配信後、初めて死という恐怖に立ち会って、その上で気づけたこともある。

 こうしたら良くなるんじゃないかと思えたことがある。


 人は成長する。


「行くぞ」

「はい!」


 二人は進む。

 もう目の前にはドラゴンの姿。あとは、ドラゴンをひきつけ、俺は戦いに専念し、エイダはサポートに専念するだけ。


 異世界初のパーティー。


 それで行う最初の戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。


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